「大館×渋谷:めぐり会いではじめるイノベーション」は、秋田県大館市の「食」に関わる事業者と、渋谷を中心とした東京エリアのさまざまな事業者をマッチングするためのプロジェクトです。渋谷とのつながりをきっかけに、全国に向けて新たな一歩を踏み出すことを目的としています。
2023年7月8日(土)に行われた第1弾の「大館ラウンド」には、大館市内の農業後継者や農業法人経営者など、12名が参加。8月5日(土)の「渋谷ラウンド」で自社の事業をアピールするための準備として、事業の真の強みを発見するワークショップを行いました。
渋谷と一緒に大館の「食」をイノベーション
冒頭では、大館市長・福原淳嗣氏と、大館市議会議員であり、秋田活性化株式会社代表取締役の日景賢悟氏から挨拶が行われました。福原市長は、「大館曲げわっぱ」などの日本の伝統工芸品が海外で高い評価を得ている現状を取り上げ、「渋谷という最高のパートナーと協力することで、大館にあるたくさんの素晴らしいものをもっと広くアピールすることができる」と強調。続いて日景氏からは、「大館の強みである農業を渋谷とつなぐことで何かが生まれるはず。渋谷と一緒にしっかり成果を出したい」というお話がありました。
事業の未来をつくるためのワークショップ
講師は、家業イノベーション・ラボが共催する家業後継者コミュニティ「NPO法人農家のこせがれネットワーク」の代表理事であり、「株式会社みやじ豚」代表取締役社長の宮治勇輔さん。大館市の農家が渋谷とつながることで何が起きるのかを参加者がイメージしやすいように、以前宮治さんが手がけた、全国各地の農家との物々交換プロジェクトを紹介してくれました。同じ秋田県内の米農家も参加した同プロジェクトの話を聞き、参加者たちの中でも、全国とのつながりから新事業が生まれるイメージが膨らみます。
更に「親父の代のビジネスモデルで、自分の代も食えると思うのは甘い考え」と話す宮治さん。事業を継続させるためには、今日の仕事をこなすだけではなく、未来をつくっていかなくてはいけません。とはいえ、実際は目の前の仕事に忙殺されて、先のことを考える時間が取れないという人がほとんど。今回は、そんな経営者や後継者たちが、未来につながる事業のヒントを見つけるためのワークショップです。
具体的には、「新規事業のアイディア」、「既存授業のブラッシュアップ案」、「企業風土改革の行動計画」、「ビジョン・ミッション・バリュー」という4つのアウトプットを想定して行っていきます。
自社が持っている武器を洗い出す
家族経営の野菜農園を営む若手後継者や、にんにくの生産・販売を行う農業法人経営者、特産品であるたけのこをメインにした産地直売所の代表など、「食」や「農業」に関わるさまざまな参加者が集った大館ラウンド。自己紹介では、「普段の仕事で手一杯で事業を見つめ直すことができていない」「人手不足に悩まされている」など、それぞれが抱える課題も挙げられました。
ワークショップは、自社が持っているさまざまな強みを洗い出すことからスタート。参加者はそれぞれ、自社の武器を思いつく限りシートに書いていきます。ポイントは、表面的な事実だけを書くのではなく、その理由や要因まで掘り下げること。例えば米農家の場合、「うちの米は美味しい」だけではなく「どうして美味しいのか」まで考えることで、本当の強みや、その生かし方を掘り起こすヒントになるのだそうです。
さまざまな角度から自社を見つめ直し、商品やサービスの特徴だけでなく、自分自身の得意分野や好きなこと、従業員や親族が所有しているスキルなど、事業に関係がないこともどんどんシートに記入します。参加者からは、出荷量の多さや鮮度への自信といった事業の強みに加え、性格や趣味、家族の特技など、バラエティ豊かな数々の個性が挙がっていました。
第三者の目線を通すことで新たな強みの発見に
続いて、記入したシートを元にペアワークを行います。宮治さんが「なぜなぜワーク」と称する通り、相手がシートに書いたことについて「なぜこれを書いたのか」「なぜ強みだと思うのか」と、第三者目線で質問をして掘り下げていく作業です。自分にとっては当たり前のことや、事業に結びつかないと思っていたことに、第三者の視点を通して改めてスポットを当ててみます。
地元の「食」を扱う業者同士とはいえ、家族経営の農園と農業法人、若手後継者と地域資源をPRする企業など、経営形態はバラバラ。また、取り扱う商品にもそれぞれ違いがあります。どのペアも新しい発見があるようで、メモを取ったり質問し合ったりしながら、お互いの強みになりそうなものを探していました。
強み同士を掛け合わせて、新事業のアイディアを模索
最後は、強み同士をかけ合わせて新事業のアイディアを出すワークです。表の縦軸に「自分自身の趣味や特技、好きなこと」を、横軸に「ここまでのワークで見つけた事業の強み」をそれぞれ記入。それぞれをクロスさせて新しいアイディアを生み出します。更に、出たアイディアの中で面白そうなことをピックアップ。それを実現するために今後何をしたらいいか、具体的な行動を考えました。
参加者からは、SNSの活用や、地域性を生かした新商品の開発、海外からの逆輸入を取り入れた広報案など、さまざまな事業のアイディアが上がっていました。
アイディアをブラッシュアップして渋谷でアピール
「第三者の視点を通すことで、自分では気が付かない強みや特徴に気が付き、意識できたことは大きいはず」と話した宮治さん。参加者からは、「経営の仕方が違うと作業の方法もまったく違っていて新鮮だった」「同業者同士、顔を合わせてもじっくりお互いの事業の話をすることはないので、いい機会になった」という声が上がっていました。
参加者それぞれが前向きに取り組んだワークショップ。掘り出したアイディアは、各自持ち帰ってブラッシュアップし、8月の渋谷ラウンドに持っていきます。家業イノベーション・ラボは、参加者たちが渋谷のどんな企業とマッチングしたいかをヒアリングしてサポートし、より良い形でのマッチングを目指します。
忠犬ハチ公の生まれ故郷として、長い間渋谷と深く関わってきた秋田県大館市。ハチ公生誕100年プロジェクト「HACHI100」を進行中の2023年、「大館」×「渋谷」から生まれる新たなイノベーションに期待が膨らむワークショップでした。