【家業後継者限定】ワークショップ 「激変する世界において、今、経営者が示すべきリーダーシップとは」 第三回イベントレポート

あらゆる価値観が目まぐるしく変化する現代において、企業もまた経営や社会との関わりなど幅広い分野で変革が求められています。2021年5月からスタートしたワークショップ「激変する世界において、今、経営者が示すべきリーダーシップとは」は、そんな時代を生き抜くために必要なリーダーの本質について学んできました。 

去る7月14日に開催された最終回では、近年もっとも注目を集めるマネジメント手法「1on1(ワンオンワン)」をテーマに、熱い「対話」が繰り広げられました。 

対話を重ねながら、社員の気持ちや価値観を共有する 

全三回にわったって講師を務めるのは、エグゼクティブコーチとして数多くの経営者の支援や組織変革の支援の実績を誇る株式会社THINK AND DIALOGUEの代表・富岡洋平さんです。これまでも富岡さんは「1on1」の重要性を多くの企業に提唱してきました。今回のワークショップでは、今、私たちに求められている「真の1on1」を解説してくれました。 

 

富岡さんが提唱する「真の1on1」とは、 

  1. 社員が「自分自身」を知り、「自分のMyミッション」を見出す 
  1. 社員が「自分のビジョン」を描き、歩み続ける 

この二つのプロセスを「継続的な対話」によってサポートするものです。 

一見、簡単そうに見える1対1の対話ですが、意外と難しいものがあります。今回のワークショップに参加した家業後継者の皆さんからも、普段から社員と仕事の話はするけれど、それ以外の話、たとえば、社員の感情や価値観、さらには原体験まで深く掘り下げて会話することはほとんどないと話していました。確かにプライバシーという点を考えると、相手との信頼関係が築けていないと聞きにくいかもしれません。 

そこで、富岡さんが皆さんに送ったアドバイスは、「コトのマネジメント」と「人のマネジメント」は別と捉え、そこを意識して対話することが大事だということでした。 

「コトのマネジメント」の主役は「仕事」です。経営者は、会社の目標達成に向けてその成果を確認していく必要があるため、社員との対話は「仕事」が中心となります。そうなると社員の心にまでは気が回るわけもなく、社員の感情は後回し。これでは良好な関係性など築けるはずもありません。一方、「人のマネジメント」は、その人の感情や価値観に目を向け、それを共有し尊重し合うことで、仕事においての協働を可能とするものです。「1on1」の主役は「人」であり、社員が仕事の中で体験したことや感じていること、心から望んでいること(ミッションやビジョン)を定期的に対話していくことです。 

また、「仕事」が主役の「コトのマネジメント」では「行動—思考」が領域となりますが、「人」が主役の「人のマネジメント」では「感情—価値観—原体験」が領域となります。つまり、この「感情—価値観—原体験」の領域の質問を重ねていくことで、次第に社員の感情の揺れ動きも把握できるようになるそうです。最終的に社員の原体験にまで思いを馳せられるようになったら、マネジメント力、対人関係構築能力は一気にレベルアップしていくと富岡さんは話しました。

2週間に一度、最低でも20分の対話を習慣化しよう 

富岡さんはもう一つ、対話の糸口となるキーワードを教えてくれました。それは「きっかけ」を尋ねること。きっかけは過去に戻るヒントになります。エグゼクティブコーチの一環として、富岡さんが経営者に未来のありたい姿を問うと、必ずといっていいほど過去の体験に紐づくのだといいます。それだけ原体験や経験は大きく影響してくるということなのでしょう。 

富岡さんは第一回のワークショップで「私たちは経験することで成長する」と話していました。そして、経験したことを振り返ることが大事なのだとも。なぜなら、過去の体験を振り返ることで、私たちは新たな発見や気づきを得ることができ、それが次のチャレンジへとつながることがあるからです。 

ただし、この過去を振り返る行為は一人で行うには限界があります。しかし、誰かと対話をしながらであれば多くの気づきを得ることができます。この対話こそが、「1on1」です。 

今回のワークショップでは、上司役の富岡さんと部下役の参加者が実際に対話を重ねるデモンストレーションも行われました。指名された参加者は、富岡さんの問いかけに思考を巡らせていきます。この時間はわずか10分ほど。富岡さんが提唱する「1on1」の“最低でも20分”よりも短いものでしたが、私たちの想像を超える多くの情報を耳にすることができました。 

「1on1」はすべてのマネジメントの土台といえるほど大事な手法です。小手先のテクニックが通用するものではなく、定期的に対話の場を設けることでようやく成果が得られます。最初は社員たちも戸惑うでしょうし、経営者たちも何を聞けばいいのかと慣れないことも多いでしょう。それでも地道に続けていくことが大事であり、続けていくことで次第に社員たちも自分自身を振り返り、未来のことを考える習慣が生まれてくるのだと話しました。 

「目の前のタスクをこなすのに精一杯という経営者の方もいるでしょう。しかし、これからの経営者の最大の役割は『社員が働き甲斐のある職場』を作ることです。それが経営戦略に直結します。会社経営のルールの一つとして、社員を主役とした対話の時間を設け、それを習慣化してください。もし、その時間がないというのであれば、ご自身の仕事内容を見返し、効率の悪いものから削っていきましょう。その空いた時間を『1on1』に当ててください。社員との対話の時間ほど投資効率の高いものはありません。その時間を持つことで生産性は格段に上がります」 

 

 素晴らしい経営理念やサービス、商品があっても、それだけではこの激動の時代は生き抜いていけません。そこに必要なのは、自分自身の人生に向き合い、より多くの課題を解決していく力強いリーダーシップです。そして、そのリーダーを支える社員、仲間の力も欠かせません。だからこそ、経営者には社員を巻き込んでいけるような対話力がとても大事なのです。 

家業後継者の皆さんは、創業者によるミッションとはまた別に、ご自身のパーパスをしっかりと持ち、社員一人ひとりとの対話を通じて会社のパーパスやビジョンを描いて新時代を切り拓いていきましょう。