【イベントレポート】家業イノベーション・ラボ Year End Event 2025

2025年11月22日(土)、渋谷スクランブルスクエアにて「家業イノベーション・ラボ Year End Event 2025」が開催されました。

幹事を担ったのは、家業イノベーション・ラボ(以下、家業ラボ)メンバーであり、株式会社ボイスクリエーションシュクル 経営戦略室長の佐藤直さん。全国各地から家業ラボメンバーの家業後継者・経営者、のべ30名が集い、2025年を締めくくるにふさわしい、濃密であたたかな時間となりました。

このイベントは、別名「望年会」とも呼ばれています。

一年を“忘れる”のではなく、未来を“望む”ために集う場。その名の通り、今年のYear End Eventは、単なる年末の交流会にとどまらず、それぞれが家業とどう向き合い、どんな未来を描いていくのかを、言葉にし、共有し、確かめ合う一日になりました。

佐藤さんにとって、このイベントには特別な意味がありました。

ご自身が家業ラボに出会った原点も、2022年の「望年会」。全国の後継ぎと出会い、つながり、自分自身の視野がひらかれていく感覚を味わったあの場を、今度は自分の手でつくりたい。そんな想いから、今年のYear End Eventが立ち上がりました。

実行委員として伴走した片山さんも、企画段階から「これは神イベントになる」と確信していたと言います。5月に開催された「家業イノベーション・ラボ in 湘南」に続き、今回も大切にされたのは、“当事者が本当に価値を感じる場”であること。

その思いは当日、確かな手応えとして会場に満ちていました。

オープニングは、佐藤さんによる「声磨きワークショップ」から

イベントの幕開けを飾ったのは、佐藤さんによる「声磨きワークショップ」。

家業ラボのイベントでは、一方的に話を聞くだけでなく、自ら声を出し、対話し、場をともにつくることが重視されています。そこでまずは、身体をほぐし、声を出し、空気をあたためるところからスタート。会場には明るい声が響き、はじめは少し緊張していた参加者たちの表情も、自然とほころんでいきました。

キーノートで語られた“家業を変える覚悟”

第一部は、側島製罐株式会社 代表取締役の石川貴也さんによるキーノートからスタートしました。

1906年創業の側島製罐は、スチール缶・ブリキ缶の製造販売を手がける老舗企業。石川さんは金融機関で約10年の経験を積んだ後、2020年に家業へ入社し、2023年に代表取締役に就任しました。

講演の冒頭で語られたのは、家業に入った当初に直面した厳しい現実でした。

当時の会社は長期的な売上減少に直面し、社内にも閉塞感が広がっていたといいます。そうした空気の中で、既存事業の下請け構造が続き、挑戦が生まれにくい状況になっていました。

そんな状況の中で石川さんが向き合ったのは、単なる業績改善ではありませんでした。問い直したのは、“どんな会社でありたいのか” という根本です。

「良い会社には良い人が集まるはず。まずは自分たちの仲間や会社のことを心から誇れるようにしよう。」

そうした考えのもと、側島製罐では全社員でMVV(Mission / Vision / Value)を共創。

Missionに「世界にcanを」、Visionに「宝物を託される人になろう」を掲げ、組織文化そのものをアップデートしていきました。

さらに、指示命令型のマネジメントを見直し、社員一人ひとりが主体的に挑戦できる組織づくりへ。自己申告型報酬制度や、社員が“小さな経営者”としてプロジェクトを動かしていく仕組みなど、さまざまな取り組みが紹介されました。

こうした事業変革を通じて、会社は徐々に活気を取り戻し、事業面でも新たな成長の兆しが生まれているといいます。ただ、参加者の心に最も残ったのは、そうした成果そのもの以上に、石川さんが語った”人としての軸”だったのかもしれません。

「肩書も社会的地位も、人間的な魅力とは何の関係もない」

「自分はいったい、誰の人生を生きているのか?」

そんな問いを、自身の人生の揺れや迷いとともに率直に語る姿に、多くの参加者が深く共鳴しました。佐藤さんも、石川さんの講演をこう振り返ります。

「石川さんのお話は、どの言葉にも実践と哲学があり、参加された皆さまからも『自分の家業との向き合い方を考え直した』という声が多く寄せられています。多くのアトツギの心に確かな勇気を与えていたように感じました。」

参加者全員で挑んだ、5分ピッチ

石川さんの講演後は、参加者全員による5分ピッチへ。

自己紹介に加えて、自社の家業のこと、そして「今年の一大ニュース」をそれぞれが発表しました。

業種も地域も、事業フェーズもさまざま。だからこそ、一人ひとりの話に、その人ならではのリアリティがありました。順調な挑戦だけでなく、うまくいかなかったことや迷いも含めて共有されることで、場の温度はますます上がっていきます。

アンケートでは、「みなさん新規事業などに積極的で、失敗・成功体験ともに開示いただいてありがたかった」「色んな家業があって、色んな挑戦をしている人たちがたくさんいるんだなと知れた」「様々な取り組みを知ることができ、自分自身も取り入れて挑戦したい」といった声が集まりました。

一方で、「ピッチは準備必須!次回よりしっかり準備したい」といった率直な振り返りもあり、この場が単なる発表の場ではなく、次に向けた学びの場として機能していたことも印象的でした。

ワークショップで、2025年を振り返り、2026年を望む

後半は、「2025年の振り返りと2026年の展望」をテーマにしたワークショップ。

家業の悩み、難しさを感じたポイント、新規事業への挑戦、地域との連携、そして家族経営だからこそ抱える葛藤。そうしたテーマを1対1で交換し合いながら、それぞれがこの一年を振り返り、来年の一歩を言葉にしていきました。

この時間に際立っていたのは、家業という共通言語があるからこそ生まれる対話の深さです。地元のビジネスコミュニティではなかなか共有しづらい悩みも、ここでは自然に言葉になる。そして、共感だけで終わらず、「自分もやってみよう」と思える具体に変わっていく。そんな力が、この場にはありました。

アンケートでも、「自分一人が苦しいわけじゃなく、みんなそれぞれ苦しみがある」「家業を継ぐ重みを改めて感じた」「前向きに家業と向き合っている人たちに勇気をもらった」「自分もまだまだ勉強が必要だと思った」といった声が並びます。

中には、「年末の脳内整理ができた」「もはやパワースポットです」といった表現もあり、このイベントが知識やノウハウの共有だけでなく、感情面でも参加者を前に進める場になっていたことが伝わってきました。

イベント後は、懇親会へ

イベント後は懇親会も開催。

セッションの中では話しきれなかったことをさらに深めたり、「今度会社を訪問したい」「同じ業界の人ともつながりたい」といった次のアクションの話につながったりと、交流は最後まで尽きませんでした。

アンケートでも、「新たなつながりをありがとうございました」「家業持ちの人と交流できて、新しい刺激をもらった」「色んなアトツギがいてとっても居心地がよかった」といった声が寄せられています。

参加者の声  ※事後アンケートより抜粋

今回のアンケートからは、このイベントが単なる出会いの場だけではなく、共感と勇気と実践意欲を持ち帰る場だったことがよく伝わってきました。ここでは、その一部をご紹介します。

「ロジ運営、本当にお疲れさまでした!時間管理から巻き込みまで素晴らしい運営で感動でした」

「すばらしく無駄のないスケジュールでした」

「MCうまかったです!」

「石川さんのお話はじめ各社が取り組まれている組織文化の作り方。『浸透よりも共感』、今日のパンチラインですね!」 

「家業を継いだ皆さんがそれぞれの苦労があること。とりわけ斜陽産業における引継ぎのお話を聞けて良かった」 

「自分一人が苦しいわけじゃなく、みんなそれぞれ苦しみがある」 

「皆、様々なバックボーンを有しながら家業と向き合っている、しかも前向きに。共感するポイントでした。勇気をもって一歩前に。」 

「初めて参加いたしました。皆さん事業に真摯に取り組んでおり、素晴らしい仲間ができる(できそうな)集まりだと感じました」 

「非常に刺激的でした。有難うございました」 

「プラスのパワーをいただきありがとうございました。もはやパワースポットです。」 

また、今後に向けた期待としては、「AIの使い方共有会」「会社を巡るツアー」「メンタリングの機会」「今回のような事例講演を増やしてほしい」といった声もあり、コミュニティへの期待の高さがうかがえました。

“めぐり会い”がつないだ、家業の未来

Year End Event 2025は、“家業は閉じた世界ではなく、めぐり会いの外側に未来がある” という家業ラボの価値観を、全身で体感する一日となりました。

家業の悩みも、挑戦も、迷いも、ここでは「共有できる言葉」になる。

誰かの実践が、誰かの勇気になる。

そして、その勇気がまた、次の挑戦を生み出していく。

アンケートに並んだ言葉の数々から見えてくるのは、このコミュニティがただ学びを得る場所ではなく、後継ぎたちが自分の現在地を確かめ、未来を望み直す場所だということです。

今年生まれたつながりと学びは、きっと2026年の挑戦へとつながっていくはず。

次回の再会が、今から楽しみです。