東京青年会議所/気仙沼青年会議所×家業イノベーション・ラボ オンラインセミナー「地域の回復と家業の変革を実現するリーダーシップ」レポート

2021年3月11日、東日本大震災から10年を迎えたこの日、家業イノベーション・ラボでは公益社団法人東京青年会議所・第72代理事長であるKTT株式会社・代表取締役社長の外口真大さんと、一般社団法人気仙沼青年会議所・第53代理事長であり、アサヤ株式会社の専務取締役である廣野一誠さんを招き、地域の復興とともに現在のコロナ禍においてのリーダーシップの発揮にフォーカスを当てた特別セミナーを開催しました。

異業種から転身が家業承継にプラスに働く

今回のモデレーターは、NPO法人農家のこせがれネットワーク 代表理事であり、家業イノベーション・ラボ実行委員を務める株式会社みやじ豚の代表取締役社長・宮治勇輔さんです。外口さんや廣野さんと同じように家業承継者である宮治さんが、震災直後の被災地・気仙沼の状況から青年会議所の復興支援活動、さらにはお2人の家業のイノベーションに向けた取り組みなど、多岐にわたって話をうかがいました。

外口さん、廣野さんは家業において重責を担う立場である一方、地域のリーダーシップを育む青年会議所の理事長という2つの顔を持っています。特に被災地・気仙沼を拠点とする廣野さんは、特別な思いで家業と地域貢献に取り組んでいます。

廣野さんの地元・気仙沼は、東日本大震災では激しい揺れと津波で甚大な被害を受けました。三陸海岸を拠点に漁師に漁具を卸してきた創業171年のアサヤ株式会社も本社社屋が被災。廣野さんの父親や社員は内陸部で被災を免れた倉庫や樹脂成形工場に集まり、漁業の支援に取り組みました。しかし、当時、廣野さんは東京暮らし。生まれ育った故郷の被災した状況に心を痛めたものの、むやみに帰省しても被災地に迷惑がかかるのではないかと考え、帰郷する決断にすぐに踏み切ることはできませんでした。そして、2014年、家業を継ぐために気仙沼に戻りました。

そこで、廣野さんが取り組んだのは、大きなダメージを受けた漁業を活性化するため、観光で地域を盛り立てることでした。なぜなら、地元の人にとっては当たり前のことも、外から来た人には新鮮に映ることを自らの体験から実感したからです。その1つが体験を通じて気仙沼の魅力を発信する「ちょいのぞき気仙沼」でした。しかし、この取り組みは単に観光客の誘致を目的としたものではなく、廣野さんにとっては高齢化が進んで技術も人も衰退の一途を辿る漁業も活性化したいという思いが根本にありました。

また、外口さんもとてもユニークな経歴の持ち主です。高校卒業後はロンドンの大学に進学し、ビジネスマーケティングを専攻しました。人種のるつぼであり、さまざまな考え方、思考が交差するロンドンで過ごした日々は、外口さんに多様性を受け入れるよい機会になったそうです。

そして、大学卒業後は、以前から法律に興味があったことから、大手企業の内定を蹴って国会議員秘書へ。秘書として政治はもちろん、法律が成立するまでの過程を間近で学ぶことができた外口さんは、その経験を家業にも役立てています。外口さんは厚生省が発する医療事業関連の議事録などを丹念に調べては、事業の進むべき方向性を素早く察知し、柔軟に動くことを心がけているといいます。

その外口さんが理事長を務める東京青年会議所も震災復興にいち早く取り組んだ団体です。震災5日後には救援物資の受付を始め、メンバーの工場やトラックなどを無償で借り受け、4月1日から搬送を始めました。その量は204トンにも上ったそうです。さまざまな業種に携わるメンバーが集う青年会議所だからこそ、このような素早い行動が可能だったと外口さんは話します。

課題をクリアするためにチャレンジを恐れない

セミナーも終盤に差し掛かったころ、モデレーターの宮治さんは現在の課題について質問しました。

廣野さんはご自身が得意とする総務系を皮切りに社内改革に着手。現在は人事評価システムの改善を進めているそうですが、今後は技術や営業の分野でのリーダーシップのはかり方が課題だと話しました。その課題をクリアするためにも、全国の青年会議所の理事長たちの取り組みやその熱量はよい刺激になっているそうです。

外口さんは代表に着任後、業界における破壊的イノベーションを強く感じたといいます。たとえば、自社で商品を開発しても、2,3年も経つと似たような商品が登場し、開発費用さえペイすることが難しい状況に陥ってしまう。そこで、外口さんは市場の価値だけで商品を判断するのではなく、自分たちが掲げたビジョン「生体親和性」をもとに、商品価値を判断することにしたといいます。理念に沿った商品を仕入れることを常に心がけた結果、販路は拡大し、会社そのもののブランディングにもつながったそうです。
※クレイトン・クリステンセンが著書で記したもので、既存事業のルールを壊し、業界の構造を劇的に変えていくイノベーションモデルのこと。

廣野さん、外口さんに共通していることは、ともに異業種からの家業承継者だということ。そして、震災から10年が経過した今、IoTやDXなどのデジタル化の波やコロナ禍における新生活様式が当たり前になる状況の中で、事業の方向性をしっかりと見極め、社内改革にも意欲的にチャレンジしていることでした。廣野さんは観光業にも関心を持つことで、地域貢献だけではなく、漁業の発展も目指しています。外口さんは常にアンテナを張りながら、医療業界の発展に取り組むだけではなく、大都市・東京の青年会議所の理事長として新たな創造を育むべく奔走しています。

約1時間半にわたって開催された今回の特別セミナーでは、社員はもちろん、地元の企業や地域の人々のリーダーとして尽力している廣野さん、外口さんの活動を通して、家業との向き合い方や心構え、さらにはリーダーシップのとり方など、たくさんのヒントをいただきました。そして、今なお、困難を強いられている被災地のさらなる復興につながるように、私たちの日々の行いがとても重要であることを再認識した日でもありました。