【家業イノベーション・メンバーズボイス vol.8 小松 麻衣さん】 ”会社は社会の公器”。社会福祉現場の声に寄り添い、日々挑戦を続ける。

家業イノベーション・ラボに参加している家業イノベーターたちがどのようにプログラムを活用し、実践しているのかを深掘りする「家業イノベーション・メンバーズボイス」。参加のきっかけや初めて参加したプログラムから、印象に残ったプログラムで得た気づき、そして実際に成果を上げるためのポイントまで、皆さんの挑戦をサポートする実践ガイドとしてお届けします。

今回は、札幌市に本社を構えるプロテック株式会社 代表取締役・小松 麻衣さんにお話を伺いました。


<プロフィール>

北海道札幌市で1987年に創業したプロテック株式会社の二代目。北海道大学法学部で学び、司法試験を志すも就職氷河期の影響で進路が定まらず、父からの声掛けで家業へ。営業やシステム導入サポートを経験し、福祉現場の課題に直接触れる。結婚や転居で一度退職するも、父の病気を機に再び参画。2023年に代表取締役に就任。三児の母としても多様なライフスタイルを実践し、家族は北海道と東京・静岡に拠点を分け暮らす“分散型”のスタイルをとる。プロテックは「世の中の役に立つこと/人様に喜んでもらうこと/少し儲かること」を社是とし、社会福祉法人向けの会計・介護報酬・勤怠管理など業務パッケージソフトの開発に加え、就労支援事業所の商品を届けるECサイト「Omusubi」を展開している。

“バックオフィス”を支える、現場第一の開発。

――まずは現在の家業について教えてください。

当社は社会福祉法人に特化した業務パッケージソフトを開発しています。介護報酬請求や勤怠・会計処理といった分野は民間企業と異なる独自のルールがあり、現場の職員さんが大きな負担を感じるところです。夜勤の合間に決算作業をしていた、という話も珍しくありません。そうした課題を少しでも解決するために「自分たちの財布を自分たちで守れる」システムを届けてきました。

この姿勢は、創業当時から変わっていません。父が掲げた社是「世の中の役に立つこと/人様に喜んでもらうこと/少し儲かること」は今も経営の根幹です。創業期はそろばんと電卓しかなく、行政の複雑な報告書式に合わせたシステムを一から自作するところから始まりました。現在は社員17名で、エンジニアに加えて「仕訳がわからない」など現場の疑問に応えるサポート部隊も配置し、伴走支援を大切にしています。

――弁護士を目指していた時期から家業に入るまでの経緯を教えてください。

大学では法学部に進学し、弁護士を目指していました。でも正直、勉強はあまり得意ではなく(笑)、ロースクール制度ができた時に「これは続けられない」と諦めました。就職氷河期で仕事も見つからず、父から「会社を手伝わないか」と声をかけられたのが家業に関わるきっかけです。最初は気乗りしませんでしたが、営業やシステム導入のサポートで全国を回るうちに、次第に現場を理解できるようになりました。

特に印象的だったのは、岩手の社会福祉法人に出向したときのことです。利用者さんや職員さんと一緒に働き、訪問入浴の現場に同行したり、施設のお祭りに参加したりと、現場のリアルに触れる機会がありました。大変ではありましたが、「現場の声を理解しなければ良いシステムは作れない」と実感した体験は、今の経営姿勢に大きく影響しています。

――結婚・転居で一度退職された後、再び戻られたきっかけは?

静岡で子育てと在宅ワークをしていた時期は、仕事と子育ての両立でてんてこまいだけど楽しい毎日でした。でも父が病気になり「継ぐ人がいない」と言われ、再び札幌へ戻ることに。家族は東京や静岡に拠点があり、私は三男と札幌で暮らす“分散型”のライフスタイルを選びました。大変ですが、それぞれが希望する場所で生きることを大事にしています。

――近年はEC事業「Omusubi」にも挑戦されていますね。

はい。就労支援事業所の商品は質が高いのに販路や価格設定で苦しむことが多い。お客様の元を訪ねた際、積み上がった在庫を見て「どうにかできないか」と思ったのがきっかけです。2024年にECサイトを立ち上げ、デザインや企画の工夫を加えて新しい価値を提案しています。現在は地域のカフェとも連携し、ネットとリアルの両面から社会的弱者の支援につなげています。

一緒にやれば、一人ではできないことも実現できる。

――家業イノベーション・ラボを知ったきっかけや、参加しようと思った動機は何ですか?

きっかけは本当に偶然で、SNSで流れてきたエヌエヌ生命の投稿に「いいね」を押したことでした。すると「こんな集まりがあるよ」と案内が届き、とりあえず飛び込もう!と軽い気持ちで女性経営者をテーマにしたイベントに参加しましたね。所属している日本跡取り娘共育協会の総会で、たまたま隣の席に座っていたのが事務局の片山さんだったんです。話をしていて「北海道出身なんです」と盛り上がり、そこから家業イノベーション・ラボのコミュニティに参加することになりました。今思えば不思議な巡り合わせです。

――参加された「ローカルベンチャーラボ」とは、どのような場でしたか?

ローカルベンチャーラボは、自分にとって大きな転機になりました。最初は「地域に関わる活動をもう少ししてみようかな」と、軽い気持ちで応募したのですが、参加してみると全国から集まった熱量ある人たちに圧倒されました。地域おこし協力隊や地方創生に取り組む方など、家業を持つ人はむしろ少数派でしたが、その多様性が学びにつながりました。スタートアップのスピード感に慣れていた私にとって、「種をまいてじっくり育てる」というローカルベンチャーの視点は新鮮でした。島根県雲南市を訪れたフィールドワークでは、地域コミュニティの強さを肌で感じましたし、「衰退する地域にこそ可能性がある」という仲間の言葉が深く胸に残っています。

――そこで得た学びは、現在の活動にも影響していますか?

大きく影響しています。ローカルベンチャーラボでの気づきが、EC事業「Omusubi」の立ち上げに直結しました。「誰かとつながり、一緒にやれば一人ではできないことも実現できる」という実感を得ました。家業イノベーション・ラボやローカルベンチャーラボで出会った仲間との交流は今も続いていて、北海道内外でのイベントやプロジェクトに呼んでいただく機会も増えています。結果的に「家業だからこそ地域と深く関わることができる」という自覚を持つようになりました。

――「ローカルベンチャーラボ」を通じて得たものは?

一番は、仲間ができたことです。全国の仲間が北海道に来た時には、北海道月形町の梅木さんの所へお連れするという流れが生まれています。また、別のプログラムに参加した際、スタートアップ的なスピード感で事業を立ち上げる学びを得たのですが、ローカルベンチャーラボでは地域でじっくり育てるアプローチを学ぶことができました。その両方を学べたことで、自分の経営観が広がり、挑戦を恐れず動けるようになりました。

――家業イノベーション・ラボに参加して良かったと感じる部分を教えてください。

一番大きいのは、2代目・3代目ならではの葛藤や悩みを分かち合えることだと思います。私自身IT系の事業に携わっているので、同じ業界の後継者に出会う機会はなかなかありません。だからこそ、ものづくり企業や町工場のように「現場で汗をかきながら価値を生み出している人たち」の苦労や工夫を直接知れることは大きな刺激になっています。

そうした話を聞きながら「もし自分だったらどうするだろう?」と置き換えて考えることで、視野が広がり、自分の経験値も積み上がっていく感覚があります。また、イベントやフィールドワークといったリアルな場が用意されていることも魅力で、机上では学べない生の知見を得られるのが嬉しいですね。

お互いにサポーターになり、応援し合える関係性をつくりたい。

——2023年の代表就任後、直面した課題は何でしたか?

最初に入社した時はお客さんの悩みを解決できるようにと提案したことがなかなか通らない悔しさはありましたね。家業に戻ってきて、一番の課題だと感じたのは「仕組みづくり」でした。評価制度もなく、できる人ができる範囲で支えている状態。若い人が安心して働ける環境をつくるため、試行錯誤しながら評価制度や給与体系などの整備を進めているところです。

——経営の中で大切にしていることは?

父の口癖は「会社は社会の公器」です。チームで補い合い汗をかくことが会社の強みだと思っていますし、大事なのはやっぱり”人”。お客さんのことを考えられる人と一緒に働きたいという思いが強いですね。社員が誇りを持ち「楽しくなければ仕事じゃない」と思える組織をつくりたいと考えています。

——承継してよかったと思う瞬間は?

毎日大変ではありますが、承継したからこそ出会えた人や学びがあります。家業イノベーション・ラボの仲間や地域の方々とのつながりはお金では買えない価値です。社員一人ひとりの人生に責任を持つことは大変ですが、それこそが経営者のやりがいだと感じています。

——どんな方との出会いや、学び、サポートがあると嬉しいなと思いますか?

常に「次はどうしていこうかな?」と考えているので、同じく2代目として会社をどう回しているのか、古参のお客様とどう向き合っているのか──そうしたリアルな話を分かち合えると嬉しいですね。これまで培ってきたものを守りつつ、新しいものを生み出していかなければならない。その両立には迷いや葛藤がつきものなので、苦労話を共有しながら共感できる場があると心強いです。

また、家業ラボの仲間が集まって「0→1」を一緒に形にしていくようなグループワークにも挑戦してみたいです。自分のアイデアが必ずしも形にならなくても、立ち会うことで価値を感じられる。そうやってお互いにサポーターになり、純粋に応援し合える関係はかけがえのないものだと思います。

家業ラボの魅力は、皆さんが本気で事業に向き合っているからこそ、年齢や性別に関係なく真剣に語り合えるところです。集まれば自然と熱量が生まれる。その瞬間に立ち会えること自体が最高の財産だと感じています。

――最後に、同じように家業を継ぐ立場の方々へメッセージをお願いします。

まず伝えたいのは、「私にできたのだから、きっと大丈夫」ということです(笑)。最初から覚悟を持っていたわけでもなく、迷いながら歩んできました。それでも続けてこられたのは、「人のために」という父の想いを自分なりに大事にしてきたからだと思います。

経営をしていると、常に選択を迫られます。私自身は「迷ったらどちらも選ばない」と決めていて、時間をかけてでも納得できる道を探すようにしています。正解がひとつではないからこそ、自分の「思い」を軸にして判断することが何より大切だと思います。

家業を継ぐ立場は、苦しさと同じくらい出会いや学びに恵まれます。仲間とつながることで一人ではできないことができるし、社員や家族と共に成長していく喜びもあります。どうか「楽しむこと」を忘れずに、自分らしいスタイルで挑戦を続けてほしいです。