「家業イノベーション・ラボ」は、NPO法人ETIC.(エティック)が運営するローカルベンチャー輩出地域での対話と共創の会員制プラットフォーム「企業×地域共創ラボ」と連携し、家業後継者を対象に、香川県三豊市の先進的事例から学ぶフィールドワークを実施しました。
地域の事業者で共同出資。地域のインフラを支える新規事業が続々と生まれる現場を体感
三豊市では、地域の事業者たちが連携して投資をし、まちに必要とされる新規事業の創出を続けるモデルで全国的に注目を集めています。そのきっかけのひとつは、市内にある父母ヶ浜が絶景写真が撮れると2017年ごろからSNSで話題になり、年間およそ50万人が訪れるようになったことでした。
2016年には5,500人だった父母ヶ浜への観光客が2019年にはおよそ46万人と100倍近くまで増加する一方、宿泊施設が整っていなかったため、その経済効果を十分に享受できていない状態に。そこで、地域の中間支援組織「瀬戸内ワークス株式会社」が事務局となり、地元事業者11社が集まり、共同出資で新たな宿「URASHIMA VILLAGE」をつくることになったそうです。
地域の複数の事業者の協働や、事業者と移住者が連携して、行政の協力をあおぎながら自ら新しい事業を生み出していくこの動きは、現在は教育、福祉、交通など、地域に必要なインフラを支える領域へと事業展開し、行政や事業者間でのデータ連携をサポートする仕組みや、アセット保有型SPC(特別目的会社)の設立など、他地域でも応用可能なベーシックインフラシステムを育む仕組みへと進化を続けています。
楽しげに外から人を巻き込む仕組み、その道のプロでなくても町にほしいものは自分でつくる姿勢を家業後継者から学ぶ
フィールドワークでは、「家業イノベーション・ラボ」から15名が参加し、三豊市のキーパーソンたち8名を訪ね、地域全体を巻き込む産業づくりからインフラづくりに発展してきた現場を体感し、最後は参加者の拠点地域や事業で具体的にどんなことが活かせそうか、三豊市のキーパーソンも交え議論する時間が設けられました。
フィールドワークを通し、新しい事業創出の基礎となる考え方、地元の事業者が外からくるプレイヤーと交わることで生まれるシナジー効果、地域の中小企業が推進していくまちづくりや新規事業創出などに触れた参加者からは、下記のような声が寄せられました。
「『スーパー今川』の三代目である今川宗一郎さんは、父母ヶ浜で珈琲屋さんを始めたり、お豆腐屋さんを始めて時に失敗したり、地域で撤退することになったかき氷屋さんの事業を引き受けたりしているが、『後継だから本業に集中しろと言われないか?』と質問したら、『中途半端で何が悪い』と答えてくれたことが印象的だった。
新しいことをやっていくとか、町になくてほしいものをつくるとか、プロじゃないけどやってみるという姿勢の大切さについての話をいただいたと思うが、自分はそうした中途半場具合が全然足りないなと感じた。“遊び”で終わってしまっている。周囲の全員がまちづくりに賛成ではない中で、関係者の人の心を読んで躊躇してしまっているなと。
けれど三豊に来て、みんなの熱さや、楽しいからやっているという姿を体感して、本業は中途半端ではなくやっているが、もっとそれ以外のことも忙しさを言いわけにせずやっていこうと思えた」
「走りながら考える、中途半端でもやっていったほうがいいのだなと感じた。まちづくりをしようと人を集めるのではなく、日常的にまちを考えることが大事。普段からまちについて話すことが大事なのではないかと思った」
「それぞれがやりたいことをやるだけではない、地域にとっての意義も考えるバランスがあると感じた」
「まちづくりを実際に始めたとき、抽象的な『日常を楽しくする』という目標を掲げてしまい続かなかった。一方で三豊では、例えば商店街を新しく作ろうとする際に『まちのために』ではなく、『こんな商店街ができたらいいよね、それによってエリアがこう変わったらいいよね』と、具体的なことを掲げて人との関わりをつくっている。もっと、自分がどんなことをやりたいか考えて、こういう人生を過ごしたいなど考えて動いていきたいと思った」
各自ヒントを持ち帰り、地域との向き合い方を改めて考えるフィールドワークとなりました。