家業×つくばのテックでつくる未来~家業イノベーション・アイデアソン ~第一回開催(前半)

「家業×つくばのテックでつくる未来」

長引く梅雨空が明け、連日の猛暑が日本列島を襲う8月4日。日本の最先端の技術が生まれる学術・研究都市のつくば市で開催された「家業×つくばのテックでつくる未来」では、外の熱気に勝る熱量で参加者たちの未来に向けたディスカッションが繰り広げられました。

「家業×つくばのテックでつくる未来」は、未来への懸け橋となるつくば市を舞台に、家業イノベーターたちが抱える課題を業界の垣根を超えた経営者や学生らがそれぞれのアイデアを持ち寄り、解決に導くという試みです。会場となったのは、近くの筑波大学の学生たちも足を運ぶ「up Tsukuba」で、ここではあらゆる人たちがつながり、新しいチャレンジをサポートすることを目的として運営されています。

それでは、今後、新しいサービス、新規事情発掘の可能性を予感させる「家業×つくばのテックでつくる未来」の第1回イベントの模様をリポートします。

本イベントの進行を務めていただくのは、「スタートアップウィークエンド」の認定ファシリエーターであり、ご自身も3代目として家業を継いでいる株式会社タイセーの常務取締役・岩城良和さんです。岩城さんは創業50周年を迎える家業を継ぎつつも、スタートアップ企業の顧問を務めたり、数々のイベントの講師なども担う、稀有な存在。岩城さんも当初は家業を継ぐことは考えてもいなかったそうですが、映画製作会社などの職を経て、モノづくりへの興味から株式会社タイセーの一社員となりました。現在は家業の業績をアップさせるだけでなく、国内外の企業と共にモノづくりに励んでいます。

その岩城さんの進行のもと、登場したのは6人の家業イノベーターたちです。この6人はこれまで「家業イノベーション・ラボ」で開催したイベントの中で出会った方たちで、ただ家業を継ぐのではなく、ITを含めた技術の導入など、新たな視点で家業を見つめ直すきっかけになればと参加していただきました。まずは彼らの得意分野を伺うと共に、次なるチャンレジ、次の一歩に向けてのアイデアを募っていきます。

ただ承継するのではなく、自分らしさを発揮していくために

一人目は明治大学農学部に籍を置く池田航介さん。ご実家は沼津市内で青果物の卸業を営んでおり、いずれは家業を継ぐ予定です。そのために農業を学んでいるそうですが、最近の関心事はフードロス問題だといいます。昨年9月には、研究室から出る規格外の野菜を消費させるために「子ども食堂」を立ち上げましたが、今後は一般顧客にも開放し、ビジネスとしてフードロス削減につながるように仲間たちを計画し、取り組んでいます。

二人目の鈴木みどりさんは、父が開発した米ぬか繊維を守るため、5年前に実家のある奈良へUターンし、家業の靴下製造三代目後継ぎとして奮闘しています。奈良県は国内の靴下製造の60%を占める一大産業。鈴木さんは、この産業の中で自分らしさを加えたイノベーションを起こし、多くの人々に喜んでもらいたいと、新商品の開発などに取り組んでいます。その鈴木さんがチャレンジしたいこととして掲げたのが、サーキュラーエコノミーを考えた商品の循環です。米ぬか繊維を使った自社の商品が未来に優しい繊維として循環させる術を模索しています。

次は、名古屋で店舗プロデュース業を営む母の元で育ち、昨年から家業の一事業部として東京を拠点に「DINING+」というスタイリングに特化した事業を展開している山本美代さんです。山本さんは地球環境にやさしい商品の開発に興味を持っているそうで、大量に消耗品を廃棄するホテルのアメニティに着目し、現在、竹歯ブラシを開発中。今回の参加について山本さんは、つくばの技術や専門知識が加わることで、自分たちにはない視野のケミカルが起こることに期待しているといいます。

続いては、栃木県さくら市でゴルフ場を運営する株式会社セブンハンドレッドを継いだ小林忠広さんです。業界最年少で父の後を継ぎ、「みんなが幸せを実感できるゴルフ場」を目指し、既存の業界の枠に捉われない仕組みづくりに奔走しています。たとえば、ゴルフ場での屋外イベントやフットゴルフ、ドローン練習場など、従来のゴルフ場としての機能を超えた変革を進めています。そんな小林さんが課題として掲げたのは、もちろん、ゴルフ場を使った新しい取り組みのヒントを得ること。場の提供だけではなく、1日約100人、月にすると約2500人が利用するお客さまたちと何かできないか。ゴルフ場を通じて、変化の起点となるアイデアを求めています。

5人目は、九州・福岡県朝倉市で創業114年目の畳屋を家族で営む、徳田畳襖店の4代目後継者でありながら、平日は畳職人、週末は畳屋ラッパーとして活躍する徳田直弘さん。令和元年より吉本興業株式会社に所属し、「福岡県住みます芸人」として畳業界や地方を盛り上げる活動の一環で、食用イグサを使った「畳あめ」を作り、話題となりました。そんな徳田さんの想いはひとつ。“畳で日本を元気にすること”。食物繊維が豊富で和のスーパーフードといわれる食用イグサの活用と、畳を作るときに出る廃材の活用を軸に、日本を元気する知恵を求めて参加しました。

最後は、家業イノベーションラボ実行委員の宮治さん。神奈川県藤沢市で養豚業を営んでいます。工業化が進み大規模生産が常識である養豚業界において、宮治さんはみやじ豚のブランド化をはかり、月100頭と限られた数を出荷する非常に珍しい存在です。毎月、地元の観光農園で開催するBBQイベントなどを通して少しずつその評判は広がっていき、法人化から14期目を迎えています。また家業の傍ら、農業を家業する子どもたちにその魅力と可能性を伝えると共に、事業承継をサポートするNPO法人農家のこせがれネットワークの運営にも携わっています。今年、初めて新入社員を採用したという宮治さんにとって、現在のビジネスを次の世代にどのように伝えていくかが目下の課題だといいます。