【家業イノベーション・ラボ×シブヤ大学】大人のリベラルアーツ 第1回:学びとは何か レポート

これまでも多彩なゲストを招き、経営実務に関わる講演やワークショップなどを実施してきた家業イノベーション・ラボ。しかし、昨今はそれだけに留まらず、家業には地域貢献や社会の課題解決に向けた取り組みも求められています。そのために今後より一層、家業承継者が「自分の軸」や「道徳観・倫理観」を養うことが重要になってきます。 2021年2月より始まった「大人のリベラルアーツ」は、家業イノベーション・ラボと渋谷の街をキャンパスにさまざまな学びの場を提供している特定非営利法人シブヤ大学がコラボレーションし、昨今の不確実性の時代において真に必要とされる知識や考え方、思考法について、全3回にわたって学んでいく取り組みです。

2021年2月24日(水)に開催された第1回目の「学びとは何か」では、まずは私たちとともに考え、さまざまな分野の専門家たちをつなぐお二人のナビゲーターが紹介されました。文筆家でゲーム作家の山本貴光さんと、同じく文筆家で編集者の吉川浩満さんです。このお二人に共通していることは、人文学から科学と幅広い分野の研究者でありながら、企業での勤務経験もあるという、異色の経歴の持ち主だということ。私たちと近しい立場で、学びとは?働くとは?家業とは?の答えを導き出してくれるのです。

……と、その前にそもそも「リベラルアーツ」とは何なのでしょう?

ここ最近、よく耳にするこの言葉。日本語に訳すると「自由学芸」といい、思想的源流は古代ギリシャ・ローマ時代まで遡ります。当時は、文法、修辞、論理、数学、音楽、幾何、天文の計7教科に分かれていたことから「自由7科」ともいわれており、自由な市民として生活、活動するために知っておいたほうがよい基本的な学問を指しています。現代においては、基本的な学問の多くを小中高で学んできますが、実はそれ以外にも大人になってから仕事や生活を営む上で学ぶことはたくさんあります。

では、学びとは一体何なのでしょう?

これこそ、第1回目の大きなテーマです。

この漠然とした疑問に対し、山本さん、吉川さんはお互いの言葉をかけ合わせながら、私たちに分かりやすく丁寧に解説してくれました。

学びとは、部分的な自己破壊とそこからの再構築による成長の過程である

「学び」には2つのことがあるといいます。

1つは先人たちの知識や経験を得ることで、自ら失敗を回避するためのシミュレーションを行う学び。これを吉川さんは「転ばぬ先の杖」に例えました。そして、もう1つは、自らの身をもって失敗した経験から、それをリカバーしていく実践的な学びです。これを繰り返すことで、自分の中に決して変わらない軸がきっと見つかるといいます。それが見つかったら、あとはこっちのもの。その軸を確固たる足場として、一方で試行錯誤を繰り返す。お二人は「自分の価値観を壊しては作り直す。この繰り返しが学びである」と話しました。

しかし、大人になるに従い、私たちの頭は固くなり、つまらないプライドが邪魔をして、学びを困難にすることは多々あります。皆さんにも思い当たることがあるのではないでしょうか。何か始めなくてはいけないと心の中では思いつつも、周囲のしがらみや固定概念、プライドが立ちはだかり、一歩も動けない状況に陥ることが。
だからこそ、山本さん、吉川さんは「文学、哲学や美学、あらゆる創作物に触れ、自分とは異なる状況や環境に置かれた人の考えや経験を疑似的に追体験するべき」とヒントも与えてくれました。そして、「学びとは生きているからこそできること」だとも。

さらに、仕事と学びの関わりへと話が移っていくと、必然的に意識は家業へと向かいます。お二人は、これまで続いてきた家業の本質を見極めることはもちろんですが、その一方で時代とともに変わる社会との関わり方、接点を探ることも大切だと話しました。

「変わり続ける社会との関わりの中で、家業を見直す必要に迫られるかもしれない。そんなときは、社会と家業の接点をもう一度見直す、もしくは自らその接点を作り出すことです。新たに接点を作るとしたら、そのためのアプローチ方法も考えていかなくてはいけないでしょう。ただ、それはとても難しいことであるし、失敗することもあるかもしれない。しかし、家業承継者にはこれまで脈々と受け継いできた確かな事業が大きな強みとしてあるのだから、それを足掛かりに次の一手へと踏み出す、そんなチャレンジをしてもいいのかもしれません」

この言葉は、お二人が冒頭で語った「学び」にも通じるものがあります。家業という足場をしっかりキープしつつ、社会や環境、人との関わりの中で、失敗とリカバーを恐れずに繰り返すこと。これが家業承継者における大人の学びなのかもしれません。

オンライン上で約90分間にわたって開催された第1回「学びとはなにか何か」は、山本さん、吉川さんの軽妙な語り口のおかげで、まるでラジオを聞いているかのような雰囲気の中で終了しました。画面の向こうからお二人が発する言葉の一つひとつがお腹にすとんと落ちる感覚があり、勇気づけられた視聴者の方も多かったのではないでしょうか。

次回のテーマは「哲学」です。哲学者であり、株式会社ゲンロンの創業者でもある東浩紀さんをゲストに迎え、「哲学」をテーマにナビゲーターの山本さん、吉川さんとどのようなセッションが繰り広げられるのか、今から興味津々です。そして、歴史は古く奥の深い学問「哲学」が、私たちの今の暮らしや仕事にどのように関わってくるのか、じっくりお聞きしたいと思います。