家業×つくばのテックでつくる未来~家業イノベーション・アイデアソン ~最終回開催

「家業×つくばのテックでつくる未来」

日本の最先端テクノロジーの技術を牽引する学術・研究都市であるつくば市。そのつくば市で2019年8月4日に開催された第1回「家業×つくばのテックでつくる未来」は、家業イノベーターたちが抱える課題を業界の垣根を超えた経営者と若い学生らがそれぞれのアイデアを持ち寄り、解決へと導くことを目的にスタートしました。「家業イノベーション・ラボ」にとっても初の試みとなるこのイベントは好評を博し、その後も回を重ね、2019年12月15日についに最終回を迎えました。今回はさまざまなアイデアが持ち寄られた「家業×つくばのテックでつくる未来」の最終回の様子をレポートします。

ここで、過去4回にわたる各家業イノベーターたちのチャレンジの概要と進捗状況を簡単にご紹介しましょう。

福岡県朝倉市の創業114年目の徳田畳襖店の4代目後継者として、平日は畳職人、週末は畳屋ラッパーとして活躍する徳田直弘さん。衰退していく畳業界やイグサ農家を救済するため、食用イグサや廃材となった畳のリユース商品を筑波大学でデザインを学ぶ志賀さんと構想しています。

名古屋で店舗プロデュース業を営む母の元で育ち、現在は東京を拠点に家業の一事業部としてスタイリング事業「DINING+」を展開している山本美代さんは、以前から関心の高かった地球環境に優しい商品の開発に着手しました。その一つとして、すでに竹製歯ブラシが完成しましたが、今後は竹製歯ブラシだけに留まらず、サスティナブルなアメニティブランドとしての製品づくりに取り組もうとしています。

「家業イノベーション・ラボ」の実行委員でもあり、神奈川県藤沢市で養豚業を営む宮治勇輔さんは、「みやじ豚」のホームページのデザインを改修後、新たにファンサイトの立ち上げを構想しています。さらに、今後はサスティナブルBBQの実施も検討中です。

明治大学農学部に籍を置く池田航介さんは、月1回、フードロスキッチンや子ども食堂をオープンしています。現在はフードロスをテーマにコラボレーションできる協賛企業を探す一方で、フードロスをテーマにSNS発信や著名なシェフとのコラボレーションメニュー作りなどを検討しています。

奈良県で靴下製造業の3代目として奮闘している鈴木みどりさんは、靴下の廃材を使用した3Dプリンタのフェラメントを作るアイデアを募りましたが、なかなか技術者があらわれず、現在も引き続き、新たな取り組みに向けて構想を練っています。

栃木県さくら市でゴルフ場を運営する株式会社セブンハンドレッドを継いだ小林忠広さんは、ゴルフを通してお客様に元気になってほしいと、地域一帯となった健康増進プロジェクトを想定しています。

この日のファシリテーターは初回からお付き合いいただいている岩城良和さんです。岩城さんは、家業である株式会社タイセーの常務取締役としてさまざまな分野の開発などに携わる傍ら、「スタートアップウィークエンド」の認定ファシリエーターとして、全国各地のスタートアップ企業の成長を促す提案・活動を行っています。

その岩城さんが最終回の参加者である池田さん、山本さん、徳田さんの3名の家業イノベーターたちに課したテーマは概念実証を意味する「PoC(Proof of Concept)」でした。各自、それぞれの課題に対して進捗状況を確認すると共に、そのプロジェクトが本当に実現可能なのか、またその効果や効用はどれくらいなのか、技術的な観点からも検証していきます。

実現化に向けてさまざまな議論を重ねていく

まずは池田さん、山本さん、徳田さんがそれぞれの進捗状況を報告したのですが、初回の漠然としたプレゼンテーションと比べるとその内容はより具体化していました。山本さんはすでに竹歯ブラシを完成させ、パッケージの実用新案権を取得。今年2月から「銀座ロフト」での販売もスタートするそうで、より具現化しつつあります。

徳田さんはアイデアソンからさまざまな提案を受け、食用イグサの商品化、廃材活用に関する短期的・長期的な商品化プロジェクトに向けて始動しています。このほか、みやじ豚とのコラボレーションも視野に入れているそうで、「家業×つくばのテックでつくる未来」によって業界の垣根を超えた取り組みが実現しそうです。

池田さんは学生団体として活動する傍ら、自然環境にも興味は広がり、将来的にどのような事業展開か可能かを考えています。そして、いずれは家業である青果問屋業とのドッキングについても模索している最中です。

各々の進捗報告が終わった後は、参加者を交えてのグループディスカッションがスタートしました。

今回、「おもしろそう」と参加してくださった方は、筑波大学でデザイン学や生物学を専攻する学生たちのほか、YouTuberや一般企業に勤める会社員や起業家たちです。経歴や得意とするジャンルの異なるメンバーがこうして一同に会せることが、まさに「家業×つくばのテックでつくる未来」の醍醐味であり、この出会いをきかっけに新たなプロジェクトやつながりが生まれていきます。

家業イノベーターを中心に3つに分かれたグループでは、それぞれの家業イノベーターたちの取り組みについてさまざまな意見、提案が飛び交いました。

山本さんの場合は、元々は大量に消費・廃棄されるホテルのアメニティを変えていきたいと竹製歯ブラシの開発に着手しましたが、実際にホテル側にヒアリングしていく中で課題が見えてきました。たとえば、ブラシ部分の素材や歯磨き粉の有無、パッケージの仕様、そして認知度アップにつながる訴求方法など。ディスカッションの中では、プロダクトとしてほぼ完成している今、あえて視野を広げすぎずに、まずはBtoCに向けて商品を提供し、そこで十分に認知度を上げていき、それから満を持してBtoBに向けて展開してみてはという意見も出されました。当事者にとっては当たり前すぎて見落としがちな基本的なことに気づかされることも多いようで、山本さんも積極的に参加者の意見に耳を傾けます。最終的に山本さんには、BtoCに最も刺さるコンセプト、言葉を整理していくこと、そして、どのようにPRしていくのかがミッションとして課されました。

一方、池田さんのグループでは、ファシリテーターの岩城さんも参加し、そもそもなぜフードロスや子ども食堂なのかが問われました。ビジネスとして成り立たせるためには、第三者にその事業を行う意義や当事者の思いを明確に伝えることが何よりも大事です。それが社会人の先輩方には少し弱く感じられたのかもしれません。岩城さんからは、もう一度自分なりに深く考え、ビジョンを明確に整理することを促されました。

その隣で賑やかにディスカッションを交わす徳田さんのグループでは、新たなプロダクトとなるアイデアが出たようです。それは畳を用いた収納ボックスで、すでに具体的なイメージ図も出来上がっていました。この収納ボックスは座ることもできるうえ、イグサの香りが心身をリラックスさせる効果もあるため、昨今の多様化するオフィス空間にもぴったりです。また岩城さんを始め、「家業×つくばのテックでつくる未来」には商品開発に長けた心強いサポーターが身近にいることも、このプロジェクトの実現化には最適な環境のようです。徳田さんご自身も手ごたえを感じているようで、冒頭に掲げた多くのプロジェクトの中でも優先項目となったようです。

人とつながることでアイデアはさらに広がっていく

長時間にわたって繰り広げられるグループディスカッションは、参加者にとっては新鮮かつ有意義なものであり、共に考えることに楽しさがあります。一方、家業イノベーターたちにとっては自身の思考を整理整頓し、また次へとつなげる道筋を見つける貴重な機会となります。ここで自分の意見を述べ、人の意見を聞く。そのことが新たな取り組みを発展させる第一歩になります。

岩城さんはイベントの冒頭で

「一瞬で冷めるものは“ノイズ”であり

マグマのように半永久的に出てくるものが“パッション”である。

これから皆さんが作り上げていく事業は、時には下がり、時には上がり、予想の範囲を遥かに超える出来事に遭遇することもある。でもそれを良しとし、行動し続けていくことで、その後の人生は大きく変わってきます。

諦めずに自分のアイデアを発信し、それを元にさまざまなものとつなげていく。

これこそが、次世代のEntrepreneurに求められること」

だと話されました。

全5回にわたって開催した「家業×つくばのテックでつくる未来」では、次世代の主役となる若き家業イノベーターたちの柔軟な思考力に驚くと共に、環境保護やフードロス、サーキュラーエコノミーなど“世界を変えたい”という熱い思いが伝わってきました。またパッションを持って行動し考える人には周囲を巻き込む力があり、そこに自然と差し伸べられる人の手があるということも。

今回のイベントでも家業イノベーターたちにはさまざまな人や物とのつながりが生まれています。ここでの取り組みが今後どのように実を結んでいくのか、「家業イノベーション・ラボ」としても期待が高まります。

なお、今回の「家業×つくばのテックでつくる未来」での各プロジェクトについては、今年6月、エヌエヌ生命保険株式会社の新オフィス内に構えるコーワーキングスペースのオープニングイベントとして発表する予定です。皆さんもぜひ若き家業イノベーターたちの取り組みに注目してください。