家業イノベーション・ラボ×跡取り娘共育協会「NN Innovation Method」から学ぶイノベーションを導くヒント イベントレポート


去る2021年8月27日、家業イノベーション・ラボと「跡取り娘.com」を運営する一般社団法人跡取り娘共育協会のコラボレーションによるオンラインイベント『「NN Innovation Method」から学ぶイノベーションを導くヒント』が開催されました。

本イベントは、経営者として将来の予測すらも困難なこの時代を生き抜くために、家業イノベーション・ラボを共催するエヌエヌ生命保険株式会社が推し進める「NN Innovation Method」から、イノベーションのヒントを見つけていただこうと企画しました。講師にはエヌエヌ生命保険で戦略イノベーションを統括する北澤俊二さんをお招きし、「NN Innovation Method」を形成するデザイン思考やアジャイルメソドロジーをベースに、イノベーションとは何かを考え、身近に捉えてもらうことを目標にお話ししていただきました。

多様な人たちとの交流が常識に捉われない新たなアイデアを生む

冒頭では、家業イノベーション・ラボの共催するNPO法人農家のこせがれネットワークの代表理事であり、株式会社みやじ豚の代表取締役社長の宮治勇輔さんから、このイベントを開催するに至った経緯が説明されました。今から2年ほど前、宮治さんはオランダスタディツアーに参加した際、エヌエヌ生命保険のオランダ本社で「NN Innovation Method」の研修を受けたそうです。宮治さんは、ここ最近、イノベーションという言葉だけが独り歩きしていることに懸念を示し、家業後継者の中にはイノベーションを遥か彼方の出来事のように捉えている人が少なくないことを危惧していました。「今回のイベントをきっかけに、イノベーションはもっと身近で起こせることに気づいてほしい」と、宮治さんは期待を込めて話しました。

では、宮治さんがオランダで受けた「NN Innovation Method」とは、どのようなものなのでしょう。北澤さんはまずその背景から説明しました。

「イノベーションは才能や資本がなければできないと思われがちですが、エヌエヌ生命保険のオランダ本社のCEOであるデイビッド・クニベは、イノベーションは誰もがアクセスできるように構造化し、実行することが重要だと考えました。NN Innovation Methodはそのためのフレームワークであり、イノベーションを起こす手法です。私たちはグループ全体で横断的にイノベーションスキルを獲得することを目指しています」

コロナ禍が未だに収束しない現在も、オランダ本国はもちろん、世界中のグループ企業のスタッフたちとセッションを行っていると話す北澤さん。参加するメンバーは、性別も年代も、役職や職種さえ異なる多様な人たちで、そこに大きな意味があるといいます。

「私たち、日本のスタッフだけでは常識に捉われすぎてしまい、なかなか新しいアイデアは生まれません。オランダを始めとするさまざまなチームとディスカッションすることで、日本の常識がナンセンスであることに気づいたり、そこから新たなアイデアが生まれてくることもあります」

これは家業後継者の皆さんの中にも思い当たることがあるのではないでしょうか。社員や同じ業界の人たちだけでは、自分自身の想像の域を超えるアイデアを創出するのは容易なことではありません。しかし、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちと交流を持つことで、従来にはない手法で仕事の領域を広げられる可能性はあります。

アイデアや思考を可視化し、イノベーションのヒントを探る

「NN Innovation Method」の解説を進めていく中で、北澤さんは「イノベーションには失敗はつきもの」だと話しました。失敗を恐れるあまり、効率を優先し、新たなチャレンジをせずにいると、結果的にイノベーションとはまったくかけ離れた悪循環に陥ってしまいます。
そういった事態にならないように、「NN Innovation Method」には「EXPLORATION(調査)」「PROBLEM(問題)」「SOLUTION(解決)」「BUSINESS MODEL(事業戦略)」「BUILD(作る)」「TEST(試験)」「PRE-SCALE(市場予測)」といったステージが設けられており、その各ステージを行き来しながら新しい商品やサービスを模索していきます。わかりやすくいうと、まずは顧客のことをよく知り、その顧客が抱えている課題を解決するアイデアを考え、そのアイデアがビジネスにつながるかを確認し、テストしていくというものです。つまり、「NN Innovation Method」が実証しているは、アイデアや思考の可視化にほかなりません。

従来の商品やサービスの作り方は、まずはそのものの定義を決めて設計し、市場にリリースすることが一般的でした。しかし、今や環境もビジネスも短期間で大きく変わっていく時代。企業にとって従来のような時間をかけて商品やサービスを作ることはリスクにしかならず、だからこそ、ある程度の要素が備わった時点で商品やサービスのテストを繰り返し行い、素早く小さく失敗しながら前へと進むアジャイルメソドロジーを取り入れる企業が増えているのです。北澤さんは、このアジャイルを習慣化することがもっとも重要であり、それによって想像もしていなかったアイデアの発見や、さまざまなステークホルダーとの協業が可能になると話しました。

イノベーションのきっかけは顧客の中にある

さらに北澤さんは、イノベーションを起こすために必要となる3つの要素を教えてくれました。一つが「Business Viability(ビジネスの実行可能性)」です。イノベーションを起こすには、持続性や経済合理性、将来の発展性を見極める必要があります。二つめは「Desirability(魅力性)」。顧客は何を求め、どんな課題があるのか?そのための解決策は何か?今、話題のデザイン思考がイノベーションメソッドに組み込まれている理由はここにあります。最後は「Technology Feasibility(実現可能な技術)」。時代のトレンドとして、どのような技術があり、それが実現可能なのかを検証します。つまり、デザイン思考で顧客のニーズを深掘りし、ビジネスとして成り立つのか、どういったテクノロジーなら適用できるのか、この三つの観点が揃ってようやくイノベーションの条件は満たされるということです。

最後に、会社の文化としてイノベーションに取り組み続けることが、新しいサービスやビジネスを生み出すうえで、とても重要だと北澤さんは話しました。成功には忍耐も必要です。それは、今まさにイノベーションに取り組んでいる北澤さんの言葉だからこそ、重みがありました。

今回の講演では、イノベーションのきっかけは顧客の中にあり、それをきちんと見いだすことがイノベーションの第一歩だと教えていただきました。長い時間軸で勝負する家業とは異なり、今はビジネスそのものの時間軸が短くなっています。だからこそ、今回の「NN Innovation Method」をヒントにチャレンジしてみるのもいいかもしれません。仮に失敗したとしても、そこに成功の種が潜んでいるとしたら、チャレンジする価値は大いにあるといえます。

これまで多くの女性経営者をサポートしてきた日本跡取り娘共育協会の内山さんも、実際に男性ばかりの業界に女性経営者の視点が入ることで、新たな試みが生まれたケースを間近で見てきました。だからこそ、イノベーションには「視点をずらす」というポイントもあると話しました。

肩肘張らず、物事の視点を少しずらし、顧客の真のニーズを捉えてみたら、意外にも身近なところにイノベーションを起こすきっかけが見つかるかもしれません。