継ぐをつなぐ。「家業を継ぐ人」のためのコミュニティ

家業イノベーション・ラボ 発起人対談

家業イノベーション・ラボは、NPO法人ETIC.の佐々木健介さんとNPO法人農家のこせがれネットワーク兼株式会社みやじ豚代表の宮治勇輔さんを中心として立ち上がったプロジェクトです。

家業イノベーション・ラボのはじまりは、2016年12月にNPO法人ETIC.で開催されたイベント「Social Impact for 2020 and Beyond」 でのテーマ別ラウンドテーブルにて「ファミリービジネス」(=家業)を取り上げたことがきっかけです。

このラウンドテーブルは、養豚業を営む家族とともに新会社を立ち上げ、全国の家業を持つ方々にとって一つの新しいモデルにもなっている宮治さんが中心となり、これからのファミリービジネスを考えるディスカッションを行いました。その場で生まれたのが、家業を持つ若者を応援する”家業イノベーション・ラボ”のアイデアであり、2017年8月には実際に若者を集めて家業について語り合う合宿を行いました。

今回の対談では、プロジェクト発起人である宮治さんと佐々木さんに、家業イノベーション・ラボの立ち上げの経緯や想い、今後の構想についてお話を伺いました。

“自分らしく・楽しく”家業を継ぐサポートのできる場所を。

宮治さんは養豚農家を営む家庭で生まれ育ち、2006年に養豚業をベースに起業しました。生産だけでなく、育てた豚肉をその場で食べられるバーベキューイベントを開催したり、ネットショップを運営したり、まさに家業をイノベートした形で事業を推進しています。今回の家業イノベーション・ラボを立ち上げるにあたっては、どのような課題意識があったのでしょうか?

宮治さん「僕は株式会社みやじ豚の他に、都心で働く実家が農家の方(農家のこせがれ)のためのコミュニティであるNPO法人農家のこせがれネットワークの代表もしています。家業を持つ若者は、別の土地で別の仕事についていても、頭のどこかにずっと”家業”の存在があります。継ぐか継がないか、継ぐにしてもどうやって継げばいいのか・・悩みは尽きません。僕は、NPO法人農家のこせがれネットワークを通して農家を継ぐ人を増やせないかと、六本木のお店で自らが生産した農産物を食べるお客様を前に農家がトークライブを行える「農業実験レストラン」のプロデュースに参画したり、デベロッパーとのマルシェの運営や、旅行会社と連携してガチンコ農業ツアーを企画したり、農業以外の分野のプレイヤーと組むことで農業との新しい関わり方や魅力を発信してきました。

ですが、いざ農家のこせがれが実家に帰って家業を継いでも事業がうまくいかない・経営が低迷してしまうケースが存在するのも確かです。NPOでの様々な活動やみやじ豚の経営を通して、家業にまつわる根本的な問題は”事業承継”であることに気がつきました。

*事業承継の図

この図では、大きく4つの事業承継の形が示されています。先代の事業形態をそのまま踏襲するのではなく、家業の強みを改めて考え、時代や後継者の得意分野や関心に合わせて従来の事業形態をイノベートし、自分らしい家業の形をつくりだすことが大切なのです。そこで2015年9月に、「農家のファミリービジネス研究会」を立ち上げ、家族経営の魅力や事業承継の円滑な進め方などを話し合う場をつくりました。また、JA全農と”事業承継ブック”をつくって全国に配布したり、農林中央金庫と事業承継研修プログラムを開発して実施するなど、ファミリービジネスと事業承継に特化した支援活動を始めました。」

家業を中心に動き出す、地域コミュニティ

NPO法人ETIC.では、全国各地で起業家向け支援を行なっています。例えば東日本大震災を機に立ち上がった「震災復興リーダー支援プロジェクト」では、被災地で事業に取り組むリーダーのもとに「右腕」となる意欲ある若手人材を派遣するなど、地域を盛り上げるための様々な活動を行なっていますが、”家業”に可能性を感じたのはどのような理由なのでしょうか?

佐々木さん「日々全国を回って自治体の方々とお話していると、やはり地元企業の事業承継の話題はよく上がります。地域を豊かにするために地域の外から大きな企業を誘致すると、新規雇用が一気に拡大するなど地域にとって良い面もありながら、その分、地域を支えてきた既存企業の担い手が減ってしまう可能性もあります。地域独自の産業の衰退もさることながら、その担い手が、実は地域のお祭りなどの行事を引っ張っていた人物だったり、消防団のメンバーだったり、地域コミュニティの中心的存在だった、というケースは珍しいことではありません。そのような現場を目にしながら”地域の未来を支えていく事業とはどのようなものか?”について改めて考えてみると、地域に根ざした産業の継続がとても大切だということを実感しました。

これからは、規模や生産性をどんどん上げていく拡大型の経済ではなく、それぞれの地域の魅力ある資源を発掘し、活用しながら事業を続けていく経済の考え方が重要です。もともと地域独自の文化やコミュニティを作ってきた、核のような存在である家業をベースに地域経済を盛り上げていけるのであればそれに越したことはありません。家業を持つ若者たちが、悩みながらも”自分たちの力で自分たちの住む地域を引っ張っていく!”というモチベーションを持つのであれば、ぜひ応援していきたいと考えました。」

2017年を、ファミリービジネスのコレクティブインパクト元年に!

2017年8月に「実家が家業を営んでいること」を参加条件とする若者向けのキャンプを開催しましたが、このキャンプはどういった経緯で開催することになったのでしょうか?(キャンプの様子をお伝えしているレポートはこちらから

宮治さん「僕はこれまで農業分野に特化した活動を行ってきましたが、もちろん他にも様々な家業の領域があります。実は、日本は世界的に見てもファミリービジネスが多い国で、法人の97%がファミリービジネスです。そして、200年以上続いている長寿企業数はダントツ世界一で、二位のドイツと比べても二倍の差があります。当然その大半はファミリービジネスです。しかし、家業がメディアに取りあげられるケースの多くは「お家騒動」で、家業に対するネガティブなイメージが強いです。家業を継ぐ人が少なくなるのは日本にとって非常に大きな損失です。家業は自分次第で「かっこよくて・感動があって・稼げる3K職業」にできるし、ゼロから起業するよりもリスクがなく自分らしい事業を生み出せるんだという魅力と可能性を伝えることで、家業へのネガティブなイメージを払拭したいと考えていました。

そのためには農業という業界単位で活動していてはいけないと思い、2016年11月にETIC.が開催したイベント「Social Impact for 2020 and Beyond」 で「ファミリービジネス」をテーマに話し合う場を企画しました。そこで生まれたのが、合宿形式でとことん家業について語り合う、家業イノベーション・キャンプのアイデアです。
2016年はJA全農や農林中央金庫と農業界の抱える問題を解決するべくプロジェクトを実施しました。業界で最も大きな組織も、うちのような小さなNPOと力を合わせて活動するようになったと個人的には感慨深く、これは農業界にもコレクティブインパクトの波が押し寄せてくると感じました。今また家業イノベーション・ラボをはじめて思うことは、2017年をファミリービジネスの領域でのコレクティブインパクト元年にしたい!ということです。」

佐々木さん「 ETIC.では東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年を、 社会や人の生き方が進化した契機であったと未来の歴史に残していくために、 様々な領域のリーダーのみなさんと多様なアクションを起こしていきたいと考えています。2016年のイベントでは、全国各地、学生から起業家、行政、大企業まであらゆる分野・業界から多様なプレイヤーの方々に集まっていただき、従来の発想を進化させ、ビジョンを共有するための議論の場を多く設けました。

ファミリービジネスのラウンドテーブルもその一つで、宮治さんから日本のファミリービジネスの現状について様々な話がありました。家業を持つ若者が日本中に多くいるということは、潜在的な起業家が多くいるということにもつながります。その若者たちに向けて、 ETIC.のこれまでのノウハウやネットワークを通じて何か一歩を踏み出すお手伝いができれば、地域の経済や暮らしを後押しする大きなインパクトにつながるかもしれないと強く感じました。家業イノベーション・ラボ本格始動の後押しをしてくれたのが、法人・中小企業向けの保険を提供するエヌエヌ生命のみなさんです。今年のキャンプは、エヌエヌ生命の皆さんにご支援をいただいて開催することができました。」

家業イノベーション・ラボの可能性とは?

キャンプを経て、新たに感じた今後の可能性はありますか?

健介さん「家業を持つ・持たないに限らず、今の若者と話していると、起業・独立志向が高いことがわかります。キャリアを考える上で1つの企業への就職を前提として考えず、就職は単に選択肢のうちの1つ、という意識を持つ若者が増えつつあります。それに加えて、家業を持つキャンプの参加者は自分の話だけではなく、家族や地域を大事にする意識が高いのが印象的です。家族や地域全体の未来、家業の業界の未来なども視野に入れながら、自分のキャリアを設計しようとする若者が非常に多くいました。高校生や大学生が主な参加者でしたが、非常にレベルの高い議論が行われ、シンプルにとてもすごいことだと思いました。彼らの自己実現を応援することは、単に一つの起業を支援するということを超えて、その先の家族、地域、それぞれの家業の業界等、様々な側面からインパクトを及ぼす可能性があると強く感じました。」

宮治さん「”家業のイメージが180度変わった!”と言ってくれた子もいましたが、家業を継ぐって実は本当に様々な可能性があるということを少しでも伝えることができてよかったですね。骨を埋めるくらいどっぷりと地元や家業にコミットする、ということももちろん一つの家業の継ぎ方ですが、地元に戻らずに東京にいながら家業を支援する方法もあるでしょうし、別の会社を立ち上げながら家業と連携するやり方もあるでしょうし、現状の家業の事業のうちどれか1つを昇華させた新会社を立ち上げるというやり方もあります。今までの”家業”のやり方にとらわれ過ぎず、本当に自分自身が価値と感じることを軸にした家業との付き合い方を広めていきたいですね。」

2017年12月に100名規模のフォーラムの開催、翌年4月にはフォーラム及び8月のキャンプ参加者のフォローアップイベント、その他年数回勉強会を開催するなど、家業を持つ若者を応援する様々な企画を用意しています。今後の取り組みにもご注目ください!