ローカルベンチャーラボ【家業後継者対象】家業ラボコミュニティから参加した3名の体験談

2024年に開催されたローカルベンチャーラボ第8期では、「家業後継者支援枠」を設け、この家業イノベーション・ラボから3名が参加。家業ラボコミュニティとローカルベンチャーラボを行き来し、家業を成長させる事業プランを6ヶ月間かけて構想しました。

本レポートでは、「家業後継者支援枠」で参加した3名──梅木悠太さん(株式会社山ス伊藤商店取締役/つきがたdesign副代表/Tsukigata LABO代表)、新川隼人さん(株式会社新川)、小松麻衣さん(プロテック株式会社 代表取締役)のローカルベンチャーラボ体験談をお届けします。

ものづくりから、SNSでのファンづくり、まちを訪ねたくなるエリアブランディングと広がった事業構想

北海道月形町(つきがたちょう)で活動している梅木さんは、教員として8年間働いた後、地元月形町が寂れていく姿に危機感を覚え、まちづくりをするために家業の土木建築資材総合商社「山ス伊藤商店」に入社しました。現在は家業の傍ら、個人的な活動としてまちづくり団体「つきがたdesign」、そして「Tsukigata LABO」 というコワーキングスペースの運営をされています。

ローカルベンチャーラボに参加したのは、月形町と関わる新たな事業を模索していたタイミングだったといいます。ラボを通して最終的に形になったのは、「“雪国”と“田舎”の暮らしを届ける」という事業プラン。当初は雪が特段に多い月形町の特性を活かして雪かき道具を作りたいと考えていたそうですが、 6ヶ月間を通して生まれたプランはより広い視野のものに変化したそうです。

「まず、モノやコトを売る前にファンを作ろうという結論に至って、 Instagramで暮らしを届ける発信をして、その先に、北海道の商社との付き合いが深い家業の強みを活かして、スノーギアやガーデニング用品、キッチン用品だったりといった暮らしの道具の販売と、エリアリノベーションでファンが月形町を訪れたくなる仕組みを構築していきたいと考えました。
弟がYoutuberで、その兄が運営する北国の暮らしに関する発信をするInstagramという設定で10月から運用中なのですが、デモデイ前日は700人だったフォロワーが、2024年12月現在2万2000人まで増えてきています(2025年2月現在4万8000人まで増加中)。来年冬あたりにはこのアカウントのファンに向けて、実は母親もガーデナーとして有名なので、ガーデニング用品、雪国のスノーギア、生活用品の製作と販売を企画しています。
また、同時進行でまちの空き家を仲間と一緒に買い取って、カフェやスナック、ゲストハウスを作る予定で進めていて、ファンがまちを訪れたくなる仕組みづくりに挑戦したいと思っています」

梅木さんは、今回ローカルベンチャーラボに参加して1番よかったことは、「全国各地にローカルで活躍する仲間ができたこと」だと語ります。

「すでに結果を残してきた仲間というよりも、今まさに結果を残そうとしている仲間がいることが大きな価値だなと感じました。同じタイミングで切磋琢磨していく、先輩というよりは本当の意味での仲間ができたことがよかったです。
あとは、数年間もがいていた新規事業を実際に前に進めることができそうなところまで形にすることができましたし、なぜ地域で活動するのか、ビジョンを考え直すきっかけをもらえました。地域と自分と家業と、新規事業と、それぞれの点が面になるような事業に考え直すきっかけとなりました」

日本の地域の多様性を知り、まちづくり事業の次の一手を再考した6ヶ月間

2人目の参加者、株式会社新川の新川隼人さんは、広島県東広島市安芸津町(あきつちょう)という海沿いのエリアで活動中です。家業は祖父が創業してから70年続いている建設会社で、現在3代目。新川さんは専務として働かれながら、お一人で別のまちづくり会社「合同会社トモシビファーム」も運営されています。

まちづくり会社を始めたきっかけは、2022年、本業で町にコワーキングスペースを作ったことなのだそう。人口1万人に満たない町で、多くの来客数を見込めない中、コンセプトに力をいれるため産官学民が協働でおこなう町づくりを目指す拠点としてのコワーキングスペース「町づくりコワーキングスペース third」を作り、さらにソフト部分の強化をしていこうと、市の事業として地域の方々との話し合いを経て「トモシビファーム」を立ち上げました。現在「トモシビファーム」では、まちの「人」にスポットライトを当てた情報発信サイト「あきつとあしたに、」の運営をしています。

「1人のまちづくり会社ですので、資金がない中、地域の中小企業の経営者さんにスポンサーになっていただき銀行の融資の返済分を賄うという方法で事業を進めています。具体的には、情報発信サイトにロングインタビューが掲載されることで採用強化につながるということで、月額での協賛金をいただいています。
この運営方法なら資本金が少ない地域でも取り組めると思い、事業を横展開して他地域のまちづくりの力になれたらという思いがあり、事業の横展開の方法や、まちづくり会社の持続可能な経営の仕組みを考えるためにローカルベンチャーラボに参加しました」

参加して得られたことについて、新川さんは「他の地域の課題感を知れたことと、先進地域へのフィールドワークでの学び」だと語ります。

「岡山県西粟倉村のフィールドワークで、人口5,000人くらいをボーダーに、自治体のまちづくりへの感覚、住民との二人三脚感がすごく違うものだということを体感しました。横展開を考えていましたが、地域活性化といっても同じ取り組みがそのまま他地域で効果的かは限らないと思い直すきっかけになりました。
一方で、ラボ期間中に気仙沼を拠点に活動している同期生に誘っていただき、気仙沼で自分の取り組みを伝えた際にはすごく受け入れてもらえたので、実際に現地に行って意見交換しながら取り組みを伝えることは横展開につながるということも実感できました」

デモデイでは、「地域活性化エコシステム」の事業プランを発表された新川さん。魅力的なポータルサイトで町への移住に関心を持ってもらい、そこからまずは実際に遊びに来てもらう機会を生むことで、町にお金が巡ります。さらに自社や仲間が運営している宿泊施設で移住体験をしてもらい、コワーキング施設で移住相談を受け付けるというものです。

「移住者の方は最初は賃貸での住居を希望されるので、『トモシビファーム』で先日空き屋を買って賃貸に出すという不動産賃貸業も始めてみました。今後は地域の空き屋で小規模店舗の開業を支援するチャレンジショップとシェアキッチンをオープンさせて、移住者の起業支援を強化していきたいと考えています」

覚悟が生まれ、前に立ちリソースを得ていくことにチャレンジするように

3人目の小松麻衣さんは、北海道札幌市にあるシステム会社「プロテック株式会社」(以下、プロテック)の2代目です。38年間、社会福祉事業所向けの会計システム開発・サポートを行ってきました。

ローカルベンチャーラボ参加前は、全国的なエンジニアの人材不足、クラウド化に伴うコスト高、そして少子高齢化でメインのクライアントである地方の社会福祉事業所の縮小の未来が見える中、自分たちはまちの福祉機能の存続をどのように支援できるのか悩みを抱えていたそうです。

特に、「福祉機能が失われてしまったら、その地域で生まれた障がいを持つ方はどう生きていけばいいのだろう」という危機感から、ローカルベンチャーラボの6ヶ月間では農福連携などの新規事業の構想を進めていったと語ります。

「ローカルベンチャーラボでは、鹿児島県で古民家カフェ&ゲストハウス『横川kito(よこがわきと)』を運営されている白水梨恵さんのゼミに参加しました。個別メンタリングをしていただいて、中間の発表時には障害者福祉施設が作っている商品をリブランディングして物語をつくり販売するECサイト『Omusubi』を実験的にオープンさせました。知名度が全然足りないので、SNSを活用したり、地域のイベントに積極的に参加したりしてきました。
また、経営の難しさから手放されようとしていた恵庭市の社会福祉法人を事業承継していて、同市にある北海道文教大学と産学連携で新しい特産品を一緒に考えようという話をしています。その中で見えてきた課題が、農産物で特産品を作ろうとすると加工が必須になって労働力が必要ということで、それならばそこに障がいのある方に関わってもらえたらもっと社会参加が進むのではという着想から、行政と話をしようと思っているところです。
最後に、恵庭市の事業所の土地が少し余っているので、ユニバーサルスポーツとして登録を目指しているモルックの練習場にすることで、新しい人たちを地域に呼び込んだり、コミュニティの拠点をつくることができないかと画策しています」

また、ローカルベンチャーラボに参加して変化したことについて、小松さんはこのように語ります。

「最後のデモデイの日、中座し、日本財団主催の『就労支援フォーラムNIPPON 2024』で登壇したのですが、これまではそうしたことにチャレンジしようと思えていなかったんです。自分はシステムが作れるわけでもないし、福祉の資格も大したものは持っていないし、中途半端で何もできていないのに偉そうなことを言えないと思っていたんですけれど、『いや、そういう問題じゃないよね』と、覚悟があればできることを教えてもらったと感じています。
また、フィールドワークやゼミを通して横のつながりをたくさん持てたことは本当に大きな価値で、梅木さんも新川さんもおっしゃられていましたが、もう事業のかたちが完成している人ではなくて、ここから一緒に走っていく仲間ができたことが本当に心強いなと思いました。
私は今、どちらかと言うとローカルで特別なリソースがあるわけでもないですし、モノがあるわけでもないんですよね。けれど、ローカルのことを考えるときに想いは一緒なんだなと感じられて、その想いを軸にしたら何か関わり合える場所を見い出せるということに気づけたのがすごくよかったです」

地域課題解決のための新規事業構想の鍵となるもの

下記に、3人が体験談をプレゼンしたイベント当日の質疑応答の一部を共有します。

──梅木さんに質問です。本業とファンづくりは今も分けて考えているのでしょうか? 

梅木:今は本業とはまったくつながっていないのですが、本業では商社も兼ねていて、除雪道具もガーデニング用品も扱っていて、それらを土木業者に販売しているんです。長い歴史で培ってきた取引先なので、そこは他に真似できない強みかなと思い、実際に商品が完成したらそうした強みを活かせたらと思っています。

──新川さんに質問です。地域の人にフォーカスしてインタビューサイトをつくるのはまちづくりの中で一番王道だなと思っているのですが、そこで取り組みを終えてしまう地域も少なくない中で、次のステップは大事なのだろうと感じます。今後、横展開以外に考えられている次のステップはありますか?

新川:それは、発表したエコシステムですね。実は、ポータルサイトで伝えた魅力である家族の移住が決まった際、最初は半日の観光で訪ねてこられたのですが、宿泊してもらった方がまちの魅力が伝わるだろうということで、2回目に2泊3日のお試し暮らしをしていただいたんです。その後移住を決められて、家探しを手伝ったときに、賃貸という希望に合わせて探したのですが条件に合う物件のオーナーさんは高齢で、可能なら購入して欲しいということだったので、間に入って購入させていただいて、賃貸物件にしました。これは実際に移住を決めてくれた家族に沿ってつくったエコシステムなので、再現性のあるものなのではないかと思っています。

──移住した方々が実際に住んだとき、魅力的なまちであり続けるためのコンテンツが必要になってくるのではと思うのですが、そのあたりは新川さんが誘致されたりする予定はあるのでしょうか。

新川:例えば今も「カフェが欲しい」という要望はあるんですが、プレイヤーがいないと実現できないので、まずは周りにいる魅力的な仲間に会って誘って来てもらって、この地でやりたいなと思ってもらうところまで持っていかないと、と考えています。

物件はお金をかけたら簡単に作れるのですが、プレイヤー集めは巻き込むところからだなと、ひしひしと感じています。去年、まちのコンセプトとして「チャレンジャーを応援するまちになっていこう」ということは決めたので、誰かの「やりたい」をみんなでサポートして、叶えていくことを繰り返していくのが大事なのではないかと今は思っています。

──小松さんに質問です。ローカルベンチャーラボ終了後のアンケートに、ローカルビジネスに必要な発想と粘り強さと待てができる忍耐を学んだと力強く書いていただいたのですが、その背景を教えていただけますか?

小松:ローカルベンチャーラボに参加する1年前は、スタートアップ向けの学びの場に参加していたんです。そちらでは「スモールからまず始めろ、考えるな、動け」みたいな感じだったのですが、ローカルで事業をする環境はスタートアップの前提とは真逆で、一人で自分勝手に進められるわけではなく、一緒に進む地域の人たちがいますし、いくつも課題はあるんですけどすぐに結果を求めると絶対に失敗するなというのはすごく思います。

スタートアップでは1ヶ月、3ヶ月、半年スパンで進捗を尋ねられたのですが、ローカルでは半年どころか2年、3年後で地図を描いて、時には唇を噛みしめながら待たないと地域に溶け込んで何かの課題を解決することは無理なんだなと気づかされた半年でした。

家業イノベーションラボでは、来年度もローカルベンチャーラボの家業後継者支援枠を設ける予定です。
来期募集の詳細は2025年3月ごろ改めてご案内いたしますので、引き続きFacebookの投稿やホームページをご確認ください。