【家業経営革新プログラム】お客様にとってのベネフィットとは ー老舗味噌醤油屋が副業人材と共にチャレンジした、生産性向上のための店舗づくり

福島県いわき市の老舗味噌醤油屋「山田屋醸造」。明治26年の創業以来128年にわたり、味噌、醤油、漬け物、甘酒など発酵食品を製造・販売してきました。2011年の東日本大震災、2019年の台風19号による浸水という2度の大きな災害に見舞われながらも復旧を果たし、地元のお客様に愛され続けています。今回、家業経営革新プログラムに参加し、味噌を求めて店舗を訪れるお客様の「ついで買い」を増やし、生産性を上げるための店舗づくりに共に取り組む店舗コンサルタントを募集しました。

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5代目の青木貴司さんに、約3ヶ月にわたるプログラムの成果やご自身の変化、副業人材受け入れのメリットについて伺いました。

生産性を上げるために求めていた、外部からの目

――プログラムに応募した当時の状況と、応募に至った経緯を教えてください。

味噌・醤油は製造から販売までの過程が長く、コストがかかり、生産性がもともと低い業種です。数年前から商工会議所などの支援を受ける中で、事業の足元の見直しや新たな展開の必要性を痛感していました。利益率を高めて生産性を上げるための既存事業の見直しや新規事業の立ち上げ、そういったことを相談できる外部からの目が欲しいと思っていたところでした。 そんな折にコーディネーターの小野寺さん(一般社団法人TATAKIAGE Japan)から今回のプログラムを紹介いただいて、これならスピード感を持って進められそうだと感じ、応募しました

――副業人材の受け入れは今回が初めてでしたが、不安はありませんでしたか?

自分一人では不安だったと思います。これまでも、相手に下駄を預けっぱなしになってしまったり、途中で「ノー」と言えなくて、「まぁそんなものなのかな」と済ませてしまったりすることがありました。でも、小野寺さんと話すうちに、この方がコーディネーターとして、きちんと釘を刺してくれると感じたので、不安は全くなかったですね。

受け入れにあたっては、店舗の商品陳列や、ポップの文言といった具体的なことについて、私どものような小規模事業者の身の丈にあった的確なアドバイスをいただくことを期待していました。

山田屋醸造の位置付けに気付かされたブラッシュアップ会

――事前に、メンターによる経営革新プランのブラッシュアップ会に参加されました。ここに参加したことによる変化はありましたか?

2名の著名なメンターとお話をさせていただきました。自分としてはちょっと抵抗感のある意見もいただいたんですが、一方で、すごく痛いところをつかれ、要点を外さず冷静に見られていると痛感したことが、今も鮮明に記憶に残っています。

「あー、山田屋さん、結構人来てるの。じゃあ、美味しいんですね。で、そんなに高くないんでしょ、そこらのスーパーと比べて」と言われたんです。そうなんです。いい素材を仕入れて、美味しいものを作っているという自負はあるのですが、スーパーの商品と大して値段は変わらないんです。だから、忙しくて休む暇もなくて、でもそんなにお金が残らない。ブラッシュアップ会に参加して、この山田屋醸造という事業者の位置付けを教えてもらった気がしています。市場への理解を深め、自分たちの商売を深掘りしなきゃいけないんだと思うようになりました。

副業人材との具体的な取り組み

――複数名の応募者があり、うち3名の方と面談をされました。面談の印象はいかがでしたか?

こういった面談をするのは初めてで、小野寺さんに同席してもらい、ところどころ的確なご質問をしていただきました。小野寺さんから、まずはさまざまなリサーチをしてもらうことが、山田屋醸造の今後のために大切だということをかみ砕いて説明いただいて、3名のうち、リサーチに関する特殊スキルをお持ちの細井さんという方が、より明確に私どものニーズに沿って下さる方だと理解しました。自分一人では決断できなかったと思います。

――無事に細井さんとマッチングされ、プロジェクトがスタートしました。その後の具体的な取り組みを教えてください

一度、奈良からいわきに来て実際の店舗を見ていただきました。それに基づいて、現状の配置をどのように変えるべきか、もしくは現状をどう活かすべきか、といったこと、ポップ、看板、商品陳列の順序などの具体案を示していただきました。それに対して私が、業者さんと素案を作り、その素案を細井さんに提示して、評価をいただき、最終案を作り上げる流れで進めてきました。 その他、過去2年間の売上データを提示して、そこから見える、今後強化すべき点についてなどの基礎的な評価もしていただきました。

――今回さまざまなご提案をいただいた中で、特に印象的な提案を教えてください。

一つ目が、明治時代に建てた蔵に、シズル感のある看板を取り付けるということです。「お客様が思わず車を停めたくなる、駐車場に入りたくなる、そういった看板を作りましょう」と提案いただきました。これまででしたら、「味噌は日本の文化だ」みたいな一文を入れて、上品にセンス良く、老舗感を出したいというようなことを業者さんに言っていたと思うんです。それを細井さんに言ったら、そんな看板は一般の消費者から見ると、「だからなんやねん。それはうちには関係あらへんわ」だと。なぜここに車を停めなくちゃならないか、どうしたらお店に入りたくなるか、消費者にとってのベネフィットになることを看板に書かないとダメだということを優しく教えていただきました。

二つ目が、「店舗の正面のガラス窓に大きくポスターを貼りたい」とお伝えしたら、「そこよりもガラスの先にある店舗の奥に大きなボードを付けましょう」と。そんな奥だと見えないのではないかと思ったのですが、細井さんは、「外を通る人の視線を店舗の中に誘導しないと入ってこないですよ」とおっしゃっていました。自分が今まで必死にパートさんたちと試行錯誤してやっていたことが全く見当外れで、ターゲットの心に到達しないものを作っていたんだと気づき、目からうろこが落ちる思いでしたね。

古い世代の経営者の懐柔策にもなった、副業人材

――副業人材を導入してみて、特によかったと思うところを教えてください。

蔵に看板を付けることは、まだ(代表の)父には言っていないんです。これまでだったら衝突していたと思います。でも、父は日経新聞を通して”副業人材”というキーワードに関心があったようで、細井さんの来訪を喜んでおりました。ですので、提案も受け入れてもらえると思います。副業人材の導入は、こういう古い世代の経営者の懐柔策にもなりました。お店が開いていることが分かるようにのぼりをたてたり、看板を整理したり、そういうことも指摘いただきました。私の両親世代の経営者には抵抗感があることかもしれませんが、これも細井さん効果で大丈夫だと思います。

――副業人材の方から提案が出てきたときに、「前にもやった」とか「難しそうだ」といった反応があることが多いのですが、青木さんは「全部やります」とお答えしていたのが非常に印象的でした。今回のプログラムを通じて起きた、会社や青木さん自身の変化や成果を教えてください。

これまでいろいろ画策して、もがいてきた期間があったので、すべてが受け入れられたというか、刺激的に感じられました。具体的な成果が出るのはこれからですが、「どこ向いとんねん」と言われるような独りよがりの制作物を作ってはいけないということに気付きました。また、自分の会社が売るべきものは何か、ということを見直すに至りましたね。

「なんでもやる」と言ったのは、あとで小野寺さんがストップを掛けてくれると思ったから(笑)  進めていく中で、小野寺さんからは、事業を進めていく上で持っておくべき人との距離感だとか、仕事のさばき方、視座の持ち方のようなものを教えていただきました。それも自分にとっては勉強になりましたね。

プロジェクトの今後

――今後の展望を教えてください。

ブラッシュアップ会で、スーパーの味噌と値段が変わらないものを売っても仕方ないということに気付かされました。今後は、スーパーとの差別化を図り、価格の見直しに着手したいと思っています。また、売上が少ない時期のテコ入れを強く意識していきたいですね。
これに留まらず、やるべきことはたくさんあり、経営者として色々身に付けなくてはいけないと痛感しました。専門家や副業人材の力をお借りしながら、焦らず、ひとつひとつ学んでいきたいと思っています。

――最後に、副業人材の活用を検討されている企業さんに一言お願いします!

副業人材の活用はおすすめできますが、間に入るコーディネーターが優秀じゃないと中途半端で終わると思います。きちんと傍で釘を刺してもらうことが一番大事。課題設定が正解だったら、大体うまくいくと思うんですよ。ただ、往々にして、正解じゃない課題を課題だと思っていることってあると思うんですね。もしくは最初は正解の課題を持っていても、途中でブレていったりしちゃう。経営者自身が、副業人材と一緒に進めていく中で、本来の課題から離れていってしまうことも起こりうると思うので、冷静に手綱を締めてくれるような、そういう方が傍にいるのといないのとでは、結果が大いに違ってくると思いますね。

■家業経営革新プログラムの概要・その他の事例記事はこちらから
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