【家業イノベーション・メンバーズボイス vol.1 西塚 卓郎さん】 1通のメッセージから広がった可能性と、同じ想いを持つ仲間との出会い。

家業イノベーション・ラボに参加している家業イノベーターたちがどのようにプログラムを活用し、実践しているのかを深掘りする「家業イノベーション・メンバーズボイス」。参加のきっかけや初めて参加したプログラムから、印象に残ったプログラムで得た気づき、そして実際に成果を上げるためのポイントまで、皆さんの挑戦をサポートする実践ガイドとしてお届けします。

今回は、株式会社ダイマル 西塚 卓郎さんにお伺いしました。

<プロフィール>
三重県桑名市で建設資材卸売業を営む株式会社ダイマルの3代目後継者、西塚卓郎さん。約5年前に全く異なる業界から家業に入り、創業70年の節目に100年企業を目指すことを決意。現在は従来の建設資材卸売業に加え、取り壊される古民家から古材を救出し、新たな価値を見出す事業「tsunagu」を展開。第3回経済産業省アトツギ甲子園ファイナリストにも選出され、「伊勢古材」というブランドをつくり魅力を全国に発信している。

■WEBサイト:https://tsunagu-kozai.com/

建設資材卸売70年の歴史を持つ老舗から、古材の新たな価値を創造する。

――まずは家業について教えていただけますか?

三重県桑名市の建設資材卸売業です。木材やベニヤ板、玄関の扉から釘などの小さなものまで、家を建てるときに使う住宅資材を仕入れて、地元の工務店などに卸しています。

――家業に入られたきっかけを教えていただけますか?

実は、家業に入ったのは約5年前で、それまでは全く違う業界で働いていました。元々は家業を継ぐつもりは全くなくて、スポーツを続けられる企業を探していたんです。ですが、祖父が亡くなった時に、ふと「会社は何年目なんだろう?」と思って。もうすぐ70年目と知って、自分が30歳で、あと30年働けば100年企業になる。そう思った時に、本能的にスイッチが入ったんです。そもそも70年も続いていることに驚きましたね。

――家業に入られて、ご自身で新規事業も立ち上げたんですね。

入社して半年ほど経った時に、今までと同じことを30年続けていくだけでは衰退してしまうなと感じ、何か新しいことを始めないといけない!と思いました。そこで、解体される民家などから、古くなった木工家具や木材を引き取り、リユース、リペア、アップサイクルなどをして販売する「tsunagu」を始めました。経済産業省アトツギ甲子園(第3回)ファイナリストにも選出いただき、様々なメディアに取り上げていただく機会も増えてきました。

——家業を進める中で、どのような課題に直面されましたか?

最も大きな課題は、新規事業への理解を得ることでした。70年間同じように成功してきた会社なので、「なぜ変える必要があるのか」という声は当然ありました。取引先からも「その時間があるなら本業に専念してほしい」と言われることもありました。

特に社内でのコミュニケーションには苦労しました。新しい取り組みを共有しても理解を得られず、次第に共有すること自体を控えめにしてしまう時期もありました。「社長は孤独」という言葉の意味を、一足先に身をもって感じましたね。

一通のメッセージから広がった可能性。

——家業イノベーション・ラボとの出会いについて教えていただけますか?

Facebookで関連する記事を見かけて、すぐに家業イノベーション・ラボの片山さんにメッセージを送りました。当時は新規事業に挑戦する中で、もどかしさや孤独を感じていた時期で、誰かに話を聞いてもらいたい、共感してもらいたいという思いがありました。最初のメッセージのやり取りで、じっくり話を聞いていただけて。暗闇の中「出口はどこなんだろう」と動いていたような状況だったので、出口が見えた!というか…。普段そういう機会があまりないので、すごく印象に残っています。

——新規事業の立ち上げで暗中模索しているところに、メッセージをやり取りする中で少し光が差してきたんですね。

本当に光が差しました(笑)!お話を聞いて「家業イノベーション・ラボに参加したら、今の自分の悩みが解決しそうだな」と直感的に思ったので、何の迷いもなくすぐに参加しました。今でも何か思いついた時や、「こんな人いないかな」と探している時は、実行委員の方に連絡させてもらっています。

——これまでどのようなイベントやプログラムに参加されたのですか?

最初はZoomで後継ぎたちが集まって悩みを話すオンラインイベントに参加しました。同じような悩みを持つ仲間がたくさんいることを知り、すごく救われました。年齢が近い方も多くて、安心感もありましたね。

あとは、年に1回実施されているオランダスタディツアーの報告会に参加して「このツアーに参加している方々はこういう考えを持って参加しているんだ」とか「こういう挑戦をしているんだ」ということがわかるだけでも、すごく勉強になっています。

長野県の山翠舎・ 山上さんの元を一緒に訪問させていただいたことも思い出深いです。古木が紡ぐ空間やストーリーの総合プロデュースを行われていて、「tsunagu」をより良くするために多くのヒントをいただきました。

——家業イノベーション・ラボで、印象に残っていることを教えていただけますか?

お声がけいただいて取り組んだ、青山学院大学とアムステルダム応用科学大学との産学連携プロジェクトが印象に残っています。大学生の方と一緒に、古材・古家具の海外展開について一緒に考える機会がありました。

普段は大人との取引が中心なので、若い方々の新鮮な視点に触れられたのは貴重でした。木材について知らないことも多い学生さんに説明する中で、自分たちの当たり前が当たり前でないことに気づかされました。今後の自分の糧になりましたね。

——海外のマーケットを知ることができたり、海外展開について考えるいい機会にもなりますよね。

まさに海外展開の可能性を考えるいい機会になりました。実は最近、外国人のお客様が増えていて、日本人があまり興味を示さない古い建具や金具に強い関心を持っていただけることが多いんです。今年は「TAKUMI NEXT 2024」にも選んでいただいて、海外への輸出にも本格的に力を入れはじめています。

仲間との出会いが、挑戦を後押ししてくれた。

——家業イノベーション・ラボに参加して、良かったことを教えてください。

同じ想いを持つ仲間との出会いが、最大の収穫です。新規事業の理解が得られないという悩みにも「30年後の話を見据えた事業の話をしても理解される方が奇跡的じゃない?」とアドバイスをもらって、確かに!とハッとしたり。同じような後継ぎたちが自身の経験を踏まえてくれたアドバイスだから、納得感もあるんですよね。

——当時は新規事業に挑戦する中で、もどかしさや孤独を感じていた時期とおっしゃっていましたね。

正直に申し上げると、このコミュニティがなければ、新規事業は諦めていたかもしれません。自分のやっている事業に自信はあるものの、なかなか数字に表れなかったり、一人だと心が折れそうな時があるんですが、仲間の存在に奮い立たせてもらっています。志の高い仲間が集まっているので、新しいアイデアを「面白いね!」と前向きに受け止めてもらえる。それが大きな励みになっています。

——家業イノベーション・ラボで、どんな方との出会いや学び、サポートがあったらいいなと思いますか?

同業である卸売業の方々と話してみたいですね。「卸売ギャザリング」のような感じで、卸売業特有の課題や可能性について、同業の仲間との対話を深める機会があると嬉しいです。日本特有の文化である卸売業が、これからどう発展していけるのか。新規事業の展開も含めて、一緒に考えていきたいです。あとは、子育て世代の方々が多いので「仕事と家庭の両立」というテーマでも、皆さんとお話してみたいです。皆さんどうやって時間を捻出しているんだろう、と興味があります。

——最後に、同じように家業を継ぐ立場の方々へメッセージをお願いします。

迷っている方がいれば、絶対に入ったほうが良い!まずは飛び込んでみることをお勧めします。家業イノベーション・ラボに入ってから視野が広がり、できることも増えました。何も考えずに飛び込んで失敗することもありますが、それも含めて成長につながると思います。

このコミュニティには常にウェルカムな雰囲気があって、気軽に相談できる。そんな環境があることは、本当に心強いですよ。実行委員の皆さんが常に温かく迎えてくださるので、どんな些細なことでも相談してみてください。