「グローカル家業」を目指そう!オランダは欧州市場へのゲートウェイ!STEP2 :「オランダから学ぶ欧州展開のカギとメンタリティー」イベントレポート 

2022年1月、「家業イノベーション・ラボ」は、家業を担い、その中で新たなイノベーションにチャレンジする家業後継者たちをサポートする「海外進出支援プログラム」をローンチさせました。1月26日のSTEP1に続いて、3月16日にSTEP2(オンラインセミナー)を開催。 

STEP2では「オランダから学ぶ欧州展開のカギとメンタリティー」をテーマに、両国の違い、オランダの商習慣、日本の家業進出のポイントなど、より深い内容に迫りました。 ファシリテーターは前回に引き続き、海外リサーチやマーケティングを行う株式会社TNCの代表取締役社長・小祝誉士夫さん。ゲストにはオランダ(アムステルダム)在住のライターでフォトグラファーのユイキヨミさん、オランダ(ライデン)で静岡茶の卸売業を営む鈴木隆秀さん、そして、オランダに造詣が深い桜美林大学リベラルアーツ学群教授の堀潔さんの3名にご登壇いただき、海外進出を考える家業後継者の方々を対象に、質疑応答を交えたミーティング形式で行われました。 

「本質を問い続けること」がオランダの革新性の源 

セッション1ではユイさんに、「オランダと日本の違い」から学ぶ発想の転換とイノベーションについてお話いただきました。ユイさんはオランダ在住34年、1990年代より現地でライターとして活動されています。クリエイターたちへのインタビュー経験も豊富で、彼らの話を通してオランダの国民性や思考の傾向を長く考察してこられました。セミナーではユイさんから見たオランダ人の「メンタリティー」「デザイン観」「革新性」の3つについてご紹介いただきました。

まず、オランダ人のメンタリティーには「自律の精神」「実利的・合理的」「製造(実現)可能性」という特徴があり、特に「製造(実現)可能性」にオランダ人らしさがあるといいます。「世界は神が、オランダはオランダ人がつくった」という現地でのことわざがあるように、オランダには公共性を尊ぶ土壌があり「社会のためになるなら何でも作ってしまうし、何をやってもいいと信じているように見える」そうです。オランダは世界に先駆けて同性婚法や安楽死法を成立させていますが、「何でも自分の意思で決めたいというオランダ人の自律の精神が、法律の制定にも反映されているのでは」とユイさんは推測します。

次はオランダのデザイン観です。オランダ語で「デザインする」を意味する「Ontwerpen」は、「考えを具現化する」「何もないところから計画を立ち上げる」という意味あいも併せ持つそうです。オランダ人は古くからこのようなデザイン観を持っているせいか、社会の中でデザインが果たす役割が大きく、行政も国民とのよりよいコミュニケーションのための重要なツールと考えているそうです。

オランダのデザインは革新的だと言われますが、ユイさんはその理由を「オランダ人は『その前提は本当に最善を導くのか?』という問いかけを徹底して繰り返している」からではないかといいます。つまり、急いで答えを出すのではなく、賢い問いかけに時間をかけているのです。(本質的な部分に着目しているのです)。例えば、「ホーヘワイク」という重度の認知症患者向け介護施設がありますが、スーパーマーケット、カフェや美容院なども備えた「小さな町」のように設計され、入居者は暮らしているような感覚で過ごすことができるそうです。日本からの見学者は「私たちはこのような広い敷地がないからできない」と実現できない理由を探しがちですが、工夫次第で似たような目的を実現でき、同じ効果を生み出すこともできるはず。私たちはどうしてもアウトプットに目が行きがちですが、根底にある問題意識という本質的なことを前提に問い続けることが「最善」にたどり着く道なのではないでしょうか。

日本とオランダのデザインはアプローチが真逆。互いにリスペクトしていいものを取り入れる

ここで、和菓子製造業を営む参加者より「日本のデザインの価値」について質問がありました。ユイさんは、日本とオランダのデザインの違いについて「日本のデザインは静的な美が重視されている印象があるが、オランダのデザインの基本はコミュニケーティブであること」と指摘。そして「真逆にも見える日本とオランダのデザインがタッグを組むことで、互いが求めるものがうまく融合されるのではないか」といいます。

また「オランダのデザイナーにとって日本は別格の位置づけで、日本の伝統美に対するリスペクトや憧れは相当なもの。華道や茶道など『○○道』のようなものが生み出す美しさは、合理性を重視するオランダ的アプローチでは実現できない。その精神性を日本から学びたいと思っているのでは」と答えました。

「トライアンドエラー」を繰り返して現地でビジネスを確立する

セッション2では、オランダのライデンで静岡茶の輸入卸業を営む鈴木さんにお話を伺いました。鈴木さんは静岡県出身で、大学卒業後は地元の放送局に18年間勤務。仕事で製茶業者の方々を取材するうちにお茶に興味を抱くようになったそうです。2016年、40歳のときに「第二の人生」としてオランダへ移住。現在は取材制作業や日本語教師の傍ら、静岡茶の輸入卸業をしています。

オランダではゼロからの出発で、トライアンドエラーを繰り返して今に至りますが、その失敗談の一つが「飛び込み営業」です。初めの頃、お茶の卸先を探してカフェやレストランに飛び込み営業をしていましたが、ほとんど成功しなかったそうです。そんな中、突破口になったのは「知人の紹介」。人のネットワークを介して営業をしていったら、8〜9割の確率で商談が成立するようになったといいます。

鈴木さんは卸売のほか、お茶の世界観を体験として提供する場として、日本茶のワークショップも行っています。オランダ人は人と交流することが好きで、家族や友人と「みんなで集まって楽しむ機会」として、ワークショップが利用されているそうです。そうしたことから、鈴木さんは「ワークショップをきっかけに卸先が拡大していった」とのこと。これもコミュニケーションを重視するオランダに合った販路拡大方法の一つかもしれません。

また、お茶の世界観を伝える一方で、卸先のお店では「日本のやり方を押しつけず、お茶を好きなように使ってもらっている」とのこと。その結果、抹茶とレモングラスを掛け合わせたドリンクなど面白いメニューが生まれることも。現場の創意工夫を尊重しながら、「グローカルに」お茶を生かす方法を探っています。

なお、鈴木さんの顧客はエジプト人や中国人など移民の方が多いそうです。オランダは移民大国で、ダブルパスポートの人も少なくありません。人種にとらわれず、幅広いネットワークを築くことがビジネスチャンスにつながることが伺えます。

将来の競合になることも?現地の同業者と交流する重要性

セッション3は、桜美林大学リベラルアーツ学群教授の堀潔さんにもご登壇いただき、ゲストと参加者によるディスカッションが行われました。堀さんは学生時代にオランダへ交換留学をした経験があり、その後も同国へ何度も訪問を重ねています。専門は経済学で、特に中小企業経営を中心に研究されています。

堀さんは「海外進出を考える際に、オランダの同業者を意識したほうがいい」と提起します。家業の分野によってはオランダに同業者がいる可能性は十分あり、彼らは競合になったり、場合によっては日本の市場を狙っていたりということもあり得ます。その点においても「現地の同業者が何を考え、どう付き合っていくかを考えることが重要ではないか」といいます。

この後は、ゲストと参加者によるディスカッションタイム。様々な質問が飛び交い、活発な意見交換が行われました。

オランダ進出を具体的に考えている豆腐製造業を営む参加者からは、「日本の豆腐が現地に受け入れられる可能性」について質問がありました。小祝さんは「現地でテストマーケティングをしたらどうか」と提案。堀さんは「現地の大学生に売り方やアプローチを考えてもらって、彼らのアイディアを受け取るのも一つの方法」と答えました。

「日本のものづくりの評価は?」という質問にユイさんは「日本の文化や習慣が持つワイズなもの(賢いもの)に対して、興味や関心が高まっている気がする」と回答。その上で「こちらの市場を考える時は、ものだけではなく、習慣、考え方や歴史的なことなど、日本のすべてを売り(魅力)と捉えて考えて見るべき」と背中を押しました。

さらに、オランダ人はDIYや服のリメイクなど「直すこと」が大好き。近年では、EUのガイドラインでも「Right to Repair(直す権利)」を重視しており、これを尊重するプロダクトが増えています。修理のしやすさや使用後のリサイクルを念頭に、接着剤を使わずに製造するプロダクトはその一例ですが、釘を使わない日本の建築を「究極のRight to Repair」と賞賛するデザイナーも多いとか。小祝さんは「和紙など、DIY素材で日本らしさを出せる住宅建材も可能性がありそう」と気づきを述べました。

最後に、鈴木さんは家業後継者の方々に「もしオランダに来られるのなら、1年間とか実際に住んでみたらどうか」と提案。「トライアンドエラーで試してみることで、道が開けることもあると思う」と締めくくりました。ユイさんは「今回のセミナーでなるほどと思った部分があれば、そう思った理由を分析してみてほしい」と投げかけ、「そこにある自分の日本的な視点・感覚に敏感になることで、海外目線にも気付けるようになるはず」と話しました。

ここで一旦お開きとなり、第4部の交流会では、ゲストと家業後継者の皆さんたちが様々なジャンルの家業に対して意見交換をしました。

STEP1、STEP2と続いた海外進出支援プログラム。本セミナーを通して、海外進出が以前よりも身近に感じられるようになったのではないでしょうか。「オランダをゲートウェイにする」、「ワークショップで販路を広げる」、「現地の学生や同業者と交流する」…など、様々な選択肢が広がったと思います。海外進出支援プログラムはこの後もSTEP3と続きますので、ぜひ注目してみてください。