「地域のために何ができるか」、創業時のマインドを繋ぎ未来を作る。

雄大な高原が広がる大分県久住町から、全国に新鮮で美味しい卵を届ける「有限会社グリーンファーム久住」。1964年、地域振興の一助にと平飼いの養鶏業を始めた祖父から事業を継いだ父が、1992年に会社を設立。創業当時からの思いを守りながら、社長である父とともに地域や会社、社員の未来のために奮闘を続けるのが次期後継者となる荒牧大貴さん。荒牧さんは、大学卒業後人材コンサルティングの会社に入社し、2年前家業を継ぐためにUターンしました。今回は荒牧さんが家業を継ぐことに決めた経緯や、地域や社員への想い、今後の展望について伺いました。

アメリカで見つけた“自分にしかできない”こと

――子どもの頃からいずれ家業を継ぐんだという意識はありましたか?

継ぐとは思ってなかったですね。私は元々パイロットになりたいという夢があったんです。レールもなければ、上下左右自由自在に飛べる感じが、縛られたくない、自由でいたいという自分の性格的なものと合ったんですね。でも生まれつき目が悪かったため、免許を取れず。そのまま当時興味があった政治のことを学ぼうと東京の大学に進学し、卒業後は東京で人材コンサルティングの会社に就職しました。

――パイロットという夢を諦めて、東京で就職されたんですね。そこから地元に戻ろうと思ったきっかけを教えてください。

それが諦めようと思っても諦めきれなかったんです(笑)。アメリカで目の治療ができるという話を聞いて、2ヶ月間休職し向こうに治療へ行きました。シェアハウスに住みながら目の治療を受けていたのですが、そこで出会った人たちがみんな自由で面白くて。日本を離れて自分自身に向き合う時間を取れたことで、本当に自分がやりたいことはなんなのか、できることはなんだろうと考えるようになったんです。2代目である父の年齢や結婚のこと、地元のことを考え、養鶏の事業をずっと営んできた荒牧家の事業を継いでいくことこそが自分がやるべきことだと気づき、会社を退職。2年前に家業を継ぐ決意をしました。

――継ぐという決意を話したときの両親の反応はいかがでしたか?

親は「やりたいようにやれ」というスタンスだったのですが、会社の今後の成長を考えて若手社員を意識して採用していたそうなんです。今社員の過半数は20代30代ですし、それを知ったときは嬉しかったですね。

戸惑いと葛藤を超えて、社員のための会社作りを

――継ぐと決めた時のモチベーションと、実際に家業に入ってからのモチベーションにギャップはありましたか?

半年間は低空飛行でしたね。最初は何をすればいいかがわからず主体的に動くことができなかったり、前職の切磋琢磨する社風を懐かしく思ったり。鶏のことも卵のこともわからない、だから学ばなきゃというプレッシャーも感じていたんです。もちろん知識は必要ですが、社長の方針としても「業界のいろんな取り組みを知ったあとで、会社のやり方を学びながら、外からの目を持って自分なりの方法を見つけてほしい」というのもありましたので、自分が果たしていくべき役割は何だと考えるようになりました。それから、会社の社員一人ひとりがしっかり能力を発揮できる会社を運営するのが自分の仕事だと気づいてからは、楽になりましたね。

――帰ってきてから2年、荒牧さんが担ってきた業務について教えてください。

私はプラス1をプラス10に変えるのではなくて、マイナスの物をプラス1に変える、そういう作業が得意なんです。良い商品があるのに、うまくブランディングできていない、そこを整理してプラスを増やしていこうと、ホームページの制作やパッケージデザインの変更、パンフレットの制作などを行いました。ホームページは対外向けのプロモーションというのもあるんですけど、インナーブランディングも意識していて。今働いている社員やこれから入る人に、地域振興を目指す会社のビジョンやイメージを具体的に持ってもらえるように制作しました。またこれからは社内制度を見直していきたいと思っています。

――社内制度はどういった部分を見直していくのですか?

企業理念の策定と人事の仕組みや研修の見直しです。インナーブランディングにも繋がりますが、地域のための会社ということがまだ浸透していないと思うので、今はない企業理念を作ることで働く上での指針を作りたいと思っています。

私が目指している会社の姿の一つに、「社員がそれぞれの特性を活かしながら楽しく働ける場所にすること」があります。それを実現するためには仕事の割り振りや社内の雰囲気作りなども必要ですが、「生活が安定する給与水準を守る」ことも大事なことの一つだと思っています。働きながらお金についての気がかりがあったり、これをしたら給料が上がるからやる、給料が変わらないからやらない、などの動機で働くのではなく、自分の会社という「帰属意識」や仕事への「責任感・達成感」、「それに見合った給料」という3つのバランスが取れる組織を目指して、社員が生き生きと働ける会社を作っていきたいですね。

地域を担う企業として

――「グリーンファーム」さんの興りは、地域振興を担うためでもありましたよね。地域のためにこれからどんなことに取り組んでいきたいですか?

「グリーンファーム」が地域のためにできることは、一つは雇用の安定と、雇用を増やすことだと思っています。人が働きたい会社にして、社員が幸せになって、その幸せの輪を広げていくために雇用を広げていく。事業を拡大したいから雇用するのではなく、雇用したいから事業拡大していきたいと思っているんです。だからこそ自分たちの商品に付加価値をつけて、販路を広げること、社内制度を見直していくことの必要性を感じています。ただ経営者としての知識や経験は私が持っていない部分もありますし、お互いの得意分野を生かしながら、社長と一緒に会社をブラッシュアップしていきたいですね。