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家業で起こす「食」イノベーション ~未来の食潮流と地域文化のこれからを考える~

2020.12.10

脈々と受け継がれてきた伝統や技術を活かしつつ、これから先、未来に向けてどのような形で家業をアップデートさせていくか。これは食の世界に携わる事業承継者たちにとっても大きな課題の一つです。そこで、今回のオンラインセミナーでは、食の領域で活躍する方たちを招き、彼らの取り組みを通してイノベーションのヒントを探っていきます。

新型コロナウイルスの感染拡大で食の潮流も様変わり

1部は、世界70カ国100地域で暮らす600人の日本人女性のネットワーク「ライフスタイル・リサーチャー」を主軸に、海外リサーチやマーケティングを行う株式会社TNCの代表・小祝誉士夫氏による基調講演をしていただきました。2020年は新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大し、私たちの暮らしは一変しました。この未曾有の事態によって食の世界の潮流もガラリと激変し、小祝さんが講演の中で掲げた「世界の食潮流 2020-2021」でも、withコロナ時代を象徴するようなキーワードが上位を占めていました。
たとえば、自ら食物を作って食料を確保するだけではなく、時間をかけて育てることで心身を癒す「セルフディフェンス」や、家で過ごす時間が増えたことにより、自宅のレストラン化や中食の豪華さなどが「進化する家庭食」として注目を集め、さらには自国や近所、地元の食材や商品を購入し、地域の生産者や販売店を支援する「ローカリズム」は、withコロナ時代における新しいトレンドといえるそうです。
このような海外の食の動向やトレンドは、数カ月、もしくは数年後、日本にも大きな影響を与えます。小祝さんはこれらの情報をいち早くキャッチすることで、国内の食の市場やニーズを先読みできるといいます。また、自社の商品の海外展開のときに海外のトレンドを視野に入れておくと効率的なアプローチが可能になると話しました。

ものの価値はカルチャーがあってこそ伝わる

続いて、第2部では、小祝さんがモデレーターとなり、3人の家業後継者を交えてのパネルディスカッションを行いました。
1人目のパネリストは、秋田県湯沢市で1867年に創業したヤマモ味噌醤油醸造元高茂合名会社の7代目、髙橋泰氏です。髙橋さんは、150年以上続く家業の伝統を守りながらも、反復を良しとする旧態依然の業界に異を唱え、ご自身の価値軸を元にした革新的な取り組みを行っています。建築を学ばれた経験を活かし、社屋を改装してギャラリーやカフェを併設したり、さらには庭園を経営資源として活用するなど、多岐にわたる取り組みの数々は家業承継者でなくても参考になるものばかりです。
2人目は、大阪府堺市でこんにゃくやところてんなどを製造する中尾食品工業株式会社の4代目、中尾友彦氏です。昭和2年に創業した同社は、いち早く大量生産へと舵を切り、機械化を進めてきました。しかし、若者を中心にこんにゃく離れが進み、業界全体の売り上げが伸び悩む事態に。この現状を打破するため、代表就任後、中尾さんはオーガニックな素材を用いたり、環境にやさしいパッケージに仕様を変更するなどの改革を積極的に行いつつ、海外展開も視野に活動している若きイノベーターです。
最後のパネラーは、長野県長野市で100年以上続くりんご農家の4代目、株式会社フルプロの代表社員の徳永虎千代氏です。徳永さんが事業を継いでまず着手したのは、農協出荷型のビジネスモデルから、BtoCへと販売を強化し利益を上げることでした。しかし、冒頭の小祝さんの講演を聞いた徳永さんは、家業の歴史やこだわりの栽培方法などをお客さまにもっと伝えていかなくてはと新たな課題に気づきました。今後は、若手が支えていかないと持続しない産地の事業承継者として、先輩イノベーターたちの経験や活動からヒントを模索し取り組んでいきます。
今回のパネルディスカッションの中心は、やはり革新的な取り組みをされている髙橋さんでした。家業を継いで14年が経つという髙橋さんは、まず海外展開について次のように話しました。

「単に調味料として味噌や醤油などを販売しても、それだけでは価値は絶対に伝わらない。そのためには“カルチャー”が必要だ」

髙橋さんの取り組みは、“もの”を中心に考えるのではなく、過去の歴史や先人から引き継いだ精神的な世界観を“もの”に落とすという、伝統を守り続ける家業だからこそ成し得るものです。髙橋さんが自社内に設けたカフェやギャラリーは、ただその世界観を伝えるための手段のひとつだといいます。蔵を案内して製造工程を見せるだけではなく、その場の空気感を体験してもらい、味噌や醤油を用いた料理の可能性を実感してもらう。そういった仕掛けを作ることで、国内だけではなく、海外の観光客を呼び寄せることも可能となります。そうして、実際にその世界観を味わった海外の観光客は、自国に戻ったときにその体験を周囲に広げる重要なサポーターとなります。
髙橋さんは「海外の展示会に出展するためにお金をかけるのではなく、今、僕らがやるべきことは、家業を受け継いで未来へとつないでいく、その根底にある精神性にフォーカスを当てるべきではないでしょうか。そして、そこから業界全体を巻き込み、発展させていくことが大事になる」と話しました。

異業種との取り組みがものの価値を倍増させる

また、徳永さんは生産者だからこその悩みを打ち明けました。それは、髙橋さんや中尾さんのように原料を加工するメーカーとは異なり、「りんごはりんご」であるということです。仮にりんごの品種を増やしたり、栽培方法を変えたとしても、それは「りんごを消費する」という根本的な解決ではないのではと徳永さんは問いかけました。
髙橋さんは「素材だけではその素材以上にはならない。何かひとつ加工を加えることで、その価値を倍、もしくは倍以上にあげることはできる。しかし、そのためには思考の飛躍が必要であり、自分自身の垣根を越えることが大切」と答えました。そして、髙橋さんは自身の経験も踏まえて、「異業種の人たちにアイデアを募ること」が大事だといいます。
「仮に同業者に相談しても、これまで以上の面白さが生まれる可能性は少ない。でも、業界と横断して取り組むとそこで価値の転換が起こせたり、価値を倍増させるチャンスが見つかります。それは中尾さんが取り扱うこんにゃくでもいえるでしょう。たとえば、こんにゃくと相性のよい調味料メーカーと組んでも従来の思考から飛躍したアイデアは出づらい。それならば酒蔵や化粧品メーカーなどの異業種とコラボレーションしたほうが、こんにゃくの新たな使い道や面白い効果が生まれる可能性が高いと思います」
さらに、髙橋さんから発せられた言葉は、パネリストたちだけではなく、視聴者たちも興味を持ちました。それは「基本的にマーケティングはしない」ということ。髙橋さんはその理由はこう話しました。
「マーケティングは究極の客観情報であり、またテクノロジーに頼れば頼るほど自身の主観領域や判断軸を明け渡すようなものだと思っています。だからといって、マーケティングを全否定しているのではありません。体感値が伴った情報が結び付けば、それは主観として重要な指針になると思いますが、ただ単に情報を得るだけならそれは検索結果を得ただけに過ぎません。そのためにはまず自分自身の軸をしっかり持つこと。それが一番大事だと思います」髙橋さんが最後に発した言葉は、同じように家業を受け継ぐ人たちに向けた最大のエールのようでした。

言葉の一つひとつが心に響く、充実の2時間

実に内容の濃いパネルディスカッションが終わり、最後は視聴者参加の質疑応答が行われました。これまで画面越しに見守ってきた視聴者たちから、食に関するリアルな質問が寄せられました。たとえば、日持ちのしない食材による世界展開の可能性や、新たな味噌の開発、さらにはバズワードの「テロワール」の解釈についてなど。小祝さんや3人のパネリストたちは、まるで自分のことのように一つひとつ丁寧に回答していきました。
「食」という幅広いテーマで開催された今回のオンラインセミナーですが、小祝さんをはじめ、髙橋さんや家業イノベーターたちが発する言葉がどれも興味深く、あっという間に予定の2時間が過ぎていきました。特に先駆者として伝統産業のリブランディングや海外展開を行う髙橋さんの心構えや事業の捉え方などは、多くの家業承継者のヒントになったようです。家業承継者は、血のつながりはもちろん、複雑に絡み合った思いや責任、環境などと日々向き合わなくてはなりません。しかし、そこから生まれるイノベーションもきっとあるはずです。今回のオンラインセミナーが、皆さんの新たなイノベーションのきっかけになることを大いに期待しています。

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