北海道の水産仲卸の1日に密着!「家業後継者と巡るオンライン社会科見学 vol.2」を開催しました。

10月1日に、北海道の水産仲卸会社である一鱗共同水産株式会社の1日に密着するツアーをオンラインにて実施しました。当日は家業後継者3名と、一般申込の参加者を合わせ10名以上が参加しました。

ツアーは、一鱗共同水産株式会社 営業部長 本間雅広さんの1日に密着した動画を20分ほどにまとめたものをメインで流しながら進行し、社内の様子や通常2階からしか見学することの出来ない札幌市中央卸売市場内での仲卸の仕事を披露していただきました。

消費者からは「見えない仲卸」の仕事

通常、水産業における仲卸の仕事は、「競りで卸売業者から海産物を買い受けること」「競り落とした海産物を、小売業者や飲食店などに販売すること」の2つがあります。水揚げされた海産物が中央市場に到着し、それを卸が競りにかけ、仲卸が卸から買い取り、小売店や飲食店等の取引先へと商品が流れていきます。

このことからも分かるように一般の消費者と仲卸には接点が無く、中々その取り組みが認知されることがありません。しかし仲卸である一鱗共同水産は、長年市場で海産物を売り買いしてきた経験で培われた確かな「目利き力」を活かし、消費者の見えないところで、少しでも新鮮で、質の高い海産物を届けようと戦っています。

少しでも安く、新鮮な魚を仕入れる

仲卸の朝は早く、午前3時を過ぎたころにはオフィスを出て市場に向かい、市場に到着するとすぐに仕入れの商談を開始します。仲卸の取り扱う商品の販売先は、小売店や飲食店への直接の販売だけでなく、小売店や飲食店と取引のあるバイヤーを経由する場合もあるそうです。市場に到着後すぐに、まずは小売店からの直接の注文分の商品の発送を準備します。

小売店から直接発注を受けた商品の発送の様子

そして午前6時頃になると、海産物の価格を決める「せり」が行われます。せりでは、新鮮な良い品質の物を少しでも安く買うために仲卸が一斉に値段を出しあい、最も高い値段をつけた業者が購入します。

値段は後出しが出来ない一発勝負の場で、会社を代表して参加する本間さんも、非常にプレッシャーのかかる瞬間だと話していました。ツアーの中では、せりの際の駆け引きの方法など裏話もあり、参加者からも驚きの声が上がっていました。

競り落とされた海産物はバイヤーが商品を仕入れに来ます。そのバイヤーとのやり取りも相手によってコミュニケーション方法を使い分け、やわらかいコミュニケーションをとった方が良い場合や、丁寧な話し方で進めた方が良い場合等複数使い分けると話されていました。

市場に上げられた海産物がどのようなプロセスで値付けがされ、皆さんのもとに届くのかだけでなく、他の仲卸との駆け引きやバイヤーとのやり取りなど、リアルな商売の場を見られたことで、普段は見えない仲卸の面白さに参加者も引き込まれているようでした。

せりに参加する本間さん

魚の目利きのプロが語る、美味しい魚の見分け方

バイヤーとのやり取りがひと段落してから、本間さんによる鮮度の高い魚の見分け方の説明がありました。鮮度の良さは、目利きの際に重視するポイントの一つで、その見分け方も魚の種類や部位によって異なります。

例えばハタハタは鮮度が悪いと表面にザラつきが出る、キンキ(カサゴ目カサゴ亜目フサカサゴ科に属する深海魚)であれば通常赤い色ですが、エラや身が白くなってくる等の違いがあります。

鮮度の高い魚を少しでも安く仕入れためには、水揚げされる魚それぞれの見分け方を熟知する知識だけでなく、長年培われてきた「選魚職人」としての目利き力が欠かせません。動画の中でも、その目利き力を活かし「新鮮な魚を少しでも安く買い、少しでも安く売る」ことを徹底することの重要性について触れられていました。

エラと身が赤く、新鮮なキンキ

その後も魚卵等を扱う塩魚卵課や加工製品を扱う製品課、高級魚をと取り扱う高級課等の販売所を見学していきました。鮮魚だけではなく、開きにされた魚や味付けされた加工商品も仲卸では取り扱っており、あらゆる海産物を広くカバーしている様子が伺えました。

マグロのせりの様子も見せていただき、競り落としたマグロを市場内で大きな包丁で捌いていく様子は十分な見ごたえがありました。マグロは通常、捌いて中身を見るまで良いマグロかどうかを見分けるのは難しいそうなのですが、尾の部分や全体の形、とれた漁港等の産地、取れた場所の気温等を参考に購入するそうです。もちろん目利きが外れることもあるらしく、働く職員の顔からも毎日が真剣勝負という様子が強く伝わってきました。

競り落としたマグロを解体される様子

消費者から「見える仲卸」の仕事へ

市場での仕事が終わり次第オフィスに戻り、社内の設備や社員食堂等を公開していただいた後、後継者である本間さんからのメッセージで動画は締められました。メッセージの中で、「古き良きものは残し、これからの時代に合わせて変えられるものは変えていく」と、今後のイノベーションへの意欲を語っていただきました。

本記事の冒頭でも書いたように、通常消費者と仲卸には接点が無く、その役割が理解されにくい傾向にあります。しかし、本間さんはこれからの時代に向けて、「見える仲卸」を目指していく事を重視されています。一鱗共同水産は、その目利きをよりダイレクトに消費者に伝え、直接認知されることで「選魚職人」としての自社のブランディングに挑んでいます。今回のツアーもその一環として実施されました。

また、令和2年2月にはリゾット専門店や夜パフェ専門店を経営する株式会社GAKUとコラボし、一鱗酒場という大衆酒場をオープンさせました。水産仲卸が飲食店を出すという取り組みは異色に聞こえますが、「新鮮な魚を少しでも安く買い、少しでも安く売る」を徹底している一鱗が目利きした海産物が材料として使用されており、リーズナブルな価格で美味しい料理を食べる事が出来ます。

目利きした魚を一鱗酒場に搬入する本間さん

今回のツアーでその一端が見えましたが、水産仲卸は実態が十分に認知されていないこともあり、まだまだ面白い要素が公開できるポテンシャルを秘めています。「見える仲卸」のこれからがどのように展開されていくのか、引き続き家業イノベーション・ラボでも注目していきます。

ツアー参加後の参加者の様子

▼一鱗共同水産株式会社ホームページ

https://www.ichiuroko.co.jp/

▼一鱗酒場紹介ページ

https://www.ichiuroko.co.jp/ichiuroko-sakaba/

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