新沿岸陸上養殖合同会社の佐々倉玲於さんは2020年、家業経営革新プログラムに参加し、副業人材4名のチームとともに生産管理体制の仕組みづくり・技術の体系化(マニュアル化)に取り組みました。
(参考求人ページ:日本初!日本産まれシロアシエビの種苗生産技術を伝承し、安定生産を実現させたい!:https://yosomon.jp/project/2011)
プログラムを終えてみて、副業人材チームで取り組んでみての変化や今の思いなどを伺いました。
マニアックな(専門性が高い)方から、複数のエントリーがあって驚きました
――プログラムに応募した当時の状況を教えてください。
2020年2月に経営者である81歳の父から突然、資金がいよいよ尽きるという状況で経営を引き継ぐことになりました。大変な会社の状況でしたが、長年の研究の末、日本で初めてシロアシエビの完全養殖に成功したという技術がこの会社にはありました。
父を見捨て会社を倒産させることもできましたが、これまで一次産業をサポートする側に立って事業を行って来た身として、何のチャレンジもせず事業者を見捨てたら、これまでの自分とこれからの自分自身を否定することにつながると思いました。そんな自分に嘘をついて生きていくような人生は嫌だと思い、やれるだけのことはやろうと決めて、経営を引き継いだ状況でした。
――どのようなことを期待してこのプロジェクトに応募しましたか?
私自身、漁業経営の経験はない中で、事業再生に取り組まなければならない状況にありました。売り上げがなかったために銀行からの融資も断られてしまったので、まずは短期的に売上をあげ、融資が受けられるだけの売上をつくる必要がありました。
また、従業員がパートさんしかおらず、養殖の現場を担う人財も育てられていない状況がありました。こんな状況の中で、どうやって家業をつないでいけるのか?!途方もないチャレンジでしたが、この事例がこれからチャレンジしようとしている後継者たちの参考にしてもらえるようになれば。そんな思いに共感し、一緒に生産管理体制づくりと技術の体系化に取り組んでいただけるような専門的な方との出会いに期待してプロジェクトに応募しました。
――実際、期待通りの方に出会うことができましたか?
こんなマニアックなプロジェクトにエントリーはそんなにないだろうと思っていましたが、マニアックな方(専門性が高い方)から、複数のエントリーがあって驚きました。しかも、報酬がなくても関わりたいという意欲的な方ばかりで、そんなニーズがあるのか!と発見でした。
エントリーしていただいた方は、それぞれ配管設備のプロ、電気のプロ、統計のプロ、中小企業診断士という専門性が異なる4名で、どの専門性も今回のプロジェクトには必要だと思ったので4名全員の方に関わってもらって連携しながら進めることにしました。
専門家とのコミュニケーションの価値を感じました
――実際にプロジェクトが動いてからの状況を教えてください。
最初に高知県大月町にある生産現場に来ていただき、現状を把握していただきました。1名の方は本業の都合で来られなかったのですが、スレッドを立ち上げて頻繁にやり取りを行いました。何をやったらいいか、何を調べたらいいか、何をお願いしていいか、わからない状況でしたが、ディスカッションを重ね、こちらの困っていることと、4名の方の専門性がマッチングするポイントが見えてきました。その結果、取り組む課題を明確にすることができました。
また、これまで専門家と関わることがあまりなかったのですが、今回初めてそれぞれのプロに関わっていただき、オンラインにも関わらず、言われた情報を提供すると、フィードバックがしっかりとした形や資料やデータとなって返ってくる、という専門家とのコミュニケーションの価値を感じました。
―― 今回のプロジェクトを通じて、どのような成果がありましたか?
今回、技術の体系化のために稚エビ生存条件を探る実験分析に取り組みました。稚エビ生存に関連すると考えられるパラメーターを設定し、10個の水槽で稚エビ6000匹をつかって約2ヶ月間実験を行い、現在、AIでデータ分析を行ってもらっているところです。これにより、稚エビが死ぬ要因が分かり、養殖環境を改善するきっかけを作ることができました。今後も社内に調査・研究部門を小さくても設置し、研究や分析を続け、データを積み上げて行くことが大事だと考えています。
また、経営改善と融資を得るため、中小企業診断士の方を中心に、エネルギーコストや現状の状況を分析し、設備投資後の費用も踏まえ、現状の養殖状況にマッチした実現可能な事業計画を作成することができました。
―― ご自身には何か変化がありましたか?
元々自分で立ち上げた会社もあり、2足のわらじで取り組んでいましたが、今回副業人材の方に関わっていただいたことで、私自身が現場に通うことにつながり、養殖事業の理解や会社全体の現状を把握することができ、今後取り組んで行くべきことを現状に即して考えることができるようになりました。
また、専門家の価値を実感しました。これまではお金がないと専門家に関わってもらえないと思っていましたが、今回このような形で専門家の方に関わっていただき、価値や必要性を感じることができました。
―― 今後の展望について教えてください。
今回作成した事業計画を持って、資金調達を行います。この1年をかけて小売販売を行い、売り上げを作ってきました。設備を整え、生産体制を整備するためには資金調達が欠かせません。無事に調達できたならば、今回プロジェクトで検討したヒートポンプや太陽光発電を取り入れた設備投資を行い、シロアシエビの安定生産につながります。
私たちが目指しているのは、エビの種苗生産・養殖事業を通じた、沿岸漁業の再構築です。そして、生まれ育った沿岸地域を後世につないでいきたいのです。その過程で1次産業の生産物の価値がしっかり認められ、一般消費者や小売・卸売業者とのフェアな取引ができるような社会を実現していきたいと思っています。
■家業経営革新プログラムの概要・その他の事例記事はこちらから
https://kagyoinnovationlabo.com/about/keieikakushin/