岡山県の県北の中心都市であり、中国山地の麓に位置する津山市。ここには、地域連携、社業を通じて、学生に選択肢を示せる街へと取り組む家業後継者がいます。サトミ紙工株式会社取締役であり、営業部長も務める里見 允二さんです。
箱を通じて、地元商品の付加価値を生み出す
サトミ紙工株式会社は、創業66 年。段ボールや梱包資材の製造と販売を行う会社です。紙器や美粧ケースの製造・販売をする会社としてスタート。物流業界の活性化やエレクトロニクス産業の進展の中、成長してきた会社です。
商品としては、ダンボール箱、印刷紙器箱、貼箱を扱っていますが、最近では、商品の付加価値を高める為に、貼箱の需要が高まっているそうです。従来、菓子箱などに使われてきましたが、ギフト商品に使われるという形で、商品の付加価値向上に貢献しています。
また、貼箱は、箱という形状上、輸送コストがかさむ為、地域に密着し製造・販売するサトミ紙工の強みが発揮されるとともに、「貼箱、紙器、ダンボールと3 つの種類の箱を扱い、顧客の要望に合わせることができるのは、地元ではサトミ紙工しかないです」と、誇らしく語ってくれます。
地元で健康食品の通信販売を行う大手企業の貼箱製造を長らく一手に担っていたりと、地元商品に欠かせない存在となっています。
創業者である祖父への想いから地元・津山市に帰る
中学校までは地元の津山市で育った里見さん。高校は取り組んでいたバスケットの強豪である岡山県南の高校、大学は兵庫県の医療系の大学、卒業後は、岡山県南の福祉施設で働きます。
創業者である祖父がリハビリで介護の必要な状況になる中、「近くでフォロー出来たら」と勤務先に掛け合って、地元である津山市に戻ってきました。
若手経営者団体で学び、人を生かす環境作りに取り組む
父が社長を務める会社に入社した里見さん。まず、工場で現場を覚え、その後は営業に取り組みます。また、高校から地元を出ていた為、地域での繋がりを得ようと、若手経営者団体で交流するとともに、組織運営を学びます。
経営者団体で学ぶ中、自社に問題意識をもったのは、報連相や会議といった会社の「組織としてのあり方」でした。社長である父は、営業を中心として活躍、会社を成長させてきましたが、「組織経営」まではじっくり取り組めていませんでした。「うちの社員は人としていい。それを生かせる環境づくりに取り組もう」と里見さん。
会議らしい会議が会社にない中、誰かが一方的に話すのではなく、フラットに話しやすい会議を部署毎にできるように、自分自身もそれぞれの会議に参加しながら会社に根付くように取り組みます。
また、昨年からは取締役となり、今までは実施できていなかった、全社員との面談を行っています。面談では、仕事や職場環境、生活面の話を聞きながら、会社への提案や要望も聞く。そこから、更衣室や喫煙所の改善を行ったり、若い社員も多い為、休憩所は雰囲気をおしゃれにしたり、工場の暑さ対策でスポットクーラーを設置したりもしました。
街の中で連携することで、学生に多様な選択肢を示していく
里見さんというと、社員が働く環境作り、人との繋がりを積み上げてくれた創業者や社長への想いも強いですが、地元である津山への想いが強い方です。
きっかけを聞いてみると、若手経営者団体で、地元である津山市のことを調べたり、政策提案をした事だと言います。「街の良い部分、悪い部分を知ることができた。以前はそんなに想いはなかったのですが、調べれば、調べるほど、街を好きになりました」。
そして、社業や人との繋がりを生かして、街を変えていきたいという想いと計画があります。
津山市は、6つの高校、高等専門学校、大学と、多くの学生がいる街です。しかしながら、ほとんど卒業後は地域外に出て行ってしまう現状を変えていきたいと言います。「学生には知られていないが、多くの企業がある。それを知って欲しい」。
例年開催している若手経営者団体主催のビジネスマッチングの会があり、次年度は自分が責任者として、教育機関の方々に協力してもらい、学生にも参加してもらう予定です。「地元企業を知ってもらう機会にしていきたい」と意気込んでいます。
学生との商品開発や新卒採用で機会をつくる
そして、「今後は、商品の製造を通じて生じる端材を使って、学生と新たな商品開発に取り組んでいきたい」と話す里見さん。サトミ紙工がこのような取り組みをすることで、「津山にこんな面白い企業があるんだ」と思ってもらいたい。
津山の企業の多くは人材不足。そして、学生と交流している中で気づいたのは、進学をする学生の中には、卒業後に本当は働きたいと思っている学生もいるということ。「学生の選択肢を増やしてあげたいのです」。
そして、今まで自社では、中途採用が中心でしたが、新卒の人材も採用していきたいと言います。「津山の企業の多くは中途採用が中心です。うちが新卒人材を育成することで、他の企業にも広げていきたい」。
里見さんの想いと計画から、若手人材の活躍する場が広がる津山の未来が見えてきます。地元を想う後継者の地域連携×家業×街のイノベーションの取組です。