【家業×副業人材事例記事】「活蛸(かつたこ)」の美味しさをたくさんの人に知ってもらいたい!小さな町の小さな水産加工会社2代目の挑戦。

震災を経て固まった「地元に戻り、家業を継ぐ」という意思

——最初にマルカ高橋水産について教えてください

石巻市雄勝町。目の前には天然の良港として知られる牡鹿半島の雄勝湾が一望できるロケーション。
この小さな町で「活蛸(かつだこ)」を主力として製造販売をしている水産加工会社が当社マルカ高橋水産です。
現社長の父が1988年に創業。当初は様々な魚種の加工に取り組んでいましたが、そんな中で出会ったのが現在の主力商品の「活蛸(かつたこ)」でした。
国産の良質な蛸を生きたまま加工・出荷。「活蛸」商品に特化して活路を求めたのが功を奏し、新型コロナや原料価格の高騰に苦しみながらも業績を伸ばしています。
現在の従業員約20人。売上高は約8億円(2022年見込み)。今春には創業以来、初めて新卒で地元高校生も入社しました。

——高橋さんのプロフィールを教えてください

私は会社創業と同じ1988年この雄勝町で生まれました。高校までは野球一筋の体育会系少年で甲子園目指してました(笑)。
大学からは東京へ。正直それまでは家業を継ぐことをまだ漠然とした考えてなかったのが正直なところでした。

しかしそんな時、東日本大震災が発震したんです。

実家の父母が営んでいたマルカ髙橋水産も被災。全壊した工場はわずかその3年前に建てたばかりのものでした。
そして震災直後は両親に連絡が取れない日々が続きました。この時、故郷のこと、両親のことを強く意識したというのが本音でした。

震災後なかなか故郷に帰れず、3週間後やっとのことで雄勝に帰り会えた社長(父親)。
会社も町も甚大な被害を被ったにも関わらず、震災の翌月には事業再開に向けて闘志をたぎらせていた父の顔を見て、
「地元に戻って家業を継ぐ」と決意を固めたんですよ。だって親父すごいじゃないですか。
大学卒業後は修行のつもりで大手水産物卸会社に入社。営業マンとしての経験を積み、2017年に満を持してマルカ髙橋水産に入社しました。
現在は取締役営業部長として経営全般を取り仕切り、2023年5月には代表取締役社長に就任を予定しています。

味に絶対の自信を持つ、熟練の職人が届ける活蛸

——マルカ高橋水産のこだわる「活蛸」について教えてください

私は、マルカ高橋の「活蛸」の味に絶対の自信を持っています。
主力商品は「活蛸」を原料とした製品。「活蛸の炙り焼き」や「蒸し活蛸」。
歯ごたえ、味わい深さ、すべてが最高。皆さんから「こんな美味しいタコは食べたことがない」と好評です。
その美味しさの理由はシンプル。「ノンフローズン」にこだわっているからです。これが歴然とした味の差につながります。

通常は、国内なら北海道、海外ならモーリタニアなどで水揚げされたタコを現地でいったん凍結させ、加工場に運ぶ、「ワンフローズン」の工程です。
しかし当社は北海道や青森、岩手で水揚げされた「ミズダコ」を生きたまま自社専用の活魚車(トラック)で工場のある雄勝まで運びます。
そして生きたままの状態で自社の生け簀で管理。その後、熟練の職人がさばき、「蒸し」や「炙り」などを加工して出荷しています。

この工程は他社がそう簡単に真似できないと思います。まず、国産ミズダコを年間通じて確保するための仕入れルートの確立が前提です。
また、ミズダコは水温が10度以上だと死んでしまうので、徹底した管理が必要です。
専用の活魚車には酸素ポンプや水温調節装置を整備し、運搬時にダメージを与えないように細心の注意を払います。
それでも水揚げ後のストレスで疲弊してしまうので、工場到着後は海水をくみ上げた専用の水槽で1日休ませ、元気な状態に戻します。

設備に金をかければできる、という話でもありません。
以上のようなシステムは、タコをつかめば状態の良し悪しが一瞬にして分かるという熟練の職人さんたちによって支えられています。
うちの社員たちは仕事が本当に丁寧なんですよ。

活蛸の美味しさを、もっと多くのお客さまへ届けたい

——今回のプログラムへの参加理由を教えてください

マルカ高橋水産に入社後から今まではがむしゃらに走ってきました。おかげさまで業績は順調に伸びたのですが、私は大きな課題感を持っていました。
それは、「私一人の力ではこれ以上の事業拡大は難しい」ということです。
具体的には「蛸の魚価高騰」と「人材不足」が障壁となっていることが挙げられます。

私は当社の「活蛸」に絶対の自信を持っていますが、正直言ってまだ実力を100%発揮できていないと思っています。
スーパーのお客様はワンフローズンの味に慣れてしまい、「タコなんて、どれも同じでしょ」と考えています。
当社は人手をかけて丁寧に作っているため、価格だけの競争では勝てません。

モノはいいはずなのに販路が広がらない。営業的なブレークスルーが必要な状態です。でも、それが難しい。人材不足が大きな理由です。
今は取締役営業部長の私が、午前は工場に入って商品の製造や出荷を見守り、午後は事務所に戻って営業、という流れです。
工場が休みの日に大阪や名古屋に出張して取引先を回っています。これでは思い通りの販路拡大ができません。

現在の取引先は主にスーパーなどの量販店です。もちろん、これからも大切にしていきたい顧客ではありますが、魚価の高騰によって状況は変わってきています。
魚価に見合うワンランク上を目指し、高級外食店やホテルにも販路を広げられると思っていますし、その必要性があります。
また、今まで手掛けてこなかった、直接お客様に届ける「BtoC事業=EC事業」や「海外輸出事業」にもチャレンジしたい。
チャンスはたくさんあるはずなのに、一緒に知恵を絞ってくれる右腕社員が足りなくてスピーディーに展開できていない。ここが課題だったのです。

——募集当時は、どのような人材の方を求めていたのですか?

やりたかったのは「マーケティング戦略の着手」。自社の強みを見直し、言語化し、セグメントを決める。そして新しい販売戦略を構築することでした。
この一連の作業を一人で行うのは困難です。
自社のシステムにも商品に自信を持っているのですが、今まで経験と直感でここまで突っ走ってきるため、
視点が「専門家的」すぎてしまうため「客観的視点」がどうしても必要だと思っていたからです。

あと純粋に意見をぶつけ合いながらじゃないと新しいものは生まれないとも思っていましたので、
コンサル会社などプロに委託するのではなく、私と一緒に悩み、考えて進んでくれる「仲間」となれる方のお力をお借りしたいと考えての募集でした。

情熱を持った仲間と共に、今後も

——副業人材の方の採用が決まり、一緒に活動してみての感想を教えてください

今回の募集では3人とご一緒させて頂くことになりました。
3人とも年齢も居住地もバックボーンの違ったのですが、共通していたのは「情熱」。
ありがたいことに他にもたくさんの応募を頂いたのですが、この3人の方とだったら一緒にできる!と直感しました。

現在、副業人材の皆さんとは
・ECサイトの立ち上げ
・通販向けの商品開発
の大きく2つのプロジェクトを進めています。

想像していた通り、いや数倍の密度とスピードで進んでいますよ!スムーズに進んだ理由は互いの理解が早かったからだと思います。
基本は皆さんとは週1回のオンラインミーティングですが、プロジェクトスタートしてすぐに3人には雄勝町にお越しいただき合宿をおこないました。
僅か1泊2日の短時間でしたが、皆さんに当社の活蛸のすべてを見てもらい、お互いの思い、やりたいこと、それぞれの得意分野をお聞きし、夜は語り明かし(笑)
互いの理解ができたことで、役割分担もスムーズに決めることができたことが大きかったと思います。

それからは、合宿で決めた内容を基に大まかに役割分担決めて同時進行で進めていきました。
・ECサイトの立ち上げ準備、広報戦略の設計 ⇒ 大手SNS会社に勤務するHさんをリーダーに進捗
・BtoC向け商品の開発 ⇒ 大手外食チェーンの商品・店舗開発担当のMさんをリーダーに進捗
・市場リサーチ、新販路(BtoB)のリサーチ ⇒ 水産商社勤務のSさんとMさんが居住地域やネットワークを通じて進捗
みなさんフットワークよくプロジェクトを進めてくれました。

週1回のオンラインミーティングでは主担当領域にこだわらず、互いに意見やアドバイスを出しあい、びっくりするくらいのスピードで進んでいきましたね。
今まで私の中で閊えていたものが次々に具体的になっていくのは本当に刺激的でしたね。副業人材の皆さんには感謝の言葉しかありません!

募集当初のプロジェクトの期間はあっという間に終了しました。
ただ、ECサイトのオープン、新商品の味付け、パッケージなどなど具体的な動きはいよいよ今年度になります。
今回ご縁を頂いた副業人材の皆さんとはこれからも力になって欲しいと考えています。
それぞれの本業のご状況をお聞きしながら無理なくも、引き続きごいっしょできたらと。 今年が勝負ですからね!(笑)

取材を終えて…

※以下、担当コーディネーターの中村氏からのコメント

今回はマッチングからプロジェクト伴走まで、コーディネーターとして高橋部長と一緒に走ってきました。

特に印象的なのは高橋さんのビジョン、言葉がミーティングを重ねる度に「具体的」になってきたことです。
雄勝町に戻ってきてから孤軍奮闘で突っ走ってきた高橋さんにとって、今回の副業人材との出会いが非常に大きいことだったと改めて感じています。

この4月から高卒、大卒が入社する予定とお聞きしています。
止まっていた針が一気に動き出し変わり始めたマルカ高橋水産さんを今後も見届けていきたいと思います。

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