(後半)家業×つくばのテックでつくる未来~家業イノベーション・アイデアソン ~2019報告会 開催

4人目は、徳田さんとのコラボレーションも検討している株式会社みやじ豚の宮治勇輔さんです。宮治さんは「家業イノベーション・ラボ」を共同運営するNPO法人「農家のこせがれネットワーク」の代表も務めています。

宮治さんは、独自のBBQマーケティングにより、「みやじ豚」を神奈川県でも有数のブランド豚に押し上げました。「みやじ豚」の美味しさの秘密は、小頭数の豚を丁寧に育てていること、麦やイモ、コメをブレンドした餌へのこだわり、そして、単一農場単一生産者のため品質にばらつきが生まれないことなどがあげられます。この「みやじ豚」の魅力や、これまでの養豚業とは異なる運営・販売手法は、多くのメディアでも取り上げられました。

2020年9月1日に創業15周年を迎える宮治さんですが、今回のアイデアソンには経営者として、また共同運営者として「家業イノベーション・ラボ」の素晴らしさを伝えたいという思いと、そして「協力者を得る」ために参加しました。現在、宮治さんの会社は生産部門と販売部門に分かれていますが、販売部門は宮治さんとパートの方の2人体制です。そのため、なかなか共に考え、動いてくれる人がいない状況でした。

宮治さんは目下の課題として、「新規顧客を得るために何をしたらいいのか」を参加者たちに問いかけました。その後行われたディスカッションでは、今、「みやじ豚」に必要なのは、「新規顧客」ではなく、「既存のお客さんにもっとみやじ豚のことを知ってもらい、ファンになってもらうことではないか」と問いかけられたのです。これは宮治さんに新たな気づきをもたらしました。その後の発表では、「みやじ豚のファン=トンバサダー」に対するコミュニティサイトを作るプランが出されましたが、そもそも既存のウェブサイトが古くて使い勝手も悪いことに気づいた宮治さんは、まずはつくばのエンジニアやデザイナーたちと自社サイトのリニューアルに取り掛かることを決意しました。

リニューアルにあたっては、みやじ豚の価値を改めて見直し、その価値の可視化を試みる宮治さん。新しいウェブサイトでは、卸先である飲食店に向けて、さらには個人のお客さんに向けて、「みやじ豚」の魅力を分かりやすく伝えていく予定です。

最後は、名古屋で店舗プロデュース業と割り箸やおしぼりなど消耗品の卸業を営む株式会社豊和の2代目である山本美代さんです。

山本さんは、2018年に飲食店やホテルなどの器などのスタイリングを手がける「DINING+」を家業の一事業部として立ち上げ、現在は東京を拠点に活動しています。その一方で、サスティナビリティな取り組みも始めており、参加前には環境に優しい竹を用いた歯ブラシの開発が進んでいました。

この竹製歯ブラシは、山本さんにとって初めて取り組むモノづくりです。プロトタイプはすでにできてはいるものの、今後、どうやってユーザーに訴求していくか、マーケティングや販売戦略、さらには、ブラシやパッケージなどの細かい仕様も大きな課題でした。

第1回のプレゼンで竹製歯ブラシのプロトタイプを披露した山本さん。その後のディスカッションでは、参加者からさまざまな質問が飛び交いました。社内のスタッフでさえ懐疑的な取り組みに対して、初めて顔を合わせた参加者たちが強く興味を示したのです。

アイデアソンの参加者たちに勧められて、全く想定外だった実用新案も取得。また、当初はホテルを主な販売先とするビジネスプランを描いていましたが、「まずは一般顧客に向けて販売し、ブランディングを確立したほうがいいのでは?」とアドバイスを受け、山本さんはビジネスプランを変更しました。

実はこのアドバイスが後に非常に役立つことになりました。回のコロナ禍でホテルの稼働率が激減する事態になったからです。まさに一歩間違えれば、竹製歯ブラシの製造そのものがピンチになるところでした。

今回のアイデアソンに参加することで、自身も見落としていた数々の課題を一つひとつクリアしてきた山本さん。今後は、竹製歯ブラシだけではなく、建築も消耗品もサスティナブルなものに変えていけるようにチャンレジを続けていくと決意を語りました。

思いがけない出会いが面白い化学反応を起こさせる

「家業イノベーション・ラボ」にとっても初めての試みとなる、今回の「家業×つくばのテックでつくる未来~家業イノベーション・アイデアソン~」は、家業の課題を解決し、さらにアップデートへとつなげるものになりました。

家業承継者はいわゆる起業家とは少し状況が異なります。周囲からの期待によるプレッシャーと、先代から働くスタッフたちとの埋めがたい距離感があり、常に孤独との闘いでもあります。創業から15年を迎える宮治さんでさえも「協力者」を求めて参加しました。初めて出会ったにも関わらず、家業イノベーターたちが抱える課題を自分のもののように捉え、アドバイスやサポートを惜しまないその場は、山本さんにとって「商品開発室」のようだったと振り返りました。現役大学生である池田さんには、先輩経営者たちからのエールと共にビジネスとして確立していくために必要な知恵が授けられました。当初は「スポーツ」と「テクノロジー」の組み合わせに頭をひねっていた小林さんは、「健康」というひとつのテーマを加えたことで、新たなビジネスチャンスを掴みました。そして、徳田さんは筑波大学でデザインを学ぶ現役の大学生とタッグを組み、畳業界全体を盛り立てるべく、新しい取り組みに意欲的にチャレンジしています。

今回の報告会をもって、2019年の「家業×つくばのテックでつくる未来~家業イノベーション・アイデアソン~」は終了となりましたが、2020年、新たな家業イノベーターたちによるアイデアソンがスタートします。家業イノベーターたちとの交流はもちろん、新たな事業のきっかけと出会いの場として、誰にも予想ができない化学反応に大いに期待を寄せたいと思います。

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