【開催レポート】「アイディアを、現場でカタチにする。岡谷の後継ぎ3人に学ぶ ーものづくりと地域のつながりー」

2026年9月5日(土)、長野県岡谷市を舞台に、「アイディアを、現場でカタチにする。―岡谷の後継ぎ3人に学ぶものづくり―」を開催しました。本企画をコーディネートしたのは、岡谷で家業を継ぐローカルベンチャーラボ【家業後継者支援枠】修了生の河西右登さんです。

「岡谷にいる面白い人を紹介したい。そして、参加者同士の交流の機会ともなってほしい」
「どうすればできるか?」、「やってみたいこと」をどう形にしていくかを一緒に体感してほしい。

そんな思いから、家業イノベーション・ラボのメンバーに加え、IT企業の経営者、信用金庫、まちづくり、メディア、行政関係など、さまざまな分野から18名の参加者が集まりました。

岡谷のものづくりの現場を訪ねながら、家業を受け継ぎ、地域の中で新しい事業を生み出している河西右登さん、宮澤健さん、小野邦生さんの3名の実践に触れました。

01|河西鉄工所 

最初に訪れたのは、河西さんの家業である河西鉄工所です。岡谷の歴史や地理、地域に蓄積されてきたものづくりの資源について話を聞いた後、依頼を受けてから製品が完成するまでの工程を見学しました。

従業員の方から直接お話を伺う時間では、河西さんが専務として現場に入ってから、職人の背中を見て覚えるという昔ながらのスタイルから、対話を重視したコミュニケーションへと現場が変化していったことも紹介されました。

若手が育つ環境をつくりながら、会社のコンセプトである、

「想いを、最速で、かたちに。」

を実現していく。

その背景には、技術だけでなく、顧客の想いを聞き、社内外の人をつなぎながら実現方法を考える「プロジェクトマネージャー」の役割があります。「つくる」だけではない、提案型のものづくり。その現場を間近で見ることができました。

<プロフィール>
河西 右登さん|有限会社河西鉄工所 専務取締役
長野県岡谷市の河西鉄工所で専務を務める。2015年、祖父の急逝をきっかけに家業へ。現場のあり方を見直し、職人の技術や想いを引き出しながら、製品開発だけでなく採用や財務など、会社の仕組みづくりにも取り組んでいる。提案型のものづくりを強みに、顧客の想いを最速でかたちにすることを目指している。

02|やなのうなぎ観光荘 

続いて訪れたのは、やなのうなぎ観光荘です。

岡谷ではかつて天竜川でうなぎの簗漁が盛んに行われていました。そんな地域の資源を背景に、現在は長野県内2箇所でのうなぎ店舗運営とEC販売に加え、JAXA認証の「宇宙日本食」の生産にも挑戦しています。

Uターンで家業を継いだ宮澤さんが大切にしてきたのは、「どうすればできるか?」という問いでした。経営を見直し、設備への投資、人材、そして組織づくりへと取り組みを進めるなかで、改めてPMVV(パーパス・ミッション・ビジョン・バリュー)にも向き合いました。

そこで見えてきたV(ビジョン)にあたる「これから」の可能性から生まれたのが、「シルクうなぎ」や「スペースうなぎ」といった新たな事業です。受け継いできた「うなぎ」という資産を守るだけでなく、新しい市場や地域との関わりへとつないでいくことを掲げています。

「家業を受け継ぐこと」と「新しいことに挑戦すること」。その2つが、どうつながっていくのかを考える時間となりました。

<プロフィール>
宮澤 健さん|株式会社観光荘 代表取締役
1977年、岡谷市生まれ。観光荘の3代目として、2004年に東京から岡谷へ戻り家業に入る。2019年に代表取締役に就任。伝統のうなぎ料理を守りながら、「シルクうなぎ」の開発やJAXAの宇宙日本食への挑戦にも取り組んでいる。

03|小野製作所 

3社目は、精密加工を手がける小野製作所です。

鉄やステンレス、アルミなどを高精度に加工し、チタンやインコネルといった難削材にも対応できることを強みとしていて、多品種少量生産、複雑な加工、大型製品の精度管理など、さまざまな技術を組み合わせて顧客の要望に応えています。

その強みが表されている言葉が、「とりあえず、声をかけてもらえる会社」です。

「できない」と断るのではなく、一緒に方法を考える。そして、自社だけではできない工程があれば、地域の会社とつなぐ。岡谷・諏訪には、さまざまなものづくり企業が集まり、経営者同士が顔の見える関係を築いています。互いの得意分野を知り、仕事を回し合うことで、地域全体としてものづくりの力を高めています。

「車で30分以内で、素材から仕上げまで完結できる」そんな地域のネットワークも、岡谷・諏訪の大きな強みであるとのこと。

「感謝と挑戦のものづくり。」というスローガンのもと、地域と一体となって困りごとを解決し、お客様にとっての最適解に挑戦する。技術だけではない、地域に根ざしたものづくりの姿が見えてきました。

<プロフィール>
小野 邦生さん|株式会社小野製作所 代表取締役
長野県岡谷市の株式会社小野製作所代表取締役。小野製作所は1953年創業。航空宇宙機器部品をはじめ、精密機器・医療機器などの部品や治工具、専用機・省力機器の設計製作などを手がけている。2024年7月に代表取締役に就任。事業を動かす前に、人と向き合う。50人との面談から始めた組織づくり。

04|地域のものづくりを支える「つながり」

最後は、この地域でなじみ深い神社に足を運び、そこに納められた灯籠を見学しました。この灯籠は河西鉄工所をはじめ、岡谷のものづくり会社の協働によって実現したそうです。まさに岡谷のものづくりの象徴的な存在ともいえそうです。

ここまでの一日を振り返ると、岡谷のものづくりは、一社一社の技術だけで成り立っているのではなく、人と人、企業と企業、地域と事業のつながりによって支えられていることが見えてきました。

今回訪れた3社の他にも、岡谷のものづくりを基盤に、アイディアを形にしたいという、思いと技術をもった事業者が多く集まっています。こうしたつながりから地域に人を呼び込めるようなしくみも整えていきたいと、行政の協力も得ながら、人が集える機会づくりを続けていくそうです。

実際に、本フィールドワークにおいても、ものづくりに関心を持つ人だけではない中で、一日の終わりには、

「自分も紹介したい人がいる」
「会社の企業研修として、他の仲間にも参加してほしい」

などの声が聞かれました。

今回出会った人たちの間から、次のアイデアが生まれ、それがまた新たな出会いを生んでいく。そんな可能性を感じるフィールドワークとなりました。