家業イノベーション・ラボ×JAPAN BRAND FESTIVAL クラフトソン スピンオフセッション~「色」をテーマに新たなイノベーションの可能性を探る~

2021年9月8日、家業イノベーション・ラボとしてはこれまでにないユニークなセッションが行われました。それは、8月に開催された「ヨーロッパ市場に向けた循環可能な商品開発クラフトソン」(以下、クラフトソン)のスピンオフともいえるものです。

セッション動画はこちらからご覧いただけます。

クラフトソンとは、家業イノベーション・ラボとJAPAN BRAND FESTIVALのコラボレーションによって行われたプロジェクトで、サーキュラーエコノミーをテーマに、国内でものづくりに携わる4社が海外で活躍する優れた人材を介し、日本の品質と海外のクリエイティブを融合させた商品開発と海外販路開拓を目指しました。家業イノベーション・ラボにとっても初の試みで、8月にキックオフイベントと2日間に及ぶワークショップが行われました。

今回のセッションの主役は、このクラフトソンに参加した2社です。銅器製造が盛んな富山県高岡市で金属着色を事業とする有限会社モメンタムファクトリー・Oriiと、岐阜県瑞浪市を拠点に色ムラのあるタイルを提供するタイルブランド「TILE made」を運営する合同会社プロトビがオンライン上に集いました。

お互いの技術を学び合い、イノベーションにつながるヒントを探す

モメンタムファクトリー・Orii とプロトビには大きな共通点があります。それはどちらも昔ながらの伝統技術を用いて唯一無二の色を実現する、着色が主体の製造業だということです。モメンタムファクトリー・Oriiが着色する素材は金属、一方、プロトビが着色するのは陶器であり、どちらも建材として高く評価されています。しかし、先のクラフトソンで、両社はアドバイザーとして参加したデザイン会社「BCXSY」のファウンダー兼デザイナーのボアズ・コーヘンさんから同じような指摘を受けました。それは、金属もタイルもすでにヨーロッパにある素材であり、だからこそ、わざわざ日本から輸入してまで欲しいと思わせる+αの価値の提供が必要だということでした。
2日間に及ぶワークショップでは、両社ともに想定したユーザーから課題を深掘りし、自社の商品の新たな可能性を探っていきました。そして、自社が培ってきた技術や製品を紹介していく中で、お互いの色付けの技術に近しいものを感じた両社は、もしかしたら協業の可能性を秘めているのでは?という気づきから、今回のセッションに至りました。
セッションでは、モメンタムファクトリー・Oriiを代表して職人の堀内茉莉乃さんと、家業のタイル釉薬を製造する株式会社玉川釉薬のプロデューサーも兼ねるプロトビ代表の玉川幸枝さんが登場し、お互いをもっと知ることからスタートしました。というのも、同じ色を扱う製造業ではありますが、素材が違えば知らないことも数多くあるからです。

モメンタムファクトリー・Oriiは、代表取締役社長の折井宏司さんが伝統技法のもとで厚さ1㎜以下の薄い銅板に着色する新たな技法を生み出し、金属着色の可能性を大きく飛躍させました。現在は、建築資材はもちろんのこと、テーブルウエアなどオリジナルプロダクトの製造のほか、銅板の柄をプリントした布を用い、アパレル業界にも進出。ものづくりの産地である高岡の中でも、革新的な挑戦を続ける稀有な存在として注目を集めています。

玉川釉薬は、タイルの色の調合からサンプルとなるタイルの吹き付けまで行いますが、「TILE made」はこの工程からヒントを受けて誕生しました。事業の視点を少しずらしたことで、量産の隙をつくユニークな取り組みとして注目を集めましたが、開始から3年を経た今、玉川さんは事業の再構築が必要だと感じるようになりました。先のクラフトソンには、「家業の釉薬を使ったタイル製造の新たな販路開拓と海外展開のアイデア、そして、一緒に行動できるパートナーを探したい」という理由から参加しました。

今回のセッションでは、着色にまつわる技術や製造工程のほか、建築資材製造に携わる企業ならではの共通した悩みにまで話が及びました。途中、オンラインで工場を案内しながら、詳細な製造工程が解説されていくとお互いの興味はさらに深まったようで、随時質問が重ねられていきました。
その中で玉川さん、堀内さんが気になったのは、金属と陶器の耐熱温度の違いです。玉川釉薬では釉薬をかけたタイルは1250℃で焼き付けますが、一方、銅や銀は熱に弱く、着色した緑青なども熱を加えると真っ黒に変色しまうといいます。ただ、色数に制限のある金属着色と比べると、釉薬の無限に近いカラーバリエーションはとても魅力的だと堀内さんは話しました。そして、最後は玉川さんも堀内さんも「一緒にできるという可能性は感じるが、具体的なアイデアを出すにはもっとお互いの技術を学ばなければいけない」と、さらなる知識の習得に意欲を示しました。

今回のセッションは、クラフトソンから派生した新たなイノベーションの可能性を探る、その第一歩となるものでした。すでにイノベーション先駆者として業界内で注目を集める両社が、さらなる事業のアップデートを目指し、今後もセッションを重ねていく予定です。その結果、誰も想像もしなかったユニークなプロダクトが生まれる可能性もあれば、玉川さんと堀内さんの取り組みが業界の常識を覆し、新たな風を巻き起こす可能性も秘めています。家業イノベーション・ラボは、今後の両社の協業の可能性について大いに期待し、これからもしっかりサポートしていきます。