松井機業×BCXSY 産地を訪ね、協業を共に振り返る。

日本発のプロダクトやサービスの発展を支援するJAPAN BRAND FESTIVALと家業イノベーション・ラボとのコラボレーションでスタートした、短期集中型プロジェクト「ヨーロッパ市場に向けた循環可能な商品開発クラフトソン」(以下、クラフトソン)。クラフトソンの協業で「光のインスタレーション」を生み出した松井機業BCXSY(ビクシー)。
今回BCXSYの二人が、オランダ王国大使館のサポートを得て日本各地の工芸やものづくりとのコラボレーションの可能性を探るべく来日しました。南砺市の松井機業本社を訪ね、クラフトソンでの協業を振り返りました。

熱を交わす、前向きなディスカッション。

ーーー今後の海外展開を視野に入れ、プログラムにエントリーされた松井機業さん。コラボレーションに期待していたことは?

紀子さん:松井機業の特徴である“しけ絹”という糸は、2頭のお蚕さんがひとつの繭の中に入って紡がれた糸です。ところどころに節があり、光をやわらかく反射させ、空間を明るくする効果があります。特徴のある糸を薄く織ることができるのは、松井機業の誇る技術です。しかし、日本で販売してきた商品をそのまま海外へ持ち出しても売れるのかという疑問がありました。海外のデザイナーとコラボレーションをすることで、販路を見出せるのではという期待がありました。

しけ絹

ーーーBCXSYさんは、コラボレーションが決まったときの松井機業さんの印象はいかがでしたか?

ボアズさん:絹の技術は素晴らしいと感じました。また、松井さんご夫妻はとてもユーモアのある方々だなと思いました。伝統のある企業は、かっちりと肩の力が入っているイメージがあったのですが、松井さんご夫妻からは新しいことにどんどん挑戦していきたいという前向きな気持ちを感じられたことが印象的でした。

紀子さん:お二人にお蚕さんのぬいぐるみを見せて、お蚕さんへの愛を語った記憶があります。

ーーー創業明治10年の伝統ある松井機業さんですが、これまでも独自で新しいことに挑戦してきた事例はありますか?

紀子さん:従来は着物や襖の素材を問屋さんに売る事業を続けてきました。しかし、若い世代の人たちにも絹やお蚕さんの素晴らしさを知ってもらいたいと考えて、オリジナルブランド「JOHANAS(ヨハナス)」を立ち上げました。JOHANASはBtoCのブランドとして展開しています。また、2016年からは土づくりや養蚕にも取り組んでいます。子どもたちと一緒に桑の木を植樹するイベントも開催しました。今後も子どもたちと一緒に養蚕事業にも取り組んでいきたいと思っています。

桑畑 
工場の一角には蚕が繭を作る際の藁まぶしが設置されている

ボアズさん:養蚕について対話する機会もありましたね。私たちの提案に、いつも前向きに話し合ってくれてよかったです。

紗弥加さん:デザインの一歩手前の部分を正直に話し合える関係性を築けて嬉しかったです。商品だけではなくプロセスについても、同じ熱量で対話を重ねていきました。

強みを活かした“光の演出”。

ーーー「光のインスタレーション」のリモートでの協業はいかがでしたか?

紀子さん:最初は照明を作ろうと話していました。しかし、技術面でのハードルが高く、限られた時間の中でしたので、もともと持っている素材を難しい加工をせずにインスタレーションとして発表することとなりました。ライトを取り入れたり、絹の配置だったり、BCXSYさんならではの感性で新しい作品が完成しました。

ボアズさん:松井機業さんの絹が一番美しく見える配置や色合わせを試行錯誤しました。小さな絹のサンプルをいくつかいただいていましたが、リモートでの協業で作品の実物が手元にない中、吟味していくのは難しかったです。

紗弥加さん:現場で一緒に作品を見ながら進められればスムーズでしたが、リモートという困難の中でも、対話を重ねて絹の美しさを作品として表現することができたと思います。

ーーーコラボレーションを通して再発見したことはありますか?

紀子さん:松井機業は「絹で光を表現することに長けている」ということに気づきました。その瞬間、涙ぐんでしまうほど私の身体が共鳴したのです。今回のコラボレーションで、バリューについて改めて考えさせられました。松井機業として大切にしていきたいことも、BCXSYのお二人のお陰で明確に言葉にすることができました。

渉さん:絹の美しい光の背景には、お蚕さんの命があります。私たちは、お蚕さんの命の循環の中で商品を生み出しています。例えば、商品としての役目が終わったら絹をほどいて土に還す。命を絶つのではなく、命の循環に取り組んでいきたいです。コラボレーションを通して明確に浮かんだ「ひかりを紡ぐ、自然に還る」という言葉をこれから大切にしていきたいと思います。絹が放つ“光”の美しさを、それぞれの解釈で感じとってほしいです。

ボアズさん:想いやストーリーをみせることによって、より多くの松井機業さんのファンが生まれてくると思っています。

訪ねて感じる、絹の可能性。

ーーー実際に工場を見て、BCXSYのお二人はどう感じましたか?

ボアズさん:絹の美しさはもちろん、かなりの手間がかかっているということを改めて感じることができました。リモートでは見えなかったバックグラウンドを知ることで、イメージに奥行きが生まれました。とても良い機会になりました。

紗弥加さん:現場を見ると、さらにポテンシャルを感じました。「もっとこんなデザインをしてみたい」といった思いも膨らんできました。伝統工芸とデザインを掛け合わせた、新しい取り組みを共に進められたらいいなと思っています。

渉さん:見学の際に見ていただいた廃棄される絹糸は使い道を悩んでいます。今はとりあえず袋に詰め込んで保管していますが。廃棄する素材を活かしたプロダクトも叶えていけると嬉しいです。

廃棄の絹糸

渉さん:松井機業の課題である織り手不足や人材の育成に取り組むなど、まだまだ土台を固めていかなければならない現状です。限られた範囲ではありますが、今後も新しいことに挑戦していきたいです。

蚕愛溢れる松井機業と、デザインへの熱意溢れるBCXSY。二組が念願の対面を果たし、笑顔で言葉を交わし合いました。欧米で関心が高まりつつあるサーキュラーエコノミーに繋がる「蚕の命の循環」の取り組み。どのように表現していくのか、これからの可能性を感じる訪問となりました。