「家業イノベーション・ラボ 〜LIVE2018〜」開催(前編)

〜家業承継には大きなポテンシャルと、あなたにしかない使命がある〜

2018年12月9日、休日にもかかわらず東京赤坂のエヌエヌ生命オフィスにはぞくぞくと人が集まり始めました。行われたのは「家業イノベーション・ラボ〜LIVE2018〜」。家業を承継する若手と支援者によるコミュニティ活動で、この日は2018年の総括の場として、一般にも広く参加を呼びかけての開催です。

起業家の集まりは世の中にたくさんありますが、家業の承継者が集まって悩みや思いを共有できる場は少ないのが現状。家業は「家のこと」として片付けられ、共通した課題やノウハウがあっても、集まって話し合える場はなかなかありません。希少な場であるこのラボ。この日はいったいどんな会だったのでしょうか。

第1部には自身も家業の承継者であり、カリスマ経営者である星野リゾート代表の星野佳路さんによるインスピレーション・トーク。そして全国から招かれた4人の家業承継者がプレゼンテーションを行いました。第2部では12名の後継者が事業承継する上で抱える課題をテーマに、会場全員が参加してのテーブルディスカッション。この日の模様をレポートします。

  星野佳路さんが語った「ファミリービジネスは、新しいベンチャーでもある」

スペシャルゲストとして招かれたのは、星野リゾート代表の星野佳路さん。星野さん自身が温泉旅館の跡取り息子であり、子どもの頃から「4代目」と呼ばれ、ごく自然な流れで事業承継に至ったのだそうです。

まず語られたのはファミリービジネスの背景。現在、日本法人の97%が家族経営であり、それ以外が3%。数が多いだけでなく、経済規模でみても日本経済の約半分をファミリービジネスが担っているというのです。

「私たちの試算によれば、民間企業の生む利益の約半分はファミリービジネスから生まれています。社会には福祉や教育など大切な機能がたくさんあって政治家は民間が生み出した利益を再分配していますが、そのすべての源泉になっているのは民間が生む利益。これが国の力です。その資源の半分をファミリービジネスが担っていると考えるとどうでしょう?家業を承継し育てていく私たちの仕事には、大きな使命があるわけです」(星野さん)

日本全体の家業の売上が3倍になれば、日本の経済規模が2倍になるということ。その影響力、パワーをもっと自覚した方がいいし、跡継ぎにはその責任があるとも。

さらに現在、国ではベンチャー企業の育成に力を入れています。ところが多くのベンチャーが生まれる一方で、その多くがつぶれている。「なぜだと思いますか?」と星野さん。

「ビジネスというのは、成果が出るまでに時間がかかるからです。多くのベンチャーは、やっていることは間違っていなくても成果が出るまで持ちこたえられない。充分な時間をかけられないからです。その点、家業はどうでしょうか?ご両親がやっている事業は、もしかしたら課題がたくさんあるかもしれませんが、つぶれていないですよね?何とか続いている。そこに価値があります。自分が新しくビジネスを変革してやろうと思った時に、家業はそれを継続するためのサポートにもなるのです」(星野さん)

会場では熱心にメモを取ったり、大きくうなずく様子が見られ、みんなトークに引き込まれている様子が伝わってきます。

星野さんは日本にとって大切なファミリービジネスを応援するために、次の三つを提案。一つは「ファミリービジネス=新たなベンチャービジネス」と位置づけ、国や周囲も事業承継承継をバックアップしていくこと。その一貫として、事業承継後は業績によって税率を変える新たな税制度にも言及しました。さらに、海外に比べて遅れているファミリービジネスの学問的な研究を日本でも進め、承継者を育成する教育機関を設けてはどうかと話は広がります。

家業には大きな使命があり、変革できる余地もポテンシャルも大きい。さらに言えば、家の事業を継ぐことができるのはあなたしか居ないかもしれない。それは、覚悟をもって一生かけるに値する仕事ではないか。そんな星野さんの熱を帯びた声に、心動かされた人が大勢いたに違いありません。

星野さんのトーク終了後、各地から招かれた4名の事業承継者が現在進めているビジネスについてプレゼンを行ったところで、第1部が終了しました。