「みんなが幸せを実感できるゴルフ場」 栃木県ゴルフ場の3代目、小林忠広さんが挑む

家業イノベーションラボの立ち上げ当初から、活動に参画いただいている小林さん。今年4月よりゴルフ場経営を行う株式会社セブンハンドレッドの代表取締役社長に就任されたことを機に、今のご心境やこれからのチャレンジなどを伺った。

「大学卒業前までは、いつかはゴルフ場を継ぐことになるのかもなぁ、程度の漠然とした思いしかなかった」と胸内を語る小林さん。「ゴルフ場のある栃木県さくら市の教育委員会の方と話している際に、今の子どもたちは屋外でのびのび遊ぶ機会も場所もないことを知った。ならば、ゴルフ場を上手に活かしながら、地域に何か貢献する仕組みづくりに興味が沸き、継ぐことへの関心が強まった」という。

 大学卒業が近づく頃、社長である父から「卒業後はどうするのか。ゴルフ場はどのように考えているのか」といった話が少しずつ増え、「継ぐ」ことへの意識が強まった。次第にゴルフ場の管理方法などの学びを深め、2017年秋頃より経営への本格的な関りを始めた。少しずつ決定権を移行し、2018年に取締役に着任、そして2019年4月に代表取締役社長に就任した。

きっとお父さまは継いでもらって、安心しているのではないでしょうか?と訊ねてみたところ、「今はまだ不安感のほうが強い。父は自分とは真逆な性格で、コツコツと積み重ねながら物事を進めるタイプ。なので、自分の提案した事柄に対して、面白そうなチャレンジではあるが、しっかりと仕組みを考えた上で行動した方が良い、というアドバイスを常にもらっている」という。

小林さんのゴルフ場は、祖父と父で立ち上げた事業。実質三代目となった小林さんにとって、今最も苦労している事を伺った。

「約40名の社員に支えられながら運営しています。事業に携わって一番に組織内のコミュニケーションを密に出来ないかと考えました。大変チャレンジではありましたが、「1on1」と題し、一人ひとりと話を重ねる時間を意識的に設け、相互理解を深めることを大切にしました。実行する中で、社員の皆さんはありがたくも本当にセブンハンドレッドを好きでいてくれているということが分かった。また、セブンハンドレッドを好み、また居続けてくれる社員が存在する理由は、今までセブンハンドレッドクラブを作り上げてきた祖父と父の存在があり、そして何よりも社員の方たちがその環境を大切にしてきてくれたからということを実感したからです。ただ残念なことに、社員の皆さんの意見や思いをマネジメントに伝える機会がこれまではなく、そんな機会を待っていたのだと分かりました。事業に関する報告会は幹部のみで行っており、かつ生産性ある方法ではなかったため、思い切って必要のない会議をなくすというチャレンジも図りました。代わって、今はSlackを導入し、皆が社内で起きている事を見えるようにしました。シニア社員にも慣れない中、使ってもらっています。今実感するのは、社員間同士のコミュニケーションの活性化から生み出される信頼関係です。例えば、slackを活用し始めた当初、スマホでは読みづらい、情報が伝わりづらいといった意見が聞かれました。そのため、大切な情報は皆が見やすいようにslackに加えて印刷した紙を掲示することにしました。大切なのは、社員が率直に「やりづらい」と言えるコミュニケーションや環境づくりであることを実感しています。先ずはやってみて、上手く行かなかったことは、上手く行くように修正する。そんなアクションがコミュニケーションの活性化を通じて生まれ始めました。」

その他のチャレンジは?と伺ってみると、ビジネスのあり方とのこと。

基本的ではあるが、お客さまに満足してもらうためには、サービスを向上し続けることが大切で、このことを実現するためには社員一人ひとりの姿勢にかかってくる。小林さんは今、このことを意識して、リピートされるお客さまを増やすための仕組みづくりを改めて考えている。

「私たちのゴルフ場はお陰様で2020年に40周年を迎えます。栃木には多くのゴルフ場があります。経営権が変わらずに続けられていることには祖父と父に大変感謝しています。父はかなり早い時期からネット会員制度を導入してきた人物で、セブンハンドレッドクラブのコアファンを構築してきました。これからも選ばれるゴルフ場となるために、サービスの質の向上に集中するべきと考えています。足を運んでくださるお客さまに、今まで以上に良いサービスをご提供することが必要だと思っています。既存のお客さまから愛され続けるゴルフ場となり、その成果をもとに更なる新規事業を考えることが次のチャレンジです。」

小林さんをご存知の方は頷いていただけると思うが、常に先手を考え、戦略とアイデアを生み出すことに強いパッションを持つ。そのため、「次なる新規事業」という言葉に大変興味をそそられ、具体策を伺ってみた。

「次なるチャレンジは社内制度の質を高めること。その中で最も重視しているのが、会社のビジョンとミッションを明確にすることでしょうか。ビジョンとミッションはスタートアップなら作りやすい。一方、40年の歴史を持つ会社になると難しい。これまで一緒に歩んできてくれた社員と共感しつつ、皆で目指したい!と思う目標設定をどう生み出すべきか模索中です。この2年間、社員とワークショップを重ねながら、社員一人ひとりの会社への想いを聞くことに徹した。結果、大変シンプルなアンサーではあるが、たどり着いたのは『みんなが幸せを実感できるゴルフ場』。」

みんなが幸せを実感できるゴルフ場。込められている意味は、お客さんも地域の皆さんと共に、社員の皆もしっかりと幸せを感じるゴルフ場にしたい、そのための仕組みをつくる、という小林さん自身の宣言だった。

では、どうやって目指していくのか?これから色々と方法を探っていくことになるが、ゴルフ場をこれまで通りにゴルフをプレーする場所として終わらせるのではなく、時代の変化に合わせながらニーズに応えつつ、幸せを感じる場所の存在に育てていくことを決めている。「世界一何でもできるゴルフ場になる」こととは、例えば学童保育のあるゴルフ場であったり、コワーキングスペースのあるゴルフ場であったり。周辺地域と一緒に幸せを感じるスペース作りの構想が進んでいる。

「自分の継いだ家業だから、ビジネスをアップデートしていく責任と義務があり、すべきチャレンジもある。そんな醍醐味を実感しつつ、社員と一緒に面白い施策を生み出すことに専念していきたい」と目をキラキラさせながら語ってくれた。

家業を継ぐ人への一言

「継ぐなら、早めに継いだほうが良いと自分の場合は思った。

継ぐか継がないかで迷っていて、具体的に自分に実力が足りないとか、他でまず経験を積んでからと考えている人もいるかと思いますが家業の中でも学びと経験は積めるものです。大切なことは、自分の命の分子のような会社がどうなってもいいのか、この答えに対して、やりたいと少しでも考えるなら、早くコミットした方がいい。最初から100%でなくとも、徐々に30%、50%と成果を上げていきながらの継承も、今の時代だからこそ可能だと信じています。」