「家業イノベーション・ラボ 〜LIVE2018〜」開催(後編)

〜家業承継には大きなポテンシャルと、あなたにしかない使命がある〜

◆ ブレスト会議や悩みを共有する密度の濃い場に

さて、いよいよこの日の核心ともいえる第2部に。全国から集った後継者12名が事業承継にあたっての悩みや課題を発表し、各自のテーブルへ参加を呼びかけます。

前半には、病院やお寺、農家、精密機器をつくる下町工場、畳屋。後半にはこんにゃくメーカーやワイナリー、食品コンサル、養豚、ゴルフ場運営、漬物製造といったあらゆる業種の後継者が揃いました。

各自の挙げた相談ごとは、新しく取り組みたい事業、新商品の開発、IT化、人材を確保する方法など多岐に渡ります。会場の参加者は、各自、興味をもったテーブルへ移動。ディスカッションスタートです。

あるテーブルでは、新商品のブレスト会議さながらの議論に。店舗プロデュースを行う株式会社豊和の山本美代さんは、環境に負荷をかけない新しいタイプの歯ブラシを開発中。ただし大手が参入すれば太刀打ちできないリスクや、歯ブラシに一極集中させてよいのかという不安を抱えていました。参加者からは「市場はニッチなので大手は簡単には参入してこないのでは」という意見や「メッセージをきちんと伝えることができたら高くても買う人がいるのでは」といった声が次々と挙げられます。「B to Bでも、B to Cでもなく、最近海外でうまくいっているD to C(Direct to Consumer)の方法があるのでは」という意見に山本さん自身共感した様子で大きく頷いていました。

別のテーブルは、先代との関係について悩みを共有し合う場にも。親子関係から生まれる感情で、先代は後継者をコントロール下に置こうとするのではと話した人に対して、その関係をずらしてうまく事業を進めるための工夫などが出し合われました。

後半の部では「一緒に働いてくれる人材を探している」と話した登壇者のもとに興味をもつ人たちが集まったグループもありました。カタシモワインフード株式会社の高井麻記子さんのテーブルには学生が4名も参加。どんな職場なのか、どういった考え方で事業を進めているのかといった質問が相次ぎました。これに対して高井さんは自身の手がけている事業は自由度が高く、規模は小さくても採算が合えばやりたいことがやれる状況であると説明。「ワインの原料の搾りかすを活用しておもしろい新製品も開発していますし、ブドウ畑を利活用することも考えています。農家さんに利益が還元されていくことが重要。やりたいって手を挙げる人がいたら、あなたやってねって話になると思います。ゆくゆくは独立して自分の事業を立ち上げてくれるような人が理想」と語ります。この場がリクルーティングの様相を呈する一方で、人材を集めるアイデア出しも行われました。

◆ 新たな視点を得た承継者たち

各テーブルごとのディスカッションが終了し、最期は全員が一堂に介してシェアリング・セッションに。さまざまな感想や振り返りがありましたが、大きくは以下三つの特徴が見えてきます。

一つは、この場で新たな気づきやアイデア、方法論など具体的な知識を得たという点。マーケティングや、商品の展開法など知らなかったことを知り、ビジネス面で勉強になったという感想です。

二つ目は、新しい視点の持ち方。これまで家業を古臭いものと見ていたけれど、やり方次第でイノベイティブな事業に変換できることを知ったと話す人もいました。「これまでまったく継ぐことは考えていなかったけれど、今日の話を聞いて心がざわついている」という方も。また、先代を上司と思えばここまでは言わないなど、気の持ち方次第で問題を交わすことができる、視野が広がったという声もありました。

三つ目は、家業ならではの時間軸の話。家業イノベーション・ラボ実行委員の一人である農家のこせがれネットワークの宮治勇輔さんは「自分たちの代で成果を出せずとも次の世代にバトンタッチすることが家業の大きな目標。短期間で成果を出さなければならない企業とは違って、じっくり取り組める良さがある」と話しました。

その後、家業イノベーション・ラボ実行委員のエヌエヌ生命の親会社があるオランダのスタディーツアーで訪れた3名の報告を聞き、最期は同じく実行委員のNPO法人ETIC.と宮治さんから来年に向けての展望が語られました。

「これだけ多くの人たちとこの会を終えられて感無量です。来年はもっと具体的にみなさんの事業を応援するアクセラレーションのプログラムをつくりたい。プロボノなどお手伝いしてくれる人とのマッチングも考えています。ご意見やお手伝いできる人があればどんどん声をかけてください」

あっという間に過ぎた5時間。会の終了後、登壇者も参加者もリラックスした様子で、交流会に加わります。

何人かにこの日の感想を伺ってみると、「地方にも同じようなコミュニティがあるといい」といった声や「直接自分が承継する立場ではないけれど、参加して皆の熱意が伝わって刺激になった」という人も。広島から訪れた、家業の大工と自分のやりたい洋服づくりを兼業しているという男性は「服づくりもあきらめずに、家業を継ぐ方法もあるのかなと思えました。大工という古い固定概念にとらわれずに、古民家再生やDIYなどのイベントを仕掛けるなど、新たな視点でチャレンジしていきたい」と話しました。

参加者は、ゲストや登壇者の話を自分の立場に照らし合わせ、新たな視点や勇気を得たようす。「家業イノベーション・ラボ」の活動は、来年もさらにバージョンアップしていきます。