【家業経営革新プログラム】「自社にしかできないことを活かすためにこそ、社外の多様な人材の関わりを」 創業110年・老舗木材店の挑戦

山と海が迫るリアス式の地形で良質な杉が育つ宮城県南三陸町。この地で100年以上にわたり町内産の木を製材加工してきたのが丸平木材です。
長年続けてきた「家づくりのための建材提供」だけでなく、「暮らしの空間そのものの提案」という新しい事業領域に踏み込んでいくタイミングで、その一歩となる商品開発の推進役をYOSOMON!で募集されました。

求人ページはこちら:https://yosomon.jp/project/2080

受入れがスタートして約3カ月を迎えた小野寺社長に、受入れの経緯や、受入れ後の反響について、伺いました。

丸平木材株式会社 小野寺 邦夫社長

社外の人材を巻き込みながら続ける、未知の領域へのチャレンジ

――プログラムの応募に至った経緯を聞かせていただけますか?

自分一人の発想や、アイデアを形にする力では、限界があるなと感じたからです。

当社は昨年、事業定義を「木の力を輝かせる」から「緑の暮らしプロデュース業」へ変えました。従来のようにただ “良い木材を提供する” というだけでは、市場はどんどん小さくなっていき、早いうちに限界が来るだろうと考えたからです。“暮らしをプロデュースする” のだから、ただ良い木を作っていますというだけではダメで、どういうシチュエーションで、どういう人に、どのように使ってもらうのかも含めて提供していかなければいけない事業定義に変えたわけです。

すると、妄想はあれこれするものの、実際に具体的なターゲットを決めて、商品にして、販売戦略を立てて、というのを全部我々だけで行うのは難しいなと感じました。社員みんなでわーっと話すのも良いのですが、具体的な一手をどう打ったらいいんだろうか、と。

そうした中で昨年、ある会社さんに声を掛けていただいたことをきっかけに、暮らしをプロデュースする商品の第1弾として、並べるだけで南三陸杉無垢材のフローリングを堪能することができる「ひだまりタイル」や、リモートワーク・オンライン商談/書斎として、南三陸杉に囲まれ癒されながら集中できる個室空間「ネスト」の開発に挑みました。大学生のインターン3名にも入ってもらい、マーケティングの基礎検討もしてもらいました。

その一連の流れから、なんとなく形が見えてきてはいるんですね。ただ、商品自体にもまだ改良の余地があることも感じていますし、「商品を改良しながら、販売に向けた具体の一手をどう打っていこうか」「本当に市場を拓けるのか」と、可能性と難しさの双方を感じながら、モヤっとしていた今年の3〜4月でした。

そんな時に今回の受け入れについて、コーディネーターの鈴木さんに声を掛けていただき、「もしかしたら何かとっかかりが出来るかもしれない」と思いました。 同時に、先にお話したような状況の中で、これまで社外の方に関わってもらいながら進めてきているものを、自分の力不足がゆえに、形にするところまであと一歩持っていけていないという感覚があったので、今回の副業人材の受入れもそうならなければいいなと思っていたというのが、正直なところですね

――そうした中で、今回複数の外部人材の方と面談をしてみていかがでしたか?

そうですね、その方お一人おひとりが良いとか悪いとかではなく、タイミングが合うかどうかだなと思いました。

当社は先にお話したような状況だったので、今回はとにかく形にできる方に入っていただきたいと思いました。応募いただいた方の中には、アイデアをたくさん出していただけそうな方もいらっしゃって、面談時のお話に私自身共感することも多かったのですが、今回はそうしたところよりもとにかく形にしたかったので、その点を重視しました。人との巡り合いは、本当にタイミングだなと思いました。

毎回のミーティングで新たな視点を得る

―― 実際にプロジェクトが動いてからは、どういった感じで進めてきていますか?

今回入っていただいた方とは、3ヶ月ほどの間に、オンラインでの打合せを9回行いました。加えて、南三陸にも2回来ていただいて、実際に森を見てもらったり、社員に向けて検討の状況を共有いただいたりしました。また、検討商品の部材を作っていただけそうなメーカーが出展する展示会にも同行してもらって、そこからタイアップに向けて具体の企業さんへのコンタクトも進めていただいています。

一連のやり取りを通じて、その方の発想力に驚いています。一見話がポーンと飛んでいくようで、実は全てが繋がっているというか、一つ一つの話にちゃんと理由があって。「なるほどそういった観点で物事を見るのか」という気付きが毎回ありますし、それが次の議論に繋がり、少しずつ形になってきている感覚があります。

議論する中で、「この間、こういったシーンでこんな反応があったな」と日々の暮らしを思い返してみたり、「自分の家族だったらどうかな、あの人だったらどうかな」と人々の暮らしに思いを馳せてみたり、「そういえばあの時の自分もそうだったな」と自分の趣味や生き方を思い返してみたり。“暮らしをプロデュースする”ための検討ができてきている感覚もありますね。 検討を重ねる中で、当初とは少し異なる新しいアイデアも出てきていて、この先も引き続き継続していただきたいと思っています。

企業 – 外部人材 – コーディネーターの三者で歩む、新たな道

――丸平木材さんではこれまでにも、他社や個人事業主、大学生のインターンなど、社外の多様な人材を融合しながら、会社の新しい道を拓いてきていらっしゃいますが、今回の受け入れを通じて起きた変化はありますか?

そうですね。おかげさまで多くの方にお力添えいただきながら今まで進んでくることができています。そうした中で、ここまでみっちりと検討に入っていただくのは今回が初めてですが、改めて今、社外の方に関わってもらう良さをすごく感じています。

以前は、自社が進むために必要なことは自前で用意しなくちゃいけないと思っていましたが、それにはやっぱり時間もかかるし、多種多様な能力を、我々のような規模の企業が全て自分たちで揃えるのはかなり難しい。自社にしかできないこと、例えば製造技術があるとして、それを活かしていくためにも、新しい価値観、発想、経験、コネクション、いろんなものを持った人が必要です。なので、そうした方たちに関わってもらいながら活動を展開していくというのは、これは会社として欠かせないことなんだなと思うようになりました

――今後の社員さんの関わりについてはどういったイメージをお持ちですか?

今は社員1名に検討に入ってもらっています。企画の段階は雲を掴むような感覚が強いですが、とても前向きに意見を出してもらっていると感じています。

次のステップは、プロトタイプを作ってみることになると思いますが、そこに向けてもう少し検討が詰まった段階で、現場(製造)の人たちの力も借りていきたいと思っています。現場のオペレーションに関しては特化した能力を持っている人たちなので。新商品の姿や作り方ができて、そこからいかに効率的にうまくやるかを考える段階になったら、いよいよ本領発揮してくれると思っています。 今考えている商品が社会の役に立つことが見えて、目の前にお客さんがいて、注文があって、納期があって、という、社員のやる気のギアが上がる状況を早くつくりたいですね。

――コーディネーターはどんな存在でしたか?

議論を第三者目線で引き戻してくれるというか、原点に立ち戻る問いかけをしてもらった感覚です。外部人材の方と受け入れ企業の二者で議論をしていると、ついどんどん盛り上がって、時に違う方向に行きそうになることもあると思います。そんな時に交通整理というか、一瞬冷や水をかけてもらうような感じですかね。

「本来何のためだったっけ?」「なぜそこに行くんだっけ?」「本当にそこでいいの?」をもう一回考えてみて、良ければまた話を続ける。そんな問いかけが大事なんだろうなと思いますね。メンターというか、保護者というか(笑)、社員でも、ビジネスパートナーでもない立ち位置で、でも批判しているわけではなく応援してくれているのがわかっているので、ちゃんと客観的に見てもらっている感覚があって非常に助かると思います。 自分もチームの一員として一緒にアイデア出しをするなど、論点や進捗状況のチェックだけじゃなくて、我が事として議論に参加してもらえることもありがたいですね。

起点となるのは、ありのままの問題意識

―― 最後に、副業の受け入れを検討されている企業さんに、一言いただけますか?

そうですね。社外の人材に関わっていただく期間を有効に過ごすためには、自分たちの問題意識を少しでも明確にすることが大切かなと思います。漠然と「どうしたらいいかわからないから、とりあえず頼んでみよう」という感じだと、入ってくださる方も、何にどう関わっていいのか見えづらくて、結果、双方で迷路に入ってしまいやすいかなと思います。外縁部の議論で終わってしまって、結果までたどり着きづらいんですね。

「問題がわからないから問題を浮き彫りにしたい」というのでも良いと思うんです。あるいは、「問題を課題に置き換えたい」というのも一つ、「課題を具現化したい」というのも一つです。要は、現状認識、自分たちの立ち位置がはっきりしていると、より良い時間が過ごせると思います!

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