〈家業イノベーション・クエスト2018一日目〉家業を継ぐ意味を問い直す

未来の家業イノベーターが集う「家業イノベーション・クエスト2018」。今回は1泊2日の合宿形式で、13人の若者たちが家業イノベーターと語り合いました。

今回のテーマは、「クエスト」という名の通り、「冒険」・「探求」。自分の内面を「冒険」し、向き合うべき問いやその答えを「探求」することが目的です。また、その過程で、参加者同士が互いの違いや多様性から学び、良い関係性を構築することが期待されました。

初日は、主催者の一人、株式会社みやじ豚代表取締役・NPO法人農家のこせがれネットワーク代表理事宮治勇輔氏の話でスタート。午後は、家業イノベーターへの訪問でした。

宮治氏は、家業が「地域の文化・伝統・歴史を次代につなぐ」役割を持っていること、家業の固有性・模倣不可能性は企業間競争を生き残るうえでの強みとなる、として、家業を持っていることの価値を強調しました。

一方で、「親の代のビジネスモデルで、自分の代まで食えるというのは甘い考え」であり、「真の事業承継とは、敷かれたレールの上をただ走ることではない。自分の天命を知り自らその道を選び、自分らしく事業をイノベーションすることだ」と述べ、「真の事業承継」とは何か、という重い課題が参加者に投げかけました。

受動的に家業を受け継ぐのではなく、先代の事業の価値を活かしつつ時代に合った形にビジネスを変革することが必要だという、宮治氏のメッセージ。「事業承継の本質とは、価値を生み出すために価値あるものを受け取る。超友好的な、乗っ取りである」(宮治氏)と述べ、その方法について次のマトリクスを使い、具体的に紹介しました。

後継者の継承戦略①〜④

 現在の事業新しい事業
現在の会社①一般承継戦略②新事業戦略
新しい会社③新会社戦略④創業戦略

(参考:宮治氏スライド)

宮治氏ご自身は、家族経営の養豚業を継ぐ際、上図②の新事業戦略(毎月のみやじ豚バーベキューでのマーケティング)と、③の新会社戦略(みやじ豚のブランド化と、ロスの出ない、いわゆるドロップシッピング(drop shipping : 産地直送)モデルの導入に着手したといいます。参加者たちは食い入るように話に聞き入っていました。

午後の家業イノベーター訪問は、二つのグループに分かれて行いました。1グループは、リカー・イノベーション株式会社代表取締役社長の荻原恭朗氏、もう1グループは、プランティオ株式会社代表取締役の芹澤孝悦氏に話を伺いました。

参加者は、現在活躍されている先輩家業イノベーターの話に興味津々の様子。「イノベーションの内容」「イノベーティブなアイディアの源泉」「先代や古参の従業員とのコミュニケーション」「家業を継ぐ前に一般企業に就職すべきか」といったことについての質問がどんどん飛び出しました。

荻原恭朗氏は、家族経営の酒屋の4代目。市場が少しずつ縮小している酒屋の何かを変えないといけないと感じていました。しかし、先代の従業員たちが人生をかけて作り上げた会社という作品を壊し、彼らがやってきたことを無理に変えるのを望まなかった荻原氏。関連会社としてリカー・イノベーション株式会社を創業しました。酒業界について何もわからないまま、会社を発展させたい一心で、店舗・卸・メディアを運営し、酒の製造から販売までを担うビジネスモデルを構築しました。

家族に楽をさせたい、従業員を輝かせたいという熱い想い、ユニクロ・サントリーという一流のファミリービジネスを目標として見据えていること、酒の新しい価値を創造するために試行錯誤を繰り返すこと、酒蔵や卸先の飲食店との交渉に飛び回ること、経営ノウハウを吸収するため経営者を訪ね歩くこと。このような、荻原さんの大きなビジョンや発想力、行動力に対して、参加者からは「感銘を受けた」「自分は到底及ぶことができない」などといった感想が聞かれました。

「農協への卸売りに依存してきた家業の在り方を変えたい」と考えていた農家を家業に持つ男性は、情報ツールを活用した荻原さんの手法に大きな関心を寄せました。

プランティオ株式会社の代表取締役 CEO & Founderの芹澤孝悦氏は、日本で初めてプランターを開発した会社の3代目。開発当時は、すぐに安価な類似品にとってかわられてしまい販売が激減。しかし、「長く続いた企業には理由がある」と芹澤氏は言います。家業の持つ本来の価値に気づくことが大切だということです。

芹澤氏は、祖父が開発したプランターを再定義し、IoTを導入して「Smart Planter™」という製品を開発、ビルの屋上を利用して分散型農業を行うことを提案しています。しかし、「IoTはカルチャーがないとワークしない」(共同創業者であり出資者でもある孫泰蔵氏)との言葉通り、どんなに洗練された技術を取り入れても、使う人の視点を理解できなければ売れる商品は作れないということです。

そこで、芹澤さんはスマホのアプリを使ってゲームのようにアグリカルチャーをコミュニティで楽しむ仕組みを作りました。「unlearn(ゼロベースで既成概念を取っ払うこと)で見えてくる本質を現代に合う形に再定義すれば、未来は見えてくる」という自身の言葉を実践しているのです。参加者の一人、国の研究機関に努めていらっしゃる女性が、芹澤氏の「輸出できる土」の開発はありえない速さだと驚いていました。芹澤氏は、自分は農家でないからこそシンプルに考えた結果、開発出来たと話していました。

13人の参加者は、年代、業種、状況、悩み、それぞれ多様でしたが、初日のアクティビティを経て、一つ先のステージに進むことができたようでした。

家業をすでに継いで新事業開発にとりかかっている人も、家業を継ぐかどうかまだ決められていない人も、最後には「先代とのかかわり方」「自分のとるべき立場は、労働者か経営者か別会社経営か」「先代の生み出した価値を基盤に、新しい価値を創造するにはどうすればよいか」「家業に対するモチベーションの保ち方」といった問いを設定し、夜遅くまで議論を重ねました。参加者にとって、向き合うべき課題、解決すべき問いが明確になったことは、大きな前進です。