(後半)2020年7月 中小企業魅力発信月間 「次世代への支援」オンラインイベント 家業承継×デザイン:更新するもの・受け継がれるもの

03 組織の変革をデザインする。 →  ビジョンが伝播する。

「経営者だけでなく、社員もビジョンを共有し、実現したい世界観を一緒にカタチに育てていく。そのために組織の在り方や働く環境も随時更新していく必要がある」
※株式会社ロフトワーク「~中小企業のデザイン経営〜経営者のビジョンが文化をつくる〜」より

加藤
「多くの人は『変化』を嫌います。でも、変化は小さなことでも良いと思います。
たとえば、会社の席を移動するとか、隣の人を変えてみるとか。そういった小さいことでもコミュニケーションは変わってきますし、変わることをポジティブに捉えてほしい。
社内のコミュニケーションの一部を変えていくことは、ファシリテーションに近いかもしれませんね」桂
「たとえば、外部のデザイナーを招いたことで、古くからいる社員と軋轢が生じたという話も聞きますが、小沢さん、小林さんはいかがでしたか?」 

小沢
「元々、僕らは、アクリル素材に興味のある個人デザイナーからアクションを貰うことも多くて、いろいろな人とアイデアを持ち寄って『何かやろうよ』という文化がありました。そういう土壌があったので、外部のデザイナーを招いて新しいブランドを立ち上げることもできましたし、『デザイン経営』という考え方も導入しやすかったのかもしれません」

小林
「僕もいろいろな方とのコラボレーションを少しずつ始めていますが、それこそ、以前は外部の方がいらっしゃると、社員たちは『この人は誰だ?』と警戒していました。そういった状況を目にし、僕はまず社員たちとコミュニケーションを図り、彼らが働きやすい環境づくりを目指しました。そこに注力した結果、お互いを許容できる環境が整ってきたようで、外部の方とのプロジェクトも組みやすくなってきているように感じています」

04 共創のコミュニティーをつくる。 →  コミュニティーの力でビジョンが育つ。

「ビジョンが社会的意義と重なり、新しい価値を社会に提案する存在となるコミュニティーは、会社の枠を超えたさまざまな立場の共感者と共に活動する場を果たす。その場の風通しが良いほど、想定外の価値の創発を引き起こす」
※株式会社ロフトワーク「~中小企業のデザイン経営〜経営者のビジョンが文化をつくる〜」より


「小沢さんはアクリル加工業のコミュニティーを運営されているとお聞きしましたが?」

小沢
「僕の場合、コミュニティーの運営というような大げさなものではなく、気心の知れた仲間と繋がっている感じです。
アクリル加工を生業としていても、会社によって秀でた技術は異なるので、その仕事に最も適した技術がある工場を紹介することもあります。また、僕らの技術や素材を知ってもらうために、エンドユーザー向けのワークショップを開催しているのですが、普段、表にはほぼでない周りの工場の職人たちに協力してもらっています。
僕は基本的に他力本願なので、ただただ周りを巻き込んでいる感じですね(笑)」

小林
「僕も同じです。僕らにとってゴルフ場という『場』があることが強みなので、『このゴルフ場を一緒に活用してくれる人、この指とまれ!』という感じです(笑)。
お客さまはもちろんですが、地域の人たちもゴルフ場で幸せを感じてもらえる、この場が地域のコミュニティーとなればいいなと思っています。
いまは自治体や事業者との連携も始まり、少しずつ地域のコミュニティーの基地になりつつあって、当初はゴルフ以外のお客さまが来ることに戸惑っていたスタッフも慣れて、受け入れやすい場所になってきていると思います」

若干26歳にして家業を引き継いだ小林さんの事業は、栃木県さくら市にあるゴルフ場「セブンハンドレッドクラブ」の運営です。現在、ゴルフ場をコミュニティーの場とした、小林さんの新たな取り組みが着々と進行しています。


「オフラインの良さはあると思うので、人が集まれる『場』はやっぱり必要ですね。
ロフトワークも共創コミュニケーションには力を入れていて、世界10カ所以上でデジタルモノづくりカフェの『FabCafe』を運営しています。ここでモノづくりを中心としたコミュニティーを作り、ミートアップを仕掛けたりと、ハブ的な役割を担っています。
そのほか、マテリアルをコンテンツとしたコラボレーションスペース『MTRL』では、素材を持っている方と素材を探している方をマッチングし、新たな製品やサービスが生まれる場として活用しています。
これらのコミュニティーから専門の人材を探し、プロジェクトに知見を付加する取り組みも行っています」

遠藤
「エヌエヌ生命保険の本社内にもコミュニティースペース『NN Shibuya Crossroads』を準備しています。正式なオープンはこれからですが、後継者の方やそういう方をサポートしたい方が出会える場として運営していきますので、共創の第一歩として、出会い場の力を利用していただければと思います」 

05 文化を生み出す。 →  新しい価値が伝統となり、文化になる。

「事業を通じて、社員の働き方や働く意義を変え、生活者に新しい日常を提供し、地域の伝統や自然を受け継ぐ人々を増やしていく。経営者のビジョンは、経済の発展のみに留まらず、文化を生み出すことに繋がる」 
※株式会社ロフトワーク「~中小企業のデザイン経営〜経営者のビジョンが文化をつくる〜」より


「共創コミュニティーを作ることで、活動を共にするメンバーの中に文化が生まれてくると思うのですが、小林さんはそれを実感することはありますか?」 

小林
「昔からゴルフ場は『富裕層が利用する場』というイメージがあるかと思うのですが、それを『一般の皆さんが利用する場』として定義しなおすと、全国に2000カ所あるゴルフ場が大きな拠点として意味を持ってきます。
地域の魅力を感じ、地域の活力を共に作る場として、ゴルフ場が位置づけられれば、ゴルフそのものも見直されてくるかもしれません。
僕らは『みんなが幸せを実感するゴルフ場』というビジョンを掲げているのですが、その先にどんな未来を描くかについても、皆さんと少しずつ話し合っていけたらいいなと思います」

小沢
「僕らのような工場は、優れた技術があっても、会社そのものを存続させることが難しい世の中になっています。
そんな中で、僕が文化を残すという意味で大事にしているのは、『知好楽』という言葉。まずは『知る』こと。そして『好き』になり、最後は『楽しむ』とあるように、僕自身が楽しんで仕事をしないと、その良さは誰にも伝わらないし、すごい技術があっても誰も欲しいとは思いません。
僕らは伝道師ではないけれど、『僕らの素材を使えば、こんなにも楽しいことができる』ということを広く伝えていき、たくさんのファンを作っていきたい。それが、小さなマーケットを守り、文化を残すことに繋がるのではないかなと思います」 

加藤
「小沢社長がいうように、自分たちの事業のファンをいかに作れるかが大事です。僕らもその文化が途絶えないように、少しでも皆さんのお手伝いできたらいいなと思います」

1時間半にわたるオンラインイベントは、株式会社ロフトワークの加藤さんと桂さんが『デザイン経営』の概要と、プロジェクトを進めていく中で得た知見を分かりやすく解説していただきました。
そして、有限会社三幸の小沢さんが、実際に『デザイン経営』を取り入れた背景や、同社のモノづくりへの思いを語り、若き経営者である株式会社セブンハンドレッドの小林さんは、事業継承後のスタッフとのコミュニケーションの育み方から、現在進行形の取り組みについてリアルな言葉で話していただきました。 
冒頭で加藤さんが話されたように、『デザイン経営』は大企業だけの取り組みではありません。長年続いてきた家業を引き継ぐ後継者の皆さんこそ、事業のステップアップに向けての一つの切り口として役立てていけるものです。
歴史や伝統、経営者の想いを生かしつつ、必要と思う部分をアップデートしていくことで、新しい価値を創造できる企業体質へと生まれ変わるかもしれません。そのための環境づくりは、皆さんの力にかかっています。

家業を承継した全国の経営者たちのコミュニティーの場として活動する「家業イノベーション・ラボ」。イベントやセミナーなどの最新情報は、Facebookをチェックしてください。
「家業イノベーション・ラボ」では、『デザイン経営』だけではなく、家業の後継者のお役に立てるさまざまなヒントを、イベントを通して提供しています。また、Facebookコミュニティーなどを通じて、家業の後継者ならではの悩みや不安を解消するサポートも行っています。
今、悩みを抱えている後継者の方、いろいろな方の話を聞きたいと思っている方、そういった方たちを応援したいと思っている方は、ぜひ、「家業イノベーション・ラボ」にご参加ください。
Facebook:https://www.facebook.com/kagyoinnovation/

Facebookコミュニティー:https://www.facebook.com/groups/864442990556830