【家業経営革新プログラム】創業100年の山菜料理屋、『代替わり』で迎えた組織づくりへの挑戦

山形県西川町で月山の山の恵、木の芽・ジビエ・きのこなどを四季を通じて提供する、山菜料理のお宿「出羽屋」。
若女将である佐藤悠美さんに、今回の経営革新プログラムのお話を伺いました。

今回のプログラムでは、自分たち自身と従業員、事業とも向き合うことが出来ました

――プログラムに応募した当時の状況と、応募に至った経緯を教えてください。

2019年3月に親世代から事業承継をしましたが、経営的に安泰ではありませんでした。それから1年間、腹を括って慣れない経営をしていましたが、売上は低迷。最善策を考えていく中で、自分たちが理想とするやりたい経営に舵を切りたいという想いが強くなり、それを実現し赤字体質から黒字体質に持っていくには、スタッフのみんなと同じ方向を向いていく必要があると感じ、組織づくりのために応募しました。

――まず最初に、ブラッシュアップ会に参加されましたが、参加してみてどうでしたか?

自分と同じような悩みを持っている人が全国にいることがわかりました。普段そのような方とお話しする機会はないので、自分たちの悩みって当たり前すぎる悩みなのか、それとも重要なものなのか見当がつかなかったのですが。他の会社の皆さんはいろいろ考えててすごいなって思いました。

メンターの方も家業を継がれた方で、同じ悩みを持つ同じ立場なんだな、寄り添ってくれている感じを受けました。

――実際にプロジェクトが動いてからの状況・感想を教えてください

外部人材を募集する際に、真っ先に思いついたのが、コーディネーターが在籍する会社でした。今回のテーマは、組織づくりの中でも「スタッフの自立」というところに重心が置かれていて、「研修・教育」は、キャリアクリエイトの事業とマッチするのではないかなと思ったのと、元々出羽屋を知っているので問題点を大いに理解してくれていると思ったからです。正直、何もイメージはついていませんでした。スタッフとも業務委託とも違うので、コミュニケーション方法についても不安でした。

外部人材と打ち合わせして「スタッフの自立」のためには、経営者である私たちとスタッフとの関わり方・コミュニケーションの仕方が重要という話になり、今回のプロジェクトを「出羽屋 組織成長プログラム」と位置づけ、私たちがこのプログラムを行う目的を「社長・若女将が変わる、みんなが変わる、町が変わる」とし、ゴールを「(スタッフが)自分たちで決めたサービス基準を実現している」としました。

今回のプログラムでは、自分たち自身と従業員、事業とも向き合うことが出来ました。誰にでも相談できる機会がないから、コーディネーターや外部人材に話すことで頭の整理になるので、良かったです。

―― 今回のプログラムを通じて起きた、自社・後継者自身の変化や成果はいかがですか?

振り返ると、プログラム当初「私はこんなに頑張っているのに、なんでみんなわかってくれないの?」という気持ちが自分自身にあったのは、「(今回のテーマである)みんなと同じ方向を向いて、スタッフが自律的に動く組織づくりがしたい。そして黒字化して、スタッフに十分なお給料を払って働く環境をよくしたい」という想いがあったからだと思います。

そんな想いのもとスタートしたプログラムを通じて、大きな3つの変化があります。

1つめは、事業分析を行い、負債部門を辞める意思決定を行いました。

「スタッフに十分なお給料を」とスタッフを大切にしたいのに、スタッフはめちゃくちゃ疲弊しているとも感じていました。これでは向こうからやめてしまいそうと思ったので、元々やりたかった事業分析を初めて腰を据えて行いました。その頃、現場は私のチェックがないとダメだと思っていた頃でしたが、それはやらないことにし、他の経営陣(社長・社長の妹)を信頼することから始めました。数字を分析し事業分析をしたその結果、昔からの名物ではあるが負債部門だった蕎麦処の営業休止を決めました。

2つめは、役割分担を明確にすることで、社員が自分で考えて判断できるようになりました。「社長は料理に、私は経営に集中する」と思い切り役割分担を行い、スタッフにも伝え、理解してくれて、信頼関係が気付けるようになり、社員が自分で考えて判断できるようになりました。役割分担をはっきりすることで、自分の役割がわかったんだと思います。

月1回の全体会議で行うプログラムの取り組みを「出羽屋をみんなでよくするMTG(DMY)」と名付け、自己開示を行いながら出羽屋について話し合っていましたが、その結果3人の退職者が出ました。少人数になりましたが、残ったメンバーの絆が強まり、自発的に発言が出てくるようになりました。今まで会議は半年に1回でしたが、月1回「こうしたいんだ」とビジョンを伝え続けてきた結果、意思疎通がはかれ同じ方向を向けるようになったと思います。月1回ミーティング重ねたことが良かったです。「佐藤家のご家業」から脱却し、ようやく会社らしくなってきました。

3つめは、スタッフとのコミュニケーションの質が変わり、量が増えました。スタッフに信頼してもらうために、今自分は何をしていると全てをオープンにするようにしました(これまで他のスタッフは、私が何をしているか把握していませんでした)。また、以前は業務連絡ばかりでしたが、スタッフのプライベートの事情を配慮した働き方が実現できるようプライベートな話も話題にしてみたり、仕事中余裕があるときに趣味や好きなことの話をしたり、給料袋に感謝と期待の気持ちを伝える手紙を入れたりし始めました。スタッフ1人1人にあった対応ができるようになりました。

――今後の展望について教えてください

これまでは「飲食・旅館業」として、あれもこれもいろいろ行っていましたが、これからは事業の選択と集中を測り、「山」にフォーカスを当てた、オーベルジュ・ECサイト・食材卸(DtoC)・読み物を届けるなど、「山の営みを届ける総合商社」としてやっていきます。

スタッフのみんなとは、自分たちが考えていることを伝え続けることもあるし、知識足りないところは勉強を重ねながら、フラットな関係でありたいと思います。

――コーディネーターから見た、プログラム参加前後の変化

プログラムで実施した「月1回、全員で話す」ことを始めた当初、佐藤さんは「みんなの気持ちをわかっていなかったのは自分だったんだ」と落ち込み、一時は事業を停止することも考えそのための行動も起こしたそうです。そして自主退職者が3名出るなど、「スタッフと同じ方向を向き、自発性を持った組織で、黒字にして、スタッフの働く環境をよくする」ための取り組みは、パンドラの箱を開けたようなところもあります。

「怒涛の半年でした。こんなに方向性や状況が変わると思ってなかったが、全てプラスの方向に転じている気がしている」と佐藤さんの言葉が表すように、負債部門の休業、黒字部門への傾注、そのための改装と、大きな変化があります。それは、佐藤さんが事業分析を行ったからの結果ですが、「ミスが多いので現場のチェックをしないといけない」と忙しくて時間がなかった佐藤さんが事業分析を行うようになったのは、他の人を信頼することから始めたから。

現場にミスが多く自分がチェックする必要があり、黒字化するために取り組みなどに時間が使えない状況というのが佐藤さんの悩みでしたが、自己開示しながら定期的に話し合いをすることで、スタッフを信頼し、信頼される信頼関係を築いていけるようになったようです。

今回のインタビューで佐藤さんからは「人を頼るということを怠っていた」というような言葉が何度かありましたが、佐藤さんは責任感が強く、自分でしっかりやろうとするタイプの方です。ブラッシュアップ会でもメンターから「もっと頼ることでスタッフの自発性が引き出されるのではないか」というような趣旨のアドバイスもありました。外部人材からスタッフとの1on1の実施を提案され、ビジネス書を読むのが好きな佐藤さんに合わせて1on1の本を参考図書として読んでもらい、その後も慣れない1on1にチャレンジしていました。 現在は「めちゃくちゃみんなを信頼してるので、経営に集中できるようになった」というので、佐藤さんとスタッフさんとの関係性に大きな変化を感じます。

■家業経営革新プログラムの概要・その他の事例記事はこちらから
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