家業イノベーション・ラボ × JAPAN BRAND FESTIVAL 欧州進出支援プログラム 「Craft Runways 2022」 オンラインヒアリングレポート 

海外デザイナーや現地生活者の視点を介して、海外展開における自社の提供価値の“再発明”(=再定義)を行い、コンセプトのアップデートや商品・サービスのアイデアを立案していく「Craft Runways2022」。目指す市場は、欧州市場のゲートウェイともいえるオランダです。 

8月10日、本プロジェクトの一環として、オランダの方たちにジャパンブランドに対するイメージや、参加事業者が強みとするプロダクトに対するニーズを探るオンラインヒアリングを開催しました。 

オランダの”今“を知ることで理解度を深める 

今回のオンラインヒアリングに参加したのは、海外展開に向けた商品開発にチャレンジしたいとエントリーした3事業者の皆さんです。 

1社は、愛知県名古屋市で張り箱専門店を営む「株式会社野村紙器」。明治40年に創業した同社は、現在は貼り箱だけではなく、その技術を活かして引き出しや鞄といった多彩な紙製品を作っています。それらは職人が一つひとつ手作業で行っていますが、残念ながら、日本では貼り箱=安いというイメージがあるそうで、野村さんは「今回は新たなプロダクトを作り、そのイメージを払拭したい」と意欲を語りました。 

また、大阪市で木彫彫刻の製造を行う「株式会社木彫前田工房」は、岸和田で有名なだんじりの山車を手がけていますが、近年はインテリアや身近な生活用品として楽しめる木彫り商品も製作しています。前田さんは、「日本酒の需要が高まっているこの機会に、本当の日本の文化に触れて欲しい」と、同社の商品の一つである「升」を海外の方に提案したいといいます。 

最後は、茨城県土浦市で人形製造や「人形屋ホンポ」を運営する「株式会社成島」です。創業97年目を迎える同社は、年間1万件にも及ぶお客様のアンケートをもとにデータ分析を行い、顔のパーツなどをデジタル化。そのテクノロジーと伝統技術を融合させ、顔や衣装や飾り方の組み合わせだけで100万通りの中から選べる雛人形や五月人形を提案しています。また、海外の伝統的な人形制作や、アニメとのコラボ制作なども積極的に行っています。 

今回、エントリーした3事業者の共通点は、国内での需要が減少傾向にある中、改めて既存事業を見直し、代々受け継いだ技術を用いて新たなプロダクトに展開していることです。彼らは次のチャレンジを海外と定め、今回のプロジェクトに参加してくれました。 

そんな3事業者の皆さんの質問に答えるのは、「家業イノベーション・ラボ」を共催する「エヌエヌ生命保険株式会社」のオランダ人社員2名です。 

1人目は、広報部に所属しながら、自社のブランディングをはじめ、ユーザービリティを考慮したコーポレートサイトのUI/UXデザイン、社内用アプリ(Maxima)、SPO(社内ポータル)など、会社のさまざまなデジタルプロダクトやオウンドメディアの改善を担当するプロダクトデザイナーのチェルシー・ウィンケルさん。そして、もう1人は、同社のCEOをサポートするアキラ・ハーフェルマンスさんです。アキラさんは在日オランダ商工会議所の会長でもあります。現在は日本で暮らしていますが、オランダとのコミュニケーションは頻繁に行っており、日本とオランダのビジネスにも精通している2人が、今回のヒアリングに参加することになりました。 

的確なアドバイスが海外展開を後押し 

トップバッターとして登場した野村さんからは、「オランダで貼り箱は使われているか?」「紙製品についてどう思う?」といった質問が寄せられました。 

残念ながら、オランダでは日本のように貼り箱を生活に取り入れる習慣はあまりないそうですが、2人は同社の引き出しや鞄などのプロダクトを見て、「オランダでも受け入れられる可能性はある」と話しました。しかも、オランダはヨーロッパの中でもサスティナビリティへの関心度が高く、「紙はプラスチックに変わる素材として注目されている」といいます。また「日本製の品質の良さは多くの人が認めており、それだけのバリューはある」と嬉しい言葉も寄せられました。 

続いて、前田さんからは「オランダで木製品はどのように取り入れているか」といった質問のほか、自社商品の相場観など具体的な質問が上がりました。 

オランダの人たちは、一般的に木材の家具やオブジェ等を好む人が多く、そういったものにコストを掛ける人も少なくないそうです。ただ、それでも今回の升は「個人が購入するには少しハードルが高い」と話す2人は、「レストランなど飲食店の方が興味を引くのでは」と回答を寄せました。というのも、ここ最近、オランダでも日本食レストランをはじめ、日本をイメージしたインテリアのレストランが増えているらしく、「アプローチ先を見極めれば可能性はある」と話してくれました。 

成嶋さんは、まずは伝統技術に最新技術を融合し、今の時代にフィットする商品を作るという、自社の取り組みについて感想を求めました。 

2人とも「そのコンセプトはとても大切だと思うし、オランダの人たちは日本人よりもそれらを意識している国民性」だと話しました。しかし、オランダでも人形を飾る習慣は減っているそうで、チェルシーさんは「動物やアニメのものであれば流行りそう」と答えました。さらにオーダーメイドの可能性を尋ねると、「まずは日本の文化が伝わるものや一番自信のあるものを販売して認知度を上げ、そこで人気が出たらオーダーメイドを提案していく方がいいのでは」とアドバイスを送りました。 

多くの気づきをもたらしたオンラインヒアリング 

コロナ禍でなかなか現地に足を運べない今、今回のオンラインヒアリングは現地のニーズを知る貴重な機会となりました。さらに海外展開に向けた的確なアドバイスも寄せられ、3事業者の皆さんにとっても多くの気づきがもたらされたようです。 

この後、本プロジェクトはオンラインワークショップDay1へと進みます。今回のオンラインヒアリングの気づきをもとに、3事業者の皆さんは改めて自社の商品価値を掘り下げ、新たなアイデアを見つけていきます。果たして、どのような成果が得られるのか。その様子は次回のオンラインワークショップDay1レポートでご紹介いたします。