【家業イノベーション・メンバーズボイス vol.3 大栗 佑介さん】やってみてから考えればいい。受け継ぐだけじゃない、進化させる家業のカタチ。

家業イノベーション・ラボに参加している家業イノベーターたちがどのようにプログラムを活用し、実践しているのかを深掘りする「家業イノベーション・メンバーズボイス」。参加のきっかけや初めて参加したプログラムから、印象に残ったプログラムで得た気づき、そして実際に成果を上げるためのポイントまで、皆さんの挑戦をサポートする実践ガイドとしてお届けします。

今回は、大栗紙工株式会社 取締役 大栗 佑介さんにお伺いしました。

<プロフィール>

大阪市生野区で無線とじノートの製造を手がける大栗紙工株式会社3代目、大栗 佑介さん。昭和5年の創業以来、製品は洋式帳簿から糸とじノート、そして無線とじノートへと時代のニーズに合わせて変化し、現在は主に大手文具メーカーのノート製造を手がけるOEM(相手先ブランド製造)事業を手がけている。2020年に発売した「mahora(まほら)」ノートをきっかけに自社ブランド「OGUNO」を立ち上げ、「まほら ゆったりつかう学習帳」「A4→A1 note」「Sustainable Pad」など、ユニークで個性的な製品を生み出している。

■WEBサイト:https://og-shiko.co.jp/ 

■OGUNOブランドサイト:https://www.oguno.jp/

ノートの未来を開きたい。

――まずは簡単に自己紹介と、現在の家業について教えてください。

生まれは1991年、奈良出身です。会社は大阪市生野区にあり、主にノートの製造を行っています。2020年から自社ブランド「OGUNO」を立ち上げ、自社製品も作り始めました。地域との関わりも大切にしており、地元の小学生の工場見学を受け入れるなど、地域密着と全国展開の両方に力を入れています。

――もともと家業を継ぎたいと思い入社されたのですか?

家業を継ぐことを決めていたわけではなく、外で働くことを考えていた時期もありましたが、体調面で働くことが難しい時期もあり、25歳の時に家業に入ることを決意しました。最初の2年は現場で社員の皆さんと働き、その後は事務職に。その2年後には、自社製品の開発に携わるようになりました。

――自社製品を作り始めたきっかけを教えていただけますか?

メイン事業であるノートのOEM事業では大栗紙工の名前を出すことはできません。そのため「いつか自分たちのノートを作ってみたい」と思っていたのですが、私たちの会社で持っている機械では小ロットでの製造ができないんです。販路を全く持っていない私たちが製造したノートを売り捌けるのか?という不安がありました。

そこで、プレスリリースの活用をしてPRしようと思い、プレスリリースのセミナーに参加しました。セミナー講師の先生が発達障害の自助団体の支援をされている方で、発達障害の方は一般的なノートを使いづらく感じていることを初めて知ったんです。そこから当事者にアンケートを取りながら試作を重ね、発達障害の方にも使いやすい「mahora(まほら)」ノートを開発し、2020年に販売をスタートしました。今まではノートを手に取ってくれた方の声が届くことはなかったので、感謝の声やリクエストの声が届くことがやりがいの一つになっていますね。

――家業に入られてみて、課題を感じた時はありましたか?

最も感じた課題は組織文化でした。前の世代、特に祖父の時代は厳しいカリスマ社長的な経営スタイルでした。そのため、与えられた仕事をきっちりやるという文化が根付いていました。仕事内容も関係していると思うのですが、このままではどんどん受身的な組織文化が出来上がってしまうなという危機感がありました。まだ解決できているわけではないのですが、自社製品の製造が始まってからは若手社員を中心に「こうしたら良いと思うのですが…」と自ら考え、提案してくれることが増えてきたので嬉しく思っています。

学び続ける場が、家業の可能性を広げる。

——家業イノベーション・ラボとの出会いについて教えていただけますか?

2024年3月、京都のギフトショーがきっかけでした。オオウエの大上さんが出展していた日蘭協業のブースに出向いたときに実行委員の保谷さんにご案内いただき、さらに知り合いからも勧められて参加を決めました。

——特に印象に残っているプログラムやイベントはありますか?

最初に参加した6月の大阪のファクトリーツアーが最も印象的でした。製造業の現場を直接見学し、代表の方の話を聞くことができました。単に工場を見るだけでなく、先輩経営者の経験や将来のビジョンを直接聞けたことが、非常に貴重な学びとなりました。その後、頻繁にイベントに参加するようになり、大阪のメンバーとの交流も深めています。

また、7月にオンライン開催された「パッケージ(包装材・梱包)&紙加工ギャザリング」では、北海道の企業の方々と知り合うことができ、新たなネットワークを築くことができました。ちょうど9月に北海道に行く予定があったのですが、実行委員の方に繋いでいただいて、株式会社 北海紙工社の梅田さん、モリタ株式会社の近藤さん、石田製本株式会社の今村さんのもとを訪問させていただく機会にも繋がりました。

——ギャザリングでの出会いが、北海道に行った際の企業訪問に繋がったのですね!

ギャザリングで話していた際、9月に開催された「紙博in東京 vol.9」に出展するというお話も聞き、今村さんとはリアルでお会いすることもできました。実際に会社に伺わせていただき、同じ製本業ということで情報交換や技術的なところも勉強させていただきましたね。近藤さんには事業継承の経験談や経営への考え方、日本に数社しかないパッケージの技術について教えていただきました。梅田さんにはブランドについての考え方や、ユーザーとしてのノートの需要についてなどアドバイスをいただきました。

まずは相談するところから。活かし方は自分次第。

——家業イノベーション・ラボで、どんな方との出会いや学び、サポートがあったらいいなと思いますか?

同業の方々とはできるだけ繋がりたいですね。同業の中でも、少し事業内容が違うと競合にならないですし、話していても参考になることが多くて勉強になります。学んだことと新しく浮かぶアイデアとがリンクしやすいんですよね。

あとは、20〜30代の後継ぎの方々との交流をさらに深めたいと考えています。社内の風土改革や先代とのコミュニケーション、次世代の経営スタイルなど、同世代だからこそ共感し合える課題があるなと思うので、同世代目線で刺激し合えるような関係性をつくっていきたいです。定期的に同じメンバーで話せるような「○○○研究部」のようなものもあったら面白そうだな、と思います。

——家業イノベーション・ラボの良いところはどんなところでしょうか?

最大の魅力は「デメリットが全くない」ことです。少し話は変わりますが、自社製品を初めて作った時『売れるかどうかわからないものに手を出すのは危険だ』と反対されたこともありました。会社で話し合った結果、予算の範囲内で制作して、売れなかったらすぐに止めるということになったんです。

家業イノベーション・ラボは無料で参加できるので、参加してみて「自分に合わないな」と思ったら止めることができるのも良いところだと思います。まずは参加してみて、考えてみたら良いのではないかと思います。

いつでも相談できる距離感でいてくださる実行委員や講師の方々、そして同世代の仲間との出会いが大きな学びになっています。関心がありそうなイベントやセミナーをご案内いただけるのもありがたいですし、参加対象になる知り合いにはオススメしていますね。

——最後に、同じように家業を継ぐ立場の方々へメッセージをお願いします。

北海道の企業を訪問させていただいた際も、実行委員の方にまずは相談してお繋ぎいただいたりと、家業イノベーション・ラボにはとてもお世話になりました。もし出張や旅行などでどこかに行く機会があって、訪問したい企業や人がいる時など、どんなことでもまずは相談してみることをオススメします!