家業イノベーション・ラボに参加している家業イノベーターたちがどのようにプログラムを活用し、実践しているのかを深掘りする「家業イノベーション・メンバーズボイス」。参加のきっかけや初めて参加したプログラムから、印象に残ったプログラムで得た気づき、そして実際に成果を上げるためのポイントまで、皆さんの挑戦をサポートする実践ガイドとしてお届けします。
今回は、株式会社タシロ 代表取締役社長 田城 功揮さんにお伺いしました。
<プロフィール>
神奈川県平塚市で精密板金加工業を営む株式会社タシロの3代目社長、田城功揮さん。1966年の創業以来、自動車部品から産業用機械装置まで、幅広い分野の部品製造を手がけてきた。2019年に入社後、働き方改革や自社製品開発に取り組み、若者に選ばれる”かっこいい町工場”を目指している。今では入社希望者が年間200人に達し、かながわ中小企業モデル工場や神奈川がんばる企業エースなど、様々な表彰や認定を受けている。
■WEBサイト:http://www.tasiro.co.jp/
町工場から創造的なものづくりの場へ。
――まずは家業について教えていただけますか?
神奈川県平塚市にある精密板金加工業です。主に装置の部品を製造していますが、ジャンルは幅広く、食品系の計量装置や加工装置、歯科治療用の椅子の基盤、化粧品や消毒液の充填機の部品まで手がけています。サイズも指先サイズの小さな部品から7.5mの桟橋フレームまで様々です。2020年からは自社オリジナル商品の開発・販売事業も開始しました。「3WAYピザ窯」は2022年、東京インターナショナル・ギフト・ショーで「LIFE×DESIGNアワード」のグランプリを受賞し、今では看板商品となっています。
――家業に入られたきっかけを教えていただけますか?
最初は金属加工をやっているくらいの知識しかなく、もともと後を継ぐことは考えていませんでした。家業には2019年に入社したのですが、それまでは全く違う業界で働いていました。大学卒業後は人材紹介会社のパソナに入社し、多くの中小企業経営者と出会う機会がありました。その中で、特に製造業では約95%の会社が人材採用に課題を抱えており、実家も同じ状況だと知りました。
入社のきっかけは起業です。家族や親族に経営者が多く、物心つく頃から社長業には興味がありました。技能実習生の受け入れサポートを提供する監理団体を立ち上げようとした際、事業協同組合を発足する必要があり、家業に入り役員になることが一番スムーズだったんです。今は起業した会社を閉じ、家業に専念しています。
――家業を進める中で、どのような課題に直面されましたか?
入社してから、社内外問わず自社の状況を確認しました。お客様からは「人を含めた品質と短納期」が強みとして挙げられましたが、一方で社内には人材面での課題がありました。特に日本人の採用が難しく、離職率も高い状況でした。
私に課せられたミッションは「一日でも早く、ものづくりに興味がある20代を採用できる会社にすること」。しかし、人材業界出身で求人票が上手く作成できても、応募が大きく増えることはありませんでした。タシロは何を目指すのか、どのように給与と休暇を改善し、働き方改革を進めるのか、人が注目するような特徴はあるのか――やらなければいけないことは山積みでした。
共に成長するコミュニティとの出会い。
——家業イノベーション・ラボとの出会いについて教えていただけますか?
最初は“家業持ち”のためのオンラインコミュニティ「家業エイド」に入会していました。2021年9月のことです。SNSで広告を見かけて興味を持ち、オンラインイベントに参加したのがきっかけでした。
当時、事業にもっとドライブをかけていきたいと考えていて、家業エイドのコミュニティマネージャーの方に雑談の中でそんな話をしたところ、家業イノベーション・ラボをご紹介いただきました。2022年5月にオンライン説明会に参加し、NPO法人農家のこせがれネットワーク 宮治さんの前職が同じパソナだったことや湘南地域ということに親しみを感じたこともあり、すぐに参加することを決めました。
——どのようなプログラムやイベントに参加されましたか?
興味があるオンラインイベントや、2022年・2023年に渋谷のスクランブルスクエアで開催された望年会イベントにも参加しました。初めてリアルでメンバーの皆さんとお会いする機会があり、そこでの出会いが大きな刺激になりました。同世代から一回り上の方まで、フラットに意見を交換できる雰囲気がとても印象的でした。
——家業イノベーション・ラボで、印象に残っていることを教えていただけますか?
今年6月に参加した香川県三豊市への共創フィールドワークが特に印象に残っています。香川県へのフィールドワークは、平塚の他の家業イノベーション・ラボメンバーと一緒に参加して、事業者同士が協力して事業を作っていく視点が持てました。三豊市では、異業種の事業者同士が出資して地域事業者や住民の交流拠点となるスナックや、宿泊施設を作るなど、行政に頼らない地域づくりの取り組みを見学しました。これをきっかけに事業者同士、一緒に何か事業ができないか、協業ができないかという視点での交流が生まれました。今では毎日のようにLINEでコミュニケーションを取っています。海外展開にも興味があるので、オランダスタディツアーにも関心があります。
また、今年2月には同時に2つの展示会に出展するという挑戦をした際、事務局の方々にボランティアスタッフとして協力いただき、本当に助かりました。10人の小さな会社で父と2人だけでの出展は難しかったので本当に心強かったです。
地域に根ざした”共創”の可能性。
——家業イノベーション・ラボに参加して、良かったことを教えてください。
他のコミュニティと比べて、ローカルなメンバーが多いことが特徴的です。視察を含めたイベントなどを通じて地域での連携が強化され、「共創」というテーマが自分の人生や会社の発展にマッチしていると感じています。
例えば、平塚市内の建設業やビルメンテナンス業の方々と定期的に情報交換する機会が生まれました。また、藤沢のイノベーションスナックみらぼでのイベントでは、家業イノベーション・ラボのメンバーが参加してくれたり、コラボレーションの機会が生まれたり。コミュニティのプラットフォームを使ってお互いに活性化できる、Win-Winな関係性が築けています。
——家業イノベーション・ラボで、どんな方との出会いや学び、サポートがあったらいいなと思いますか?
同業の金属加工業の方々との交流をもっと深めたいですね。製造現場をどう承継していくかは共通の課題ですし、他社の取り組みから学べることも多いと感じています。
また、会社のある神奈川コミュニティをもっと活発にしていきたいので、神奈川のメンバーの方々との繋がりをもっと広げていきたいです。私が毎月第4金曜日に藤沢でやっている「イノベーションスナックみらぼ」にお越しいただくのも嬉しいですね。地域の事業者同士で協力して何かを作り上げていく、そんな可能性を探っていければと思います。
——最後に、同じように家業を継ぐ立場の方々へメッセージをお願いします。
家業は一つの資産だと思っています。事業自体を全く同じものをやり続ける必要はなく、自分色に染めながら自分のやりたいことに繋げていけるリソースとして捉えてみてはいかがでしょうか。
どんな仕事にも大変さはありますし、家業ならではの課題もあります。だからこそ、コミュニティの力が大切だと感じています。違う価値観との出会いが新しい可能性を生み出す。自社以外とどう付き合うか、様々な情報のインプット・アウトプットのサポートのためにも、ぜひコミュニティに参加してみることをお勧めします。