家業×つくばのテックでつくる未来~家業イノベーション・アイデアソン ~第一回開催(後半)

遠慮はいらない。それぞれに意見を出し合うことが重要

それぞれの持ち時間を最大限に生かしたプレゼンが終わると、次は会場に訪れた参加者たちが興味のある家業イノベーターにヒアリングし、一つのチームとなって課題解決のためのディスカッションを行います。参加者は、最年少となる高校生を筆頭に、筑波大学でデザインを学ぶ大学生や一般企業に勤める会社員、そして、自身も家業を承継し課題を抱える経営者の方たちで、その多くはこのイベントを通して何らかの学びを期待して参加したといいます。3時間にも及ぶグループディスカッションで、果たしてどんな意見が交わされるのか。さあ、いよいよディスカッションスタートです。

どのグループも初対面とは思えないほどテーブルは終始賑やかで、よいアイデアが浮かんだのか、時折、笑い声も聞こえてくるほどです。参加者の皆さんは家業イノベーターたちの課題を自分のことと捉え、活発な意見、アイデアを出し合っているようで、ディスカッションの時間もあっという間に終了です。

そして、いよいよ各グループによる課題の見直しと解決に向けたアイデアを披露する時間がやってきました。当初は6グループによる発表だったのですが、なんと、急遽、1グループが派生して誕生するという想定外の展開に。でも、この自由度の高さが「家業イノベーション・ラボ」の醍醐味。さまざまな情熱が掛け合わされることで、想像をはるか超えたアイデアが生まれる可能性があるからです。

それでは、各グループによる発表をご紹介!

解決への道筋を見つける、まさに第一歩

最初に発表するのは畳屋ラッパー・徳田さんによるグループ。プロジェクト名を「Activation Juncus」と題し、イグサの活用方法を模索することで課題解決へと道筋をつけました。食用イグサは食物繊維が豊富で身体に良いことはすでに分かってはいるものの、まだ広く周知されているとは言い難い現状を前に、徳田さんらはダイエット挑戦者をターゲットにスポーツジムとコラボしてイグサを使ったサプリメントの開発を考えました。そして、もう一つ、廃棄イグサの活用についてはその独特の香りに着目し、日本酒とセットにすることを考案。たとえば、桐箱にイグサを敷き詰め、そこに高級日本酒を入れるなど。最近は海外でも日本酒は好まれており、“日本らしさ”満載の贈り物としてもニーズがあるのではないかと考えました。

続いてはフードロスを課題に掲げた池田さんグループです。みっちり議論を交わした中で残り15分でまとまったという内容は、実家に残る大量の大型冷蔵庫を活用するというプラン。この大型冷蔵庫を利用し、規格外野菜や沼津で採れた新鮮な魚を提供するレストランを開くというものです。大型冷蔵庫という、まさに規格外のお店で美味しい食事が楽しめるプランは、魅力溢れる沼津に+αのエンターテイメント性を加えてくれるのではというものでした。

3組目はみやじ豚の宮治さんを囲むグループ。宮治さんの課題は、月による販売量や部位にばらつきがあることと、BBQ参加者とオンライン購入者との相互性がないこと。そこで、今、購入してくれるお客さまたちをコアなファンとするため“みやじ豚トンバサダー”の創設プランが出ました。はじめにファンコミュニティサイト「トンバサイト」を立ち上げ、登録したファンに向けてBBQへの招待などの特典を設けるほか、投稿レシピを募ったり。みやじ豚に関わる生産者と消費者、そして、取り扱い店舗がつながる場、コミュニケーションを育む場を作るというものです。

次はエコロジカルなホテルアメニティを作りたいと考えている山本さんグループの登場です。プロジェクト名は「Eco Amenity Circulation」。エコロジカルな素材として知られる竹は、日本国内にたくさんあるものの、それを利用してモノを作り・加工する術がないことが最大の課題であると山本さんは言及。現在、山本さんが取り組んでいる竹歯ブラシは中国での生産を進めているそうですが、今後は大学の研究室などを訪ね、国内でも生産できる体制を模索していくとのことです。その中で理想のアメニティを体現してもらうホテルを運営できないかとなり、話はホテル1棟の購入へと広がっていきました。山本さんは、今回は竹にこだわらず、エコなアメニティを提供する理想のホテルを作るという、壮大な解決策を考えています。

続いて、小林さんグループの登場なのですが、なんと、ここでグループが2つに派生するという想定外の出来事が。そこで、まずは、小林さん自らグループディスカッションの結果を披露することになりました。小林さんが注目したのはゴルフ場を訪れるシニア層です。現在、この世代は高齢による危険運転の可能性や老後2000万円問題、突然死へのリスクと課題を抱えています。それらの課題を解決するために、ゴルフ場やレストラン、駐車場を活用しながらアクティブシニアのデータを取得し活用することで、健康や幸せになるサービスを行うというもの。多くのデータをとることで、人生100年時代の中のアクティブシニアのロールモデルの応援につなげていきたいと小林さんはいいます。

そして、7つ目のグループとして急遽登場した福地秀太郎さんは、茨城県日立市で住宅資材の販売を行う株式会社八千代商事の代表を務めています。家業を継ぐため実家に戻り、業績の悪化であえぐ家業の経営の立て直しを図り、現在は黒字化に。ただ、この成功体験が足かせとなり、次の一歩を踏み出せずにいたそうで、そんな福地さんを見かねた奥さまが今回のイベントに誘ってくれたそうです。福地さんが掲げたプロジェクト名は「八千代商事大改革ファーストステップ」。福地さんは、卸先である工務店の減少や大工さんたちの高齢化などもあり、これから先も今と同じような経営状態を維持することは難しいといいます。そこで、同社が取り扱う資材の中の木材の魅力をもっと多くの人たちにPRしていくこと、また工務店のその先にいるエンドユーザーにもっといい商品をPRするためのアクションを、このイベントを通じて考えていくと決意表明。今後、福地さんのプロジェクトがどのような進化、変化を遂げるのか、期待が高まります。

そして、最後はサーキュラーエコノミーを課題として提示した鈴木さんグループです。プロジェクト名を「TASUKI」とし、今後、ますます高齢化が進む介護業界において、喜びや励み、思い出となる靴下の循環を考えました。具体的には、鈴木靴下で購入した履き古した靴下を回収し、それを小学校の掃除用に雑巾やモップに変えることができないかというもの。実際に運用するためにはさまざまな検討事項をクリアしてく必要がありますが、鈴木さんたちは次の世代につなげていくこと、循環していくリサイクル方法を模索していくようです。また、靴下の製造過程ででる端材を高齢者の方たちのレクレーションにつなげていく方法も検討したいと話してくれました。

すべてのプロジェクトの発表が終わり、ファシリエーターの岩城さんは「承継者は孤独です。社員に新しい施策を話しても日々の業務で余裕もなく、誰も聞いてくれない。でも、こういう場があると同じような承継者と繋がれて、新規事業に役立つようなアイデアやヒントがもらえます。そうするともう孤独ではありません。だから、どんどん繋がることをおすすめしたいですね」と締めてくれました。

今回のイベントは家業イノベーターたちが抱える課題を解決するため、業界や年代の垣根を越えてアイデアや知恵を集い、新しい事業や取り組みが生まれることに期待するものです。今後も各グループが問題解決に向けて意見を交換しあい、また他ジャンルの経営者や学生などを巻き込んでさらにパワーアップを図ることも可能です。今回のグループからさらに派生して、新しいプロジェクトが立ち上がる可能性も考えられますので、皆さん、乞うご期待!

なお、本イベントは12月まで月1回開催を予定しているので、今後もプロジェクトの進捗状況など詳しくリポートしていく予定です。