企業×地域共創ラボ【家業後継者対象】宮城県気仙沼市フィールドワークの開催報告 ~東日本大震災後に育まれた、地域事業者の経営革新のあり方や経営者マインドとは~

「家業イノベーション・ラボ」は、NPO法人ETIC.(エティック)が運営するローカルベンチャー輩出地域での対話と共創の会員制プラットフォーム「企業×地域共創ラボ」と連携し、6月末に開催された香川県三豊市に続き、宮城県気仙沼市の先進的事例から学ぶフィールドワークを実施しました。本記事では、フィールドワークの様子をレポートします。

>香川県三豊市のフィールドワークレポートはこちらからご覧いただけます。

UIターン者の活躍のフィールドを、自治体、地域事業者が連携して耕してきた気仙沼市

東日本大震災から2024年で14年目となる気仙沼市。震災からの復興、漁業の衰退や人口減など、課題先進地域であることを「多くの人の活躍のフィールドがある」と捉え直し、行政は地域のリーダーとなる経営人材の育成に力をいれ、また、震災ボランティアを機に移住した若者たちを筆頭にUIターン者が働く土壌を耕し続けてきました。

現在では、地域事業者らが連携して、人材の課題を解決するための事業がスタート。地域内3社が出資して立ち上げた、域内企業の人事を担う「合同会社気仙沼の人事部」や、地域内7社が特定地域づくり事業協同組合の制度を使って立ち上げた、各事業所の仕事を組み合わせて人材派遣することで年間を通して安定した仕事を作り出す「気仙沼ジョイントワークス」という取り組みが進められています。

さらに、この14年間で育ってきた地域プレイヤーや課題意識をもって活動する個人をつなげる仕組みをつくろうと、社会課題×事業・活動の機運を高める研究会型プログラム・気仙沼社会課題研究所「シャカケン!」もスタート。学びあう場づくりを通じて、地域課題を解決するための連携やチームが生まれること、プロデューサー人材の育成を目指しています。

地域経営者にとって必要なマインド、共創や新しい仕組みづくりのあり方を学ぶ

今回は8名が参加。特に、前回のフィールドワークで地域の仲間と参加したいと思ったという「家業イノベーション・ラボ」メンバーは、自治体職員、地域の事業者仲間と一緒に参加されていました。

今回のフィールドワークで置かれたテーマは、下記4つです。

  1. 地域でイノベーションを起こす経営者マインド、共創の在りかた
  2. 地域課題解決に取り組むプロセスから生まれた、経営革新と新規事業
  3. 地域経営者を支える仕組みとブランドづくり
  4. 新しい人材獲得機能の生み出し方

1日目は、気仙沼市役所の産業部産業戦略課の中居慶子さんを訪ね、「人材育成道場 経営未来塾」(2013~2016)、「気仙沼経営人材育成塾」(2017年~)での経営人材育成の取り組みについてヒアリングをさせていただき、これらのプログラムを通じ、地域のリーダーたちの中で失敗してもチャレンジし続けるマインドが醸成され、それが「挑戦を応援できるまちづくり」に繋がっているということを教えていただきました。

左列最奥が、気仙沼市役所の産業部産業戦略課・中居慶子さん

その後、気仙沼の太田地区で空き家を活用しながらエリア開発を進めるUターン者の志田淳さんにご案内いただき、市内を散策しました。

志田さんは大学卒業後に東京からUターンしたグラフィックデザイナー。現在、かつて歓楽街として栄えた太田地区の元スナックだった空き家を購入し、市内外のアーティストが集う場としてアートギャラリーに改修中

さらに上述した「シャカケン!」にも参加し、商工会議所中小企業振興部経営支援課の菊田勲さんから地域の現状を伺いました。

また、「地域で取り組む『事業承継』とは?」をテーマに、家業イノベーション・ラボ実行委員の片山あゆ美さん、気仙沼市内で事業を行っている、または起業を検討しているすべての方に向けたサポート拠点「気仙沼ビズ」のセンター長・栗山麗子さん、能登の里山里海のエコシステムを持続可能にすることを目的に30-40代の能登の経営者が集まり設立した「株式会社ノトツグ」代表取締役・友田景さんをゲストに招いた勉強会が開催され、それぞれの取り組みについても学びました(アーカイブはこちらからご覧いただけます)。

「シャカケン!」での「地域で取り組む『事業承継』とは?」をテーマにしたイベントの様子

懇親会を経て翌日は、上述した「気仙沼の人事部」代表社員の小林峻さん、さらに同市でイノベーションを起こしている企業の経営者である、株式会社菅原工業(総合建設業)の代表取締役・菅原渉さん、アサヤ株式会社(水産業の専門商社)の代表取締役社長・廣野一誠さんからお話を伺いました。

左が株式会社菅原工業の代表取締役・菅原渉さん、右がアサヤ株式会社の代表取締役社長・廣野一誠さん

人材不足や産業の衰退という企業や地域の課題に対し、菅原さんはインドネシア人技能実習生の受け入れを行うとともに、彼らが気仙沼で学び自国に帰ってから活躍できる環境整備に取り組み海外事業や多業種(飲食店)を展開しています。また廣野さんは、自社事業に観光をかけ合わせたり、またご自身のスキルを活かした地域の子供たちへのプログラミング教室など複数の新規事業を展開しています。

気仙沼、あるいは自社を「どういう未来にしたいか」を考え、3年後や5年後見据えた人材育成(例:小中学生対象の特別授業を実施)や自社をより働きやすい環境に変えていく、地域・自社・お客さんの三方良しの未来を目指すお二人のお話は参加者の皆さんの地域や家業のこれからを考える大きなヒントになりました。

地域の仲間たちと参加することで積み重なっていく、共通の視座

地域の仲間を誘って参加した「家業イノベーション・ラボ」メンバーからは、下記のような振り返りがありました。

「前回の三豊フィールドワークに続き、今回もかなりインパクトが大きかった。これまで三豊での学びを周りに話しても伝わらなかったし、共有することを諦めていた部分もあったから、特に地域の仲間と一緒に経験することが大切なんだと改めてよくわかった。参加した自分たちの関係性もさることながら、地域にとってもきっと転機になる、大きな機会になったと思う」

また、一緒に参加された自治体職員の方からは、下記のような振り返りがありました。

「我々自治体は何していたんだろうというのが、率直な感想。話を聞くだけではやはり難しかったが、今回一緒に見ることができて、地域事業者の人たち含め、自治体職員はサイレントマジョリティーにちゃんと出会うということが大事だと感じた。普段、役場に来る人にしか会えないが、実際に現場に会いに行くと素敵な人がいっぱいいる。こういったフィールドワークを自治体職員向けにできたらいいのではと思った。

また、自治体は税金を福祉で住民に返したり、産業を盛り上げることが仕事だと思うが、特に産業を盛り上げるというのは自由度が高い。どうやって創出するのかの前に、そもそも『賑わい』の定義から始めないといけない。そんな大きな課題をただ投げられても、長年やってきたルーティーンもありなかなか難しい。サポート人材としての地域おこし協力隊もどう採用していいか分からず、たまたま来た人を採用している状況。今回、一度ゼロから考え直し、やり直してみるということも必要なのではないかと感じた。このフィールドワークで学んだことは多いが、実際どうやって活かせるのか考えていきたい」

続いて、同じ地域の事業者仲間からは、下記のような振り返りがありました。

「1日目はホテルに戻ったあと、もっとやれることがいっぱいあると考え始めたら眠れなくなった。(気仙沼の取り組みは)自分の地域の現状からはとても遠い場所にあるという感覚もある一方で、地道に一人ひとり、1日1日できることを少しずつ積み重ねて今があるんだろうと思った。自分の地域でもちょっとずつでも形にしていくのがやっぱり大事なんだろうと思う。帰りの車中でも作戦会議をしたい」

他の参加メンバーからは、下記のような振り返りがありました。

「一次情報を見に行く大事さを感じた。今日もグッドデザイン賞に地域コミュニティ部門があることを知ったり、実際に受賞している人から話を聞けた。そうした情報を自地域に活かしたいと思うし、実際に見聞きすることがエネルギーにもなる。今回は地域のメンバーと一緒にくることができなかったので、自分からメンバーに伝えていきたい。特に、地域の人事部にはすごく関心がある。自社に年間300人の応募があって、でもそのうち200人以上は合わないという状況。けれど、地域内の他企業なら合いそうだということがあるので、検討したい」

最後、気仙沼のコーディネーターでもある「気仙沼の人事部」代表社員の小林峻さんからは、「つながる機会や出会いの総量が地域内に居続けると必然的に減ってしまうので、それをどう作り続けるかが大切だと思った。自分たちも気仙沼の経営者を集めて2月に三豊訪問の企画を考えている。みんなで移動して経験を共有する機会をつくりたい。加えて支援機関側として、どう生態系を作っていくかは引き続き命題。他地域に学びながら、チームで作っていけるようにデザインしていきたい」という振り返りが語られました。

一人ではなく地域の仲間と参加することで視座を共有できたり、自地域での新しい取り組みのヒントを持ち帰ることができたフィールドワークとなりました。