家業イノベーション・ラボに参加している家業イノベーターたちがどのようにプログラムを活用し、実践しているのかを深掘りする「家業イノベーション・メンバーズボイス」。参加のきっかけや初めて参加したプログラムから、印象に残ったプログラムで得た気づき、そして実際に成果を上げるためのポイントまで、皆さんの挑戦をサポートする実践ガイドとしてお届けします。
今回は、株式会社ボイスクリエーションシュクル 経営戦略室長 佐藤 直さんにお伺いしました。
<プロフィール>
生後9ヶ月でカナダへ移住し、その後マレーシア、フランスで幼少期を過ごし、大学卒業後、スポーツビジネスの世界で経験を積み、2021年に母が創業した株式会社ボイスクリエーションシュクルに入社。同社独自のトレーニング法「声磨き®」メソッドを活かした幅広い事業を展開しています。自身の経験を掛け合わせ、Jリーグのクラブと連携したシニア向けプロジェクトを展開。スポーツと地域をつなぐ新たな価値創造に挑戦しています。
■WEBサイト:https://vcsucre.com/
スポーツと「声磨き」の出会いが生んだ新しい可能性。
――まずは簡単に自己紹介と、現在の家業について教えてください。
大学卒業後、スポーツビジネスの世界で働きたいという思いから、スポーツ写真のインターネット販売を展開するベンチャー企業に入社しました。その後、スポーツマーケティング企業に転職し、プロスポーツクラブのコンサルティングや広報支援を行っていました。当時は天職だと思い、この道を極めていきたいと考えていました。
一方で、高校生の頃に母が起業した「声磨き」の事業を見てきました。母が一生懸命に築き上げてきた事業を一代で終わらせるのはもったいないという思いもあり、2021年に入社を決意しました。現在、当社は「声のチカラで日本を元気に!」を理念に、声の磨き方・話し方を体系立てた独自メソッド「声磨き」を展開しています。話し方教室としてスタートし、現在では介護予防・法人研修・講師養成・学校教育等幅広い分野で事業を展開しています。
――家業への入社は覚悟が必要な決断だったと思うのですが、いつ頃から思われていたのでしょうか?
30歳を迎える少し前から、自分の進むべき道について考え始めました。家業入社前は週末にイベントやホームページの運営を手伝っていましたが、ちょうどコロナ禍に入って「声を出す」活動が制限され、売り上げが大きく減少してしまいました。そこで、次に何をすべきかと考え、スクール事業を全てオンラインに移行しました。
この変化により、全国から多くの方が参加してくださるようになり、マーケティングを本格的に取り組めば、さらなるブレイクスルーが可能だと実感しました。また、母から「もっと事業に力を貸してほしい」と言われたこともあり、入社を決意しました。
――家業に入られて感じた課題はありましたか?
最初に感じたのは、母が築いたブランドの強さでした。業界でも有名な存在だったので、自分が入社した時、「佐藤さんの娘さん」と言われることが多く、これまでの良さを活かしながら、どのように新しい価値を提供していけるかが課題でした。
そこで、スポーツビジネスで培った経験を活かし、スポーツとかけ合わせた新たなビジネスモデルを模索しました。その結果、スポーツビジネスの経験を活かした『声縁(せいえん)でつながる!声磨きプロジェクト』を立ち上げることができました。
仲間から得た学びや視点を事業に活かす。
——家業イノベーション・ラボとの出会いについて教えていただけますか?
小学校の同級生が家業イノベーション・ラボに参加していて、似たような境遇だったことから興味を持ちました。2022年12月に実行委員の方にお会いする機会があり、その週末にあったイベント「望年会」に誘っていただいたことが参加したきっかけです。「どんな人が来るのかわからないけど、まずは行ってみよう!」と参加したので最初は少し緊張していたのですが、フラットに話せる雰囲気で居心地が良く、また境遇は違えども同じような悩みを持つ方々との出会いに衝撃を受けました。話していて共感することも多く、自分の抱えている悩みはちっぽけだなと開き直ることもできました(笑)。
——特に印象に残っているプログラムやイベントはありますか?
「真の強み発見ワークショップ」に2クール参加したことが特に印象に残っています。普段は日々の業務に追われ、後回しにしがちな課題の整理や、自社の強みを見直す貴重な機会となりました。休日を返上してまで参加するほどの熱量を持った方々との出会いは、大きな刺激になりました。
また、地域活性化に熱心に取り組まれている株式会社タシロ 代表取締役社長 田城 功揮さんとの出会いも印象深かったですね。地元への強い思いを持ち、当事者意識を持って活動されている姿から多くを学ばせていただいています。全国各地の中小企業·小規模事業者の後継予定者が、既存の経営資源を活かした新規事業アイデアを競うピッチイベント「アトツギ甲子園」では、2年連続で地方大会に参加する機会も得ました。家業イノベーション・ラボに入っていなければ、こうした貴重な経験はできなかったと思います。
——家業イノベーション・ラボに参加して、特に良かったと感じることを教えてください。
事業内容に共通点がなくても、「家業がある」という共通の土台があり、悩みを抱えているという前提があると、イベントで初めて会った方ともすぐに打ち解けられるのが嬉しいです。普段は出会えない他業種の方々とお話したり、つながる機会があるのは、とてもありがたいと感じています。
特に教育サービス業に従事していると、同じ業種の方と出会う機会が少ないため、ものづくりや製造業の方々との交流は貴重です。普段は気づかない視点から、自社の事業についてコメントをもらえるのは非常に価値があります。自社で「当たり前」と思っていたことが、他の方々には新鮮に映ることも多いです。
田城さんと話していた際に、私たちの事業と親和性が高いと感じる声の分析を行っているスタートアップ企業を紹介していただきました。また、学校用品を取り扱っている合同会社スクサポの春山さんとは、都内の高校での進学講演会実施をサポート頂きました。さらに、大阪や秋田への出張時にも、家業イノベーション・ラボなどアトツギ関連イベントでつながった方々が飲み会を開いてくださり、コミュニティを超えて新たなつながりが生まれていると実感しています。
メンバー同士で共創し、より良い未来を目指したい。
——どんな方との出会いや、学び、サポートがあると嬉しいなと思いますか?
「共創マッチングプロジェクト」のような取り組みをしてみたいと考えています。企業同士で、新たなアイデアを模索したり、解決したい課題を共有したりして、それに対して「こんな課題を解決できます!」という提案をし合いながら、共同でプロジェクトを進めることができたら、とても面白いと思います。
スポーツ団体との取り組みでは、こういったマッチングの仕組みが存在していますが、後継者に関わる分野ではあまり見かけないように感じます。社会課題ごとにプロジェクトを提案したり、そうしたプログラムがあれば、きっと新しい視点やイノベーションが生まれるのではないでしょうか。そんな取り組みができたら、とてもワクワクしますね。
——今後の展望についてお聞かせください。
「声磨き」は非常に汎用性が高く、スポーツ以外のさまざまな分野と掛け合わせることで、多様な社会課題を解決できる可能性を秘めていると考えています。当社は、家業でありながらもスタートアップのように新しい事業を創出できる企業です。「声」という形のないものを起点としたサービスを展開しているため、新たなアイデアをスピーディーに実現できる点が強みです。この強みを活かして、より良い未来の創造に貢献していきたいと考えています。
――最後に、同じように家業を継ぐ立場の方々へメッセージをお願いします。
私自身、家業を継ごうか迷う立場で参加したので、その気持ちはよく分かります。正直、正解はないと思います。ただ、入社してからの努力次第で、その選択を正解に変えていくことはできます。確かに大変なこと、理不尽なことはありますが、その過程を楽しみながら成長できるよう、前を向いて進んでいって欲しいと思います。
家業イノベーション・ラボについても、最初は分からないことだらけかもしれません。でも、参加してみることが大切です。心理的なハードルを感じる方もいらっしゃると思いますが、参加することでマイナスになることは絶対にありません。まずは小さな目標を立てて、一歩を踏み出してみてください。必ず得るものがあるはずです。