家業イノベーション・ラボ × JAPAN BRAND FESTIVAL ヨーロッパ市場に向けた循環可能な商品開発クラフトソン キックオフイベントレポート

新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、国際交易の機会が著しく減少した今、日本企業の海外進出へのモチベーションも下がり、それに呼応するかのように海外のJAPAN BRAND需要にも陰りがみられます。また同時に経済活動にも変化が現れ、従来のリニア型経済システムでは「廃棄」となっていた製品や原材料を新たな「資源」と捉える動きが活発化。世界中で廃棄物を出さず、資源を循環させるサーキュラーエコノミーに注目が集まっています。

このような状況下において、家業イノベーション・ラボは、海外で活躍する優れた人材を介し、日本の品質と海外のクリエイティブを融合させ、サーキュラーエコノミーをテーマにした商品開発と海外販路開拓を支援する、短期集中型プロジェクト「ヨーロッパ市場に向けた循環可能な商品開発クラフトソン」(以下、クラフトソン)を始動しました。 このクラフトソンは、JAPAN BRANDに情熱を傾ける人々が出会い交流しながら、日本発のプロダクトやサービスの発展を支援する「JAPAN BRAND FESTIVAL」とのコラボレーションにより行うもので、家業イノベーション・ラボとしても初の試みです。目指す市場は、家業イノベーション・ラボを共催するエヌエヌ生命保険株式会社のルーツがオランダにあることからヨーロッパとし、新たな商品の誕生をサポートしていきます。

新たな出会い、発想に期待を寄せる4社が集結

今回のクラフトソンにはものづくりに携わる4社が参加します。

最初の1社は、岐阜県瑞浪市でタイル釉薬を製造する株式会社玉川釉薬のプロデューサー、玉川幸枝さんが立ち上げた合同会社プロトビです。玉川さんは職人である姉と家業の玉川釉薬を継ぐ一方、唯一無二の色ムラのあるタイルを提供するタイルブランド「TILE made」をプロトビで運営しています。今回は、家業の釉薬を使ったタイル製造の新たな販路開拓と海外展開のアイデア、そして、一緒に行動できるパートナーを探したいと参加しました。

2社目は、富山県高岡市を拠点に金属着色を行う有限会社モメンタムファクトリー・Oriiです。銅器製造が盛んな高岡市において、同社は厚さ1㎜以下の薄い銅板に着色する技法を生み出し、現在はテーブルウエアから建築資材のほか、銅板の柄をプリントした布を用い、アパレル業界にも進出しています。キックオフイベントでは同社を代表して堀内茉莉乃さんが登場し、「新しい発想を得たい」と参加意欲を語ってくれました。

3社目は、富山県南砺市で明治10年から絹織物業を営む、株式会社松井機業の6代目見習いの松井紀子さんと渉さんご夫妻です。松井機業は糸を織ることだけではなく、2016年から飼い始めた蚕のために餌となる桑畑の土づくりからこだわっています。現在は生地だけではなく、二頭の蚕で作られた一つの繭から紡ぎ出す玉糸を織り上げた「しけ絹」の壁紙やオリジナルブランド「JOHANAS(ヨハナス)」を立ち上げ、「細胞レベルのよろこびを。」をコンセプトにオリジナルグッズの開発にも着手し、伝統工芸の新たな可能性に挑んでいます。

最後は、福岡県朝倉市の徳田畳襖店です。4代目の徳田直弘さんは、衰退の一途を辿る畳業界を盛り上げるべく、平日は畳職人として、週末はラッパーとして活動しています。畳や襖などの張替だけではなく、畳素材を用いたバッグや雑貨も販売しており、昨年発売した九州博報堂とのコラボレーション商品「リモート畳」は、巣ごもり消費の需要もあって注目を集めました。徳田さんは従来の常識に捉われず、柔軟な思考でチャレンジを続けています。

ヨーロッパ市場にマッチするサーキュラーエコノミーなものづくり

2021年8月5日に行われたキックオフイベントでは、今回のクラフトソンにローカルアドバイザーとして参加していただく、「MONO JAPAN」のディレクターの中條永味子さんをゲストにお招きしました。

「MONO JAPAN」は、オランダを拠点に日本のクラフトやデザイン性の高いプロダクトに特化した展示・即売会を開催しており、ヨーロッパ市場における日本製品の流通に精通しています。そこで、中條さんからヨーロッパでますますニーズが高まるサーキュラーエコノミーの現状を学ぶとともに、海外展開に向けた具体的なアドバイスを提供していただきました。

これまで日本企業の海外進出の糸口となったのは、世界の主要都市で開催される国際見本市などの展示会への出展がほとんどだったと話す中條さん。企業はその場で現地のバイヤーや販売代理店に商品の魅力を伝え、新たな販路を開拓する足掛かりとしてきました。

しかし、昨年から今年にかけてヨーロッパ各国は軒並みロックダウンに見舞われ、展示会はおろか、街中の店舗の営業もままならない日々が続きました。オランダも例外ではなく、多くの人はオンラインショッピングに移行し、メーカーや小売業も続々とECサイトを立ち上げていったそうです。

展示会を中心に運営してきた「MONO JAPAN」も、現在は月に1回、オンライン「受注会」を開催し、無駄な製造、無駄な破棄、無駄な輸送を減らすよう考慮した、まさにサーキュラーエコノミーな取り組みを行っています。さらに、今後はこれまで培ってきたネットワークを駆使し、日本のメーカーとオランダのデザイナーたちがコラボレーションできる、独自のプラットフォームをオンライン上に構築する予定だそうで、海外渡航が難しい状況下でも海外進出を可能とする、新たな足掛かりとなるでしょう。 さらに、中條さんはコロナ禍におけるヨーロッパ市場の変化を話し、その中で海外展開のために必要なポイントを話してくれました。また、バイヤー目線で「今、海外で売りたい日本のもの」を挙げ、最後は「どんな取り組みでもいいので、海外に目を向けて経験値を増やすことが大事」だと締め括りました。

続いて登壇したのは、今回のクラフトソンにアドバイザーとして参加するデザイン会社「BCXSY」のファウンダー兼デザイナーのボアズ・コーヘンさんです。ボアズさんはパートナーの山本紗弥加さんとオランダを拠点に活動しており、日本の建具職人を始め、世界各国のメーカーやブランドと協業し、さまざまな作品やプロダクトを手がけています。その中には、今回のクラフトソンのようにファミリー企業とのコラボレーションも多く、ボアズさんは自由な発想やアイデア、最新のテクノロジーをデザインに落とし込み、歴史ある商品に新たな魅力を与えています。 この日、ボアズさんは日本のメーカーと協業する上で望むこととして、「PASSION(情熱)」「PRIDE(プライド)」「VALUE(価値)」の三つを掲げ、解説してくれました。この三つのポイントを念頭にボアズさんは、今後、4社の商品開発について、デザイナーの視点で助言やヒントを送ります。

限られた時間内であらゆる可能性を探る

キックオフイベントの9日後の8月14日には、4社が自社商品の課題と仮説を整理した事前リサーチを発表するワークショップDay1を開催し、翌15日には、Day1の内容をもとにアイデアを可視化し、実際に商品の製作計画書までを作成するワークショップDay2を開催しました。この2日間のワークショップで導き出された4社のプロジェクトは、後日開催されるアイデアコンテストで審査され、そこで選ばれた1社がデザイナーとの協業のチャンスを掴みます。

今回のクラフトソンは、我々の想像を遥かに超える本格的かつ難易度の高いプログラムです。海外展開だけではなく、商品開発のプロセスを知る上でも大いに参考にしていただける内容となっていますので、乞うご期待ください!