家業イノベーション・ラボ × JAPAN BRAND FESTIVAL ヨーロッパ市場に向けた循環可能な商品開発クラフトソン アイディエーションワークショップ Day2 レポート

日本発のプロダクトやサービスの発展を支援するJAPAN BRAND FESTIVALと家業イノベーション・ラボとのコラボレーションでスタートした、短期集中型プロジェクト「ヨーロッパ市場に向けた循環可能な商品開発クラフトソン」(以下、クラフトソン)。家業イノベーション・ラボは、これまでも多くの家業後継者の皆さんのイノベーションを後押ししてきましたが、その中でジャパンブランド、日本のものづくりの可能性は無限であるという確信から、本プロジェクトを始動しました。
本プロジェクトにエントリーした、有限会社モメンタムファクトリー・Oriiや合同会社プロトビ、株式会社松井機業、徳田畳襖店の4社は、すでに国内で多くの実績を持っているものづくり企業です。そこで、たた単に新商品の開発や海外販路開拓だけに留まらず、イノベーションにつながる挑戦として、今、欧米で関心が高まるサーキュラーエコノミーをテーマに取り組んでいただきました。

日本ならではの魅力をアイデアに落とし込む

2021年8月15日に行われたワークショップDay2では、まず前日に行われた6時間にも及ぶワークショップDay1を振り返ることからスタートしました。特にワークショップDay1を締め括るプレゼンテーションで、オランダのデザイナー、ボアズ・コーヘンさんとパートナーの山本紗弥加さんから寄せられた「わざわざ日本から輸入しても欲しいと思わせる、強烈な付加価値」について考えを巡らせます。

各ブレイクアウトルームでは、ファシリテーターとして参加したJAPAN BRAND FESTIVAL運営メンバーや家業イノベーション・ラボ実行委員とディスカッションを重ねていき、ターゲットユーザーに対するアイデアの提供価値の定義を追えると、次はアイデアをプロダクトにするための具体的な仕様や開発計画などが話し合われました。

そして、ワークショップDay2の最後は、2日間にわたって行われたワークショップの成果の発表するプレゼンテーションが控えています。ここでは、各参加メンバーが導き出したアイデアの提供価値を発表するとともに、実際に商品化や海外展開する際の素材や製造方法、リソースの有無など、実践さながらの本格的なプレゼンテーションが行われました。

このプレゼンテーションに対して総評を述べていただくのは、前日に引き続き、ボアズさんと山本さんのお二方と、Circular Initiatives & Partnersの代表でサーキュラーエコノミー研究家でもある安居昭博さん、デザインスタジオの合同会社シーラカンス食堂の代表・小林新也さん、駐日オランダ王国大使館広報・政治・文化部のバス・ヴァルクスさん、そして、家業イノベーション・ラボを共催するエヌエヌ生命保険株式会社チーフ・エクスペリエンス・オフィサーの信岡良彦さんです。ゲストの皆さんには、プロダクトとしてのデザイン性はもちろんのこと、ヨーロッパ市場に向けての合理性やサーキュラーエコノミーの実現性も踏まえたうえで、皆さんが得意とする分野からさまざまな視点で意見を寄せていただきました。

これまで伝統工芸による新たな商品開発と海外販路開拓に非常に多く携わり、今も積極的に日本発のものづくりを世界に発信している小林さんから、ご自身の実体験から海外展開で直面する壁や課題などの紹介とともに、各参加メンバーのアイデアに対して実現性を高めるための具体的なアドバイスが寄せられました。特に、日本で作られた素材の機能的価値については、「商品価値を参加者自身がいかに再認識して、ヨーロッパのユーザーに共感してもらえるかが大事」だと伝えられました。

またサーキュラーエコノミーについては、オランダ・ドイツに住みながら最先端の事例を数多く取材してきた安居さんに、ヨーロッパのトレンドについて紹介してもらうというサプライズも。現在、ヨーロッパのメーカーの多くは、廃棄を出さないビジネスモデルにシフトしており、その取り組みの一環として、商品を長く使い続けてもらえるように修理やメンテナンスもできる生産拠点を市場の近くに構えるようになっているそうです。これは、ヨーロッパから遥か遠い日本の商品を流通させようとする今回の取り組みとはかけ離れた流れではありますが、安居さんは「その不利な点をいかに地場の特色や優れたデザインでカバーしていくか、それができれば可能性はある」とアドバイスも送ってくれました。

デザイン思考の考え方とプロセスに基づく実践的な商品開発プログラム

今回のクラフトソンは、限られた時間でアイデアを出すことに加え、サーキュラーエコノミーへの取り組みや、ヨーロッパ市場を目指すなど、商品開発の前提条件や背景がかなり複雑でした。そういった難しい状況を踏まえ、ワークショップではデザイン思考のプロセスをもとにプログラムが進められていきました。

デザイン思考とは、ユーザーの本質的なニーズをもとに問題を見つけ出し、その問題の解決策として新たなアイデアを創出することです。一般的に商品開発の多くは、自社の技術や強みを活かした物を作り、世の中に価値を提供していると思いますが、今回はまずは世の中で必要とされている物や人々が欲している物に着目し、そこから新しい商品を考えていきました。

参加メンバーの中には、「ユーザーのニーズを掘り下げながら、問題を浮き彫りしていくプロセスはやったことなかったので、とても新鮮で勉強になった」という意見も寄せられました。

今回のクラフトソンでは、参加された4社のうち、最終的に1社のアイデアが選ばれ、BCXSYとの協業のチャンスが得られます。それに加え、オランダを拠点に日本のクラフトやデザインプロダクトに特化した展示・即売会を行うMONO JAPANのオンライン受注会「MONO MONTHLY」の10月出展も約束されています。「MONO MONTHLY」に出展することは、海外の人たちの反響をリアルに確認できるチャンスでもあり、今後の海外進出の大きな足掛かりになるはずです。

家業イノベーション・ラボにとって初めての試みとなったクラフトソン。参加された4社の皆さんと同じく、家業の可能性をより強く感じられるよい機会になりました。家業は、先祖代々、受け継がれてきた技術や文化、知識を拠り所に、経済やライフスタイルの変化など、その時代に合わせたイノベーションがあったからこそ、今もなお伝統をつないでいるのだと思います。今回のサーキュラーエコノミーへの挑戦が、4社の皆さんにとって未来へとつなぐイノベーションの第一歩となることを願っています。