「グローカル家業」を目指そう!オランダは欧州市場へのゲートウェイ!STEP1 :「オランダの先進性とニッポンの家業との接点」イベントレポート

「家業イノベーション・ラボ」は、家業を担い、その中で新たなイノベーションにチャレンジする家業後継者たちをサポートする「海外進出支援プログラム」を始動。その第一弾として、オンラインイベント「『グローカル家業』を目指そう!オランダは欧州市場へのゲートウェイ!」が開催されました。

2022年1月26日のSTEP1では「オランダの先進性とニッポンの家業との接点」をテーマに、サーキュラーエコノミー、農業、テック、デザイン、インテリアなどにおけるオランダの先進性や魅力の再発見と、欧州市場へのゲートウェイとしてのオランダの役割について探りました。

ファシリテーターに、海外リサーチやマーケティングを行う株式会社TNCの代表取締役社長・小祝誉士夫さんを迎え、ゲストに内閣府クールジャパン戦略のディレクターを務め、株式会社 XPJP 代表取締役/価値デザイナーの渡邉賢一さん、オランダ王国大使館政策オフィサーのバス・ヴァルクスさん、そして国際園芸博覧会フロリアードの日本国政府スタッフとして参画経験もある家業イノベーター、プランティオ株式会社の共同創業者/CEO芹澤孝悦さんの3名をゲストにご登壇いただきました。

なお、渡邉さんは栃木県栃木市にある創業80年の老舗料亭「辰元」がご実家で、2021年に取締役に就任。芹澤さんは「プランター」を発明したセロン工業・創業者のお孫さんにあたります。お二人とも家業を間近に見つめてきました。

海外に出ることで日本では気づかなかった新たな価値観に出会う

まず、日本の家業が海外進出する意味はどこにあるのでしょうか。

小祝さんは「海外に意識を向けて、自社家業の強みや弱みを棚卸しすることがイノベーションになる」といいます。

芹澤さんは、2012年にオランダで開催された“10年に一度の花のオリンピック「フロリアード」に参加したときに、家業を見つめ直したとのこと。おじいさまは「プランター」という和製英語にもなった製品を発明した方ですが、「祖父がやったことは、皆さんがアグリカルチャーに触れる機会をつくったこと」といいます。芹澤さんは、この「家業の意味」をアップデート。IoTの技術やスマートフォンを使ってナビゲーションをすることでさらにハードルを下げ、あらゆる場所でアグリカルチャーに触れられるプラットフォームを作っています。オランダに行ったことで、家業における「意味のアップデート」を考えるきかっけになり、日本にいたらわからなかった「日本のポジション」を実感したといいます。

渡邉さんは海外に出る意味について「違う文化圏に行くと、国内では見えなかった価値観と出会うことが多い。イノベーションという意味では、一度海外のフィルターを入れることはとても大事」と話しました。

交通の要衝・オランダは欧州進出のゲートウェイに最適

では、海外進出においてオランダにはどのような役割が期待できるのでしょうか。小祝さんは、オランダを「水先案内人」のような存在といい「まずはオランダに行ってキュレーションしてもらって、どの市場を攻めるかの方向性を探ってみては」と提案。

これについてバスさんは「オランダを中心に500kmくらいの円を描くと2億人くらいの市場がある。いろんな人たちにすぐリーチでき、試すことができる」とオランダの地の利の良さを説きます。

歴史的にもオランダは「交通の要衝」でした。資源が少ないオランダは、物流の中継地として賑わってきました。物流にともなう人流も盛んであったため、オランダ人はさまざまな物事のキュレーションにも慣れているそうです。

芹澤さんは「オランダに拠点を置くと、価値観を含めたキュレーションやマーケティングがしやすい」といいます。

また、渡邉さんは「歴史的にもビジネスデザインをグローバル視点で考えてきた国」とオランダを評しました。

江戸時代から400年以上もの付き合いがある日本とオランダ。出島での交易を含めた日蘭時代は長く続いたことから、互いに影響し合っている部分もあるでしょう。それゆえ両国には親近感や安心感があり、日本の家業が海外に出ていくときのゲートウェイとしても最適な国といえそうです。

意外にも日本が垣間見える、オランダの先進的分野

次のテーマは「オランダの先進性」です。オランダが世界に先駆けている「サーキュラーエコノミー」「農業・テック」「デザイン・インテリア」についてお話ししていただきましたが、ここでも日本との意外な接点が明らかになりました。

・サーキュラーエコノミー

グローバルなキーワードでもある「サーキュラーエコノミー」。地球規模で自然環境が脅かされている今、一人ひとりが地球のことを考えるべきだという機運が高まっています。渡邉さんはサーキュラーエコノミーについて、日本に根づく「自然共生的な文化」が見直されているといいます。その上で、日本の家業の中に「サーキュラーな側面」が潜んでいる可能性を指摘し、それこそが「世界から注目されているポイント」であるといいます。

江戸時代、日本は人口3000万人を抱える世界最大の国であり、中でも人口100万人の江戸はサーキュラーシティだったそうです。芹澤さんは「サーキュラーという価値観はオランダとも共有していたが、日本は戦争や高度経済成長で忘れてしまった」と話します。サーキュラーという概念は、はるか昔から両国で共有していたのです。

・農業/テック

オランダは世界第2位の農業輸出国で、「アグリテック」と呼ばれるテクノロジーを使った効率的な農業を実現しています。

芹澤さんによると、オランダに勉強・視察に行く日本の花・農業界の人たちはとても多いそうです。ところがオランダに行ったとき、江戸時代の挿し木をオランダの農家で発見。「シーボルトは250もの技術をオランダに持ち帰っていたんです。オランダのテクノロジーの礎は、もとをたどれば日本にあるものも少なくないんです」

バスさんは「オランダの農業技術をそのまま日本に持ってくるのは難しいが、必要な分だけをうまく利用すれば、日本の農業も効率化するかもしれない」と述べ、その一例として垂直農業システムを挙げました。

・デザイン/インテリア

オランダは言わずと知れたデザイン先進国、学ぶべきところは多いでしょう。バスさんはオランダのデザインの特徴を「コンセプチュアル」といいます。そして、今後のデザインの方向性を知りたいときは、「ダッチ・デザインウィーク」(毎年オランダのエイントホーフェンで開催されるデザインフェスティバル)に行くことを勧めています。

また、オランダのデザイナーは日本への興味が高いとのこと。バスさんは「オランダのデザイナーに行ってみたい国を聞くと、ほぼ例外なく日本という。日本のデザインや美的センスを本場で体験したいと思っている。日本の地場産業とコラボして、新しいものをつくりたいと夢見ているデザイナーは多い」といいます。

日本古来の食文化に課題解決のヒントあり

クールジャパン、ジオガストロノミー、食のグリーン化といったテーマで、日本の食を世界に発信する活動をされている渡邉さん。活動をしていく中で、日本の食文化が気候変動や食糧増産といった世界の課題に、風穴を開けられる可能性を感じたといいます。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、フードビジネスのあり方は変化を迫られました。同時に、「食のあり方も見直しの時期にきている」と渡邉さんはいいます。そこでポイントとなるのが「自然」。日本人は昔から山菜を食べますが、先進国で山菜を食べる国はそんなにありません。渡邉さんは「小麦などの穀物を増産するといったソリューションとは別に、食べられるものを発見するというソリューションがあるのではないか」と提案します。

また、山形県鶴岡市の人たちとイタリアに行ったときのこと。現地でトチノキ(マロニエ)があったそうですが、イタリアでは石鹸に使うもので食べるものではない」という認識だそうです。一方日本では、トチ餅などトチを食べる文化があります。渡邉さんは「日本の中に埋もれている食材を発掘して、食べ方を含めて発信していくこと」に、大きな可能性を見出したそうです。

小祝さんは、その新しい発見には「外の視点」が必要だといいます。安曇野のわさびを欧州市場に紹介する仕事では、思いのほか好評だったとのこと。日本人が「日本の文化ってすごいでしょ」と上から目線で伝えるのではなく、欧州のシェフを安曇野に呼んで、彼自身が感じたことを直接現地に伝えてもらったという部分が成功の要因のようです。海外の人たちの目線を経由することが、とても大事なポイントであることが伺えます。

日本とオランダは互いが伴走役となって海外進出を協力し合う「パートナー」

江戸時代から400年以上続く、日本とオランダの関係。両国はこれからのどのような関係を築いていくのでしょうか。そのキーワードとして出てきたのが「パートナー」です。

現在、世界で最もホットな市場はアジアでしょう。オランダが日本の欧州進出の伴走役であるのと同時に、日本がオランダのアジア戦略における伴走役になり、互いが対等な「パートナー」として協力し合う未来が、すぐそこに来ているのです。

バスさんは、オランダは「小さな国」であるゆえに「日本ともフラットでオープンな関係が築けるのではないか」といいます。

芹澤さんもご自身の経験から「オランダはパートナーとしてとても信頼感がある」と断言します。その上で、日本の家業後継者には「まずはちょっと外に出てみよう」と声をかけます。「まず外に出て、日本のポジショニングを理解した上で家業の価値を見つめ直す。そこで初めて温故知新ができて、アップデートへの道筋が見えてくるのです。海外の人は意外と日本のことを知っているから、僕たちが知らない日本を見つけてほしいですね」

渡邉さんは、これからの時代は「自分自身の物差しを持つこと」が重要だといいます。そして、一緒に考えていけるパートナーの存在は不可欠であり、その相手としてオランダは最適であると話しました。

400年以上の交流があり、歴史や価値観を共有してきた日本とオランダ。小祝さんは「オランダと日本は課題に共通性がある。だからこそ、共有してやっていけるのではないか」といいます。その上で、単に海外マーケットを取りに行くのではなく、ローカルからグローバルに出て、そこで刺激を受けて、またローカルに戻っていく。このローカルとグローバルの循環によって家業におけるイノベーションが促進され未来を切り開いていくことができるのではないでしょうか。