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「”病院が作る街づくり”スキームを輸出する」
姫野病院 姫野亜紀裕院長 その2

2018.7.3

少子高齢化と人口減少。日本の医療は今深刻な環境変化に晒されている。そうした中、新たなビジネスモデルを模索し、挑戦し続けている経営者がいる。人口約2万人。福岡県八女郡広川町の姫野病院姫野亜紀裕院長がその人。5月上旬、私たちは九州に飛んだ。 (その1はこちら)

(聞き手: 安倍宏行 ジャーナリスト ”Japan In-depth”編集長)

階層構造を壊せ

姫野氏は組織はビジョンを掲げてそこに向かって進んでいくものではないという。

「そもそもビジョンを持って何かを目指していくこと自体もどうかなと思うのです。自然に流れのままに職員たちが自分たちの頭の中で発生したものを結果的に実現していくということです。私が『こういうふうにするぞー!』と言ってみんながついてくるんじゃ、結局ピラミッド構造のままじゃないですか。目指すのは新規事業も職員が考え出して、勝手に始まるというものです。医療と介護から発想を離れるというのは割と難しいと思うので。」

果たして従業員が自発的に新たなものを生み出し、組織に貢献してくれるようになるものなのだろうか?

「ならないと思います。階層構造があれば上司にお伺いたてますよね。で、上司に『はあ?』みたいなこと言われて終わるケースが多いですよね。従業員のポテンシャルが阻害されています。上司に権限と義務が集まりすぎなのです。要は最終決裁を社長がするっていう構造になっているのです。」

ほとんどの組織がピラミッド構造だろう。それを変えるにはどうしたらいいのか?姫野氏の考えていることは革新的だ。

「それを打破するためには、決裁権を放棄しなければいけないと思っています。でもそうするためには、会社の財務構造とか全体像を従業員が知らないといけないので、すべての情報に従業員がアクセスできる状態じゃないとそれは無理だと思います。」

姫野氏によると、損益計算書とキャッシュフローと、貸借対照表に職員は誰でもアクセス出来るようにし、誰がいくら給料もらっているのか、会社の人件費率は何%なのか、わかるようにする必要があるという。

姫野氏がこうした発想を持ち始めたのは実は2、3年前のことだ。それまでは職員をどう効率よく動かしてコントロールするかしか考えてなかったのだが、コントロールすればするほどモチベーションが下がるという事態に直面した。その時TED(注1)に出会った。

「ブラジルのセムコっていう会社のリカルド・セムラーさんの話をTEDで聞いて、目が覚めたのです。ほぼルールなしで会社を経営する方法っていう話です。」

単なる理想論かもしれない。しかし、組織をどう活性化させるかは、すべての企業にとって最大の課題だ。人口減に直面する地方の病院の院長がここまで真剣に考えていることに少なからず衝撃を受けた。では姫野氏はどんな人材を求めているのだろうか?

「医者は年収が高いので集めるのは難しいですね。今はまだ。でもそれを取り巻くほかの産業っていうのは別に医者じゃなくてもできますので。」

単なる従業員のやりがいとか福利厚生という発想ではない。姫野氏は病院を核とした街づくりを考えているようだ。更に話は、経済システムや組織論にまで広がっていく。

つまり、病院経営以外のビジネスで人を呼び寄せようというのだ。確かに自分のやりたいことが出来るなら最先端のスキルを持つ人が集まりそうだ。その先に姫野氏は何を見ているのだろうか?実は氏の夢は日本に止まらない。

街作りの輸出

「”病院が作る街づくり”というスキームを海外に移植するということですね。あとは医療・介護からスタートした別の製造業でもいいし、コンサル業でもいいし、そういったスキームを作って、ほかの全国の病院とかに売り出すとか、世界の別の病院や介護システムに売り出すとか、そういうものですよね。

ちょっとしたアイデアから生まれたニッチな製品なんかを作る、製造業でもいいんです。病院とか介護は地域のものですけど、補助輪として全国展開できるようなものと、両立でやっていくっていう姿ですね。描いているのは。」

若き経営者はまさしくイノベーターだった。従来のビジネスの枠組みにとらわれない自由な発想。それを地域の最大幸福と結び付けようとしているのは革新的だ。さぞかし人脈を駆使して情報を集めているのだろう。だが聞けば、なかなか人材交流のイベントには参加できないという。では、情報はどこから?姫野氏に聞いたら淡々とこう答えてくれた。

「基本、ネットとか本ですね。」

注1)TED
価値のあるアイデアを世に広めることを目的とするアメリカの非営利団体。様々な人の革新的なスピーチがネット上で視聴できる。