家業イノベーション・ラボに参加している家業イノベーターたちがどのようにプログラムを活用し、実践しているのかを深掘りする「家業イノベーション・メンバーズボイス」。参加のきっかけや初めて参加したプログラムから、印象に残ったプログラムで得た気づき、そして実際に成果を上げるためのポイントまで、皆さんの挑戦をサポートする実践ガイドとしてお届けします。
今回は、前野段ボール株式会社の代表取締役社長・前野 大喜さんにお伺いしました。
<プロフィール>
三重県四日市市で1948年に創業した前野段ボール株式会社の三代目。立命館大学で地域づくりを学び、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)株式会社に新卒入社。Tポイント事業や大型中古書店の立ち上げ・運営に携わる。2012 年、28歳で帰郷し家業へ。営業活動、事務、安全、環境、IT、採用、働き方改革等に従事。2023年12月に社長就任。前野段ボールは、「段ボールだけじゃない。どんな願いも包み込む。」スローガンをもとに、段ボールの枠を越えたパッケージング提案、パッケージング技術を生かした商品提案を行う。
■WEBサイト:https://www.maeno-db.com/
どんな願いも、包み込む。“設計する営業”で唯一無二の提案を。
――まずは現在の家業について教えてください。
1966 年(昭和41年)の社名変更を機に“段ボールケース専業”から一歩踏み出し、物流の発展に合わせてリターナブル容器(通い箱)など多素材の包装資材、包装技術を活用したアイテムを手掛ける総合パッケージメーカーへと進化してきました。現在は三重本社に加え、愛知県の豊田営業所、九州にも事業所を構え、自動車産業との結びつきが強く、国内外の組立工場へ最適な梱包ソリューションを提供しています。営業部隊は約10名。ほぼ全員がCADを使って設計まで担う“ものづくり好き”の集団です。現場から持ち帰ったニーズをチームで議論し、自分たちで企画・試作・量産まで伴走するので、お客様の顔を最初から最後まで見届けられるのが強み。“どんな願いも包み込む”を合言葉に、物流効率と環境配慮を両立する包装を通じてモノの移動を支えています。
――大学卒業後、CCC株式会社へ就職されたのはなぜでしょうか?
学生時代は“地域を元気にする仕掛け人”に憧れ、まずは好きなことで結果を出したいと思っていました。立命館大学政策科学部では農山村や商店街に飛び込み、地域おこしのイベントやフィールドワークに明け暮れました。社会課題をビジネスの力で解く面白さを体感し、『まずは事業会社で、自分の手で数字を動かし、結果を出せる場所へ』と考えて選んだのがCCC株式会社です。
CCCグループのジョブローテーション制度に魅力を感じて入社しました。3年間で半年毎にグループの多彩な事業や職種を経験できる仕組みで、TSUTAYA以外の新事業にも注力し始めた変化の時期だったことから、「短期間でさまざまな挑戦ができ、成長を感じれそうだ、何か特技が見つかりそうだ」と思ったのがきっかけです。実際、3年間で6回異動し、大阪・東京・福岡と移住を重ねながら、幅広い仕事に携わりました。TSUTAYA店舗運営やTポイント(現Vポイント)の営業、中古書籍事業のMD(マーチャンダイザー)など、目まぐるしく働く場所や職種が変わり、顧客接点に近い場所で、売れる仕組みづくり(原因づくり)を企画・実行し、現場で効果検証を重ねました。
実際の現場のアクションとお客様のリアクション・数字が繋がってくることに面白味を感じましたし、別事業で取り組んだことと今の担当事業の仕事を掛け合わせることで良い企画や連携が生まれることも学びました。ある時、上司が自分の日報に 「自分に仕事を合わせるのではなく、仕事に自分を合わせると成長できるよ」と書いて下さったことが強く印象に残っています。それまで「自分らしく働く」とは、自分に合った職場や仕事を見つけることだと思っていましたが、「どうすれば相手に喜んでもらえるか?」考え方や行動の軸を相手の価値に寄せることで、自分の器を広げたり、想像以上の結果が出ることも知り、仕事への姿勢も変化しました。目の前のどんな仕事もお客様に繋がっている。自分の影響が及ぼせる範囲で顧客価値を生み出す原因を考えながら、何事もまず行動し、愚直にアイデアを形にしていき、周囲にも信頼されるように努めました。販促や売場づくり、仕入れ、接客、飛び込み営業や電話でのアポイント獲得なども経験し、自ら機会をつくる力やマーケティング思考、突破力も磨かれました。外の世界で得た「変化に対応する力」と「相手に価値を届けようとする姿勢」は、家業に戻った今も大きな支えとなっています。
――家業に戻る決め手は何だったのでしょうか?
CCCでの3年間、仕事は面白かったものの半年毎にゼロからはじめて短期的な成果が求められる職場ではなく、とことん向き合い、積み重ねるフィールドも魅力に感じるようになっていました。2011年の東日本大震災を境に、被災地支援に行き、壮絶な現場を目の当たりにして、実家の売上が落ち込みはじめたと聞き、初めて“家業の危機”を意識しました。そんな折、私にキャリアの事について今まで何も言わなかった父が福岡まで来て、ボソッと『そろそろ戻ってきたらどうか?』、『千載一遇の機会を逃すわけにはいかない』と漏らしました。それまで家業の数字も事情もほとんど知らず、継ぐかどうかを深く考えたことはありませんでした。でも、”借りた恩も返しきっていないままでは後悔する””自分の存在価値が一番発揮できる場所なのではないか”“外で培った力で会社をもう一度伸ばせるかもしれない”“震災のような逆風にも強い組織にしたい”という思いが芽生えました。自然に「責任」を感じていました。迷いは意外と早く吹っ切れました。自分なりにベストを尽くし、尊敬できる仲間に出会い、己を知った社会人3年間がそうさせてくれたのかなと思います。「継げる家があるという事は”ある意味”ありがたいこと。やるならやり切れ!」と言われてひたすら感謝の気持ちをもって退職し、2012年に前野段ボールへ覚悟をもって飛び込んだのが、家業を継ぐことになったきっかけです。
ーー入社直後に直面した課題は?
2012年、28歳で家業に飛び込み、正直“カルチャーショック”の連続でした。今まで顧客のみを見て、事業や企業の成長を目指して働くことが当たり前だと思っていましたが、“売上を伸ばそう”という熱量の薄さに面食らったんです。一方、会社として大切にしていること、安全対策、災害準備、品質管理、設備管理、協力企業との連携、仕入れ、効率的な物流、システム最適化、採用、組織づくりなど、サプライチェーンについての私の理解はまだまだ浅く、顧客価値を支える土台について学ぶべき事が沢山ありました。まずは現場を知らねばと、営業車やハイエースの運転、フォークリフトの操作や製造機械のオペレーション、CADなど一から習得していきました。実際自分がその作業をやってみると、理解できることが沢山ありました。ところが2014年、事務所でトラブルが発生し、11〜12名の女性社員を束ねるカスタマーファースト室の室長に指名されます。10名を超える女性社員が所属しているCF室で“1対1の対話”を徹底し、コミュニケーションの難しさと組織づくりの基礎を身をもって学びました。落ち着くと “暇より営業” と名刺を手に走り回り、親友の力なども借りながら新規開拓や商品開発を開始。古いパンフレットを刷新し、VRゴーグルを使った工場ツアー動画を企画するなど、少しずつ“角度をつけた(エッジをきかせた)提案”などもして、成果を積み重ねていきました。12年もの現場修行と営業経験が、社長になり、事業の方向性を考える際に大きな力になっています。
何もしなくても学べるし、動けば一緒に何か生み出せる。
――『設計する営業』体制は、どのように生まれたのですか?
昔から前野段ボールは、営業が設計もするワンストップスタイル(今流行りの2刀流)で、それが他社が真似しにくい強みになっています。お客さまの顔を最初から最後まで見られる環境が、ものづくり好きの社員のモチベーションを高めていると感じます。見積りと一緒に3Dデータと3Dプリンターで出力された部品と試作品、デジタル印刷機で印刷された精度の高い試作品をすぐお持ちしたり、加えてお客様が欲しい情報を整理して資料としてお渡しすると、お客様の表情や、そこからのお客様の社内における仕事のはかどり方もまったく違います。中途・異業種出身のメンバーにもCADや緩衝設計をOJTで学んでもらったり、専門的なメンバーも採用したり、新しいテクノロジーを導入したりしながら、試作→提案→量産までのリードタイムを短縮し、お客様に一層喜んでもらえるように環境づくりをしています。最近はイラストなどのデザインなども丁寧に高いクオリティーででき、試作設計を頑張ってくれる元気なチームもあり、個々の長所も生かしあって、活気に溢れた商品づくりをしています。
――社長就任後に最優先した組織づくりは?
代表就任後に特に大切にしているのは“言語化”です。会社の目的や目標を4つの観点(自分有形/自分無形/他者有形/他者無形)で整理し、誰もが共感できるやさしい言葉に置き換えることで、方向性を共有することを心がけています。結果だけを追うのではなく、まずは“関係性の質”を高めることが何より重要だと考えるようになりました。父から引き継いだ「全員協力して幸せになる」という使命を大切にしています。
Q:クオリティ お客様が満足する仕様の商品
C:コスト 値ごろな商品・サービス
D:デリバリー 希望通り、ジャストインタイム・綺麗な荷姿で納品
S:サービス 親切・感動を感じる対応
S:スピーディー 早いレスポンス
S:差別化 他者にはない良さや違い、付加価値
S:セーフティ 安全、安定感、あんしん感のある商品・サービス
売上・利益(パフォーマンス)ももちろん大切ですが、パフォーマンスを支えるのは職場であり、一人ひとりの個人です。職場の空気や一人ひとりの気持ちに丁寧に耳を傾け、メンバーが前向きな態度で働ける環境づくり(メンテナンス)も同じぐらい重要視しています。リーダーが現場の“願い”もすくい上げ、共感を得ながら進めることで、自然とやりがいが生まれ、成果もついてくる。そうした考えを形にしたのが、社員の想いや未来像も盛り込んだ『ビジョンコンパス』です。
成果は“バン!”と一気に出すより、関係性の質が上がる→思考が前向きになる→行動が変わる→結果がついてくる、という順番を大事にしています。社員一人ひとりの“コップ”が下を向いたままでは何も入らない。まずコップを上向きにできる心理的安心とやりがいを整えること。リーダーが職場の小さな願いまで掬い上げ、不安を減らしながら共感を束ねる。そんな経営を心がけており、理想とするところです。
――家業イノベーション・ラボを知ったきっかけや、参加しようと思った動機は何ですか?
家業ラボとの最初の接点は 2019 年です。大学時代にお世話になり、鳥取で学生と地域や企業をつなぐ活動を続けている団体、NPO法人bankup(旧・学生人材バンク)代表の中川玄洋さんから声を掛けてもらい、コロナ禍をきっかけにスタートしたオンラインコミュニティに参加したのが始まりです。宮治さんをはじめ全国の後継者が画面越しに集結していて、リアルな学びを吸収できましたね。コロナ禍で対面の場が消えた直後でも『全国に仲間がいる』という安心感は大きかったです。その後も定期的にイベントが開かれ、画面越しに意気投合した方々と共同企画を立ち上げたり、実行委員・片山さんがわざわざ来訪してくれたり、オンライン発の関係がリアルへ広がる面白さを実感しています。
――家業イノベーション・ラボで印象に残っている出来事は?
東京都墨田区の段ボールメーカー五十嵐製箱・五十嵐さんとの意見交換や、北海道札幌市の印刷会社である北海紙工社・梅田さんから「格好良いオリジナル製品を作りたい!」というご相談があったり、『ビジョンコンパス』を石田製本の今村さんに作成するのをお手伝いいただいたり、“同業者×異業種”の掛け算から新しい価値が生まれた瞬間が面白かったですね。“これ出来ますか?”といった技術相談から業界特有の悩みまで率直に共有でき、自社にも役立つ知見や設備投資のヒントを持ち帰れるのが何よりの宝です。
——家業イノベーション・ラボの良さは、どんなところにあると思いますか?
一言でいえば、家業ラボは“自発性と遠心力”が共存する稀有なコミュニティです。コアメンバーの濃密なやり取りが中心にありつつ、その周辺に緩やかな関与層が幾重にも広がっていて、関わり方を自分のペースで自由に変えられるのが最大の魅力。オンラインイベントに必ず顔を出す必要も、何か成果を強制されることもありません。それでもタイムラインに流れるメンバーの投稿やプロジェクトを眺めているだけで “こんな挑戦があるのか!” とインスピレーションが湧き、実際に私は経営計画書づくりのヒントをもらいました。
デジタルを前提にした設計だからワンクリックで参加・離脱ができ、創発的なコラボが自然発生する。多様な人材が集い、同質的な空気に流されずに意見を出せる安心感も大きいですね。“何もしなくても学べるし、動けば一緒に何か生み出せる”。この柔らかな構造こそ、家業ラボのいちばんの良さだと感じています。
イノベーションは掛け算だからこそ、出会いが価値に。
——実行委員メンバーとの関わりについても教えていただけますか?
もっとも密に接しているのは片山あゆ美さんです。まず驚かされるのが “リアクションの速さと深さ”。こちらが何か投げると、必ず『まず受け止める→即レス→具体的な次の一手を提示』の三拍子で返ってくるんですよ。『リアクション教室を開いてほしい!』と本気でお願いしたいほどです(笑)しかも切り返しが神レベルで、メンバー同士を自然に結びつける潤滑油になっている。
片山さんを含め、実行委員の皆さんは主体的に動く姿勢が印象的で、『大企業に属しながらも独立したビジョンでコミュニティをドライブする人』というイメージ。やり取りする中で学んだのは、相手の感情を先回りして受け止める反応力、メンバーを橋渡しする編集力、そして自分も成長し続けることでコミュニティ全体を伸ばす姿勢の3点ですね。そして、共通しているのは、“組織の要請”ではなく“自分の志”で関わっている点です。その覚悟があるからこそ、家業ラボは遠心力が働いても崩壊せず、むしろ創発が加速しているのだと感じます。
——どんな方との出会いや、学び、サポートがあると嬉しいなと思いますか?
いちばん嬉しいのは“掛け算”が起こる出会いですね。たとえば私たちがまだ踏み込めていない領域、海外(オランダなど)での販路開拓やデジタルサービス化など、具体的な経験を持つ方と1対1で組み、点と点をつないで新しい商品・サービスを共創できる場。家業ラボなら、互いの得意分野を補完し合いながら“このステップが掴めず登れない”という壁を一緒に越えられるはずです。実際、「本のようなダイヤリー」boccoDIARYを購入した流れで札幌市の製本屋さん・石田製本の今村さんとオンラインのギャザリングでお会いして、ユニークなコラボで当社の経営計画書、ビジョンコンパスが生まれました。こうした“一見遠い相手と距離を飛び越えてつながる”めぐり会い”こそ家業ラボならではの価値。大人数よりも1対1や少人数で具体性を突き詰める形が合うと思うので、今後もピンポイントなスキルを持つメンターやパートナーとのマッチングが増えると嬉しいです。
――最後に、同じように家業を継ぐ立場の方々へメッセージをお願いします。
家業にいると “うちの業界はこうだから”、“昔からこうしてきた” と、知らず知らず固定観念の引力に引っ張られ、その中で動きがちになってしまいます。でもその枠を壊す一番の近道は、外の力──同じ境遇や似た課題を持つ仲間──を借りることでした。私自身、人づてに誘われて家業ラボに入り、“参加型”より“誘われ型”だったのですが(笑)、一歩踏み込んでみたら想像以上のヒントと刺激に溢れていて、視野が一気に広がりました。まだ家業ラボができていなかった時期だったのもありますが「20代でもっと早い時期に入っていれば…!」と感じたので、20 代でも 30 代でも、心にくすぶる思いがあるなら今日が一番早い日です。固定観念を更新し、家業を未来につなぐパワーを一緒に育てましょう。気軽な気持ちで、ぜひコミュニティの扉を叩いてみてください。お待ちしています!
