【家業経営革新プログラム】外部人材はエンジニアでありコーチ。ITの力で大阪の町工場の未来を照らす、アトツギの挑戦

働く人の安全安心」を願い、60年企業の働き方改革と技術伝承を進めたい

大阪でトラック用シートの製造販売を営む「菊地シート工業株式会社」さん。60年以上続く町工場の職人の技術を若手に伝承するために、外部人材のエンジニアとともに生産管理をデジタル化する経営革新プログラムに挑戦されました。
(求人ページはこちら:https://yosomon.jp/project/1701

プログラム参加の感想を、取締役の菊地茉璃子(きくち まりこ)さんに伺いました。

――プログラムに応募した当時の状況と、応募に至った経緯を教えてください。

新型コロナウィルスの感染拡大により、当社も企業活動の縮小を余儀なくされました。会社の将来に対し、漠然とした不安が私の心の中に湧き上がり、同時に自分自身の生き方についても考え直しました。

「このまま、曖昧な気持ちで家業を継いでいいのだろうか。」

そんなことを深く考え、コロナ禍で会社経営と真正面から向き合ったことで家業への想いがいっそう強くなりました。同時に、弊社の製品が物流や工場の現場において、そこで働く人を守っているということにも気づき、創業当時から大切にしている考えである「大切な荷物の安全を願う」を発展させて、「働く人の安全安心を願う」をキーワードにさらに事業を拡大する目標ができました。

しかし、当社では生産性を向上するための生産管理体制の構築に課題を抱えています。当社の強みである「自社で縫製加工から取付・工事まで一貫で作業できること」は、ベテランの職人たちによって成り立っていますが、職人の高齢化が進んでいます。彼らの大切な技術を次世代の若手に伝えていくために、生産管理をデジタル化し、ノウハウを可視化していくために今回のプログラムへの応募を決めました。

――副業の外部人材と面談をしてみて、どのような感想を持ちましたか?

何人かの方と面談をさせていただいて、最終的にご一緒することになった方は、私が担っている業務の全体を理解しようとしてくれました。

最初のミーティングでこのプロジェクトのスケジュールを入念に話し合っただけでなく、「菊地さんは他の案件も沢山管理していらっしゃると思うので、システム関連など私でわかることであればご相談ください」と言ってくれました。実際、技術動画マニュアル、経理のシステム、販売会計の見直し、新規事業なども手掛けており、新規事業提案の伝え方などの悩みどころを相談させてもらっていました。

最初は「外部人材の募集要項に書かれていないことなのに何故気にかけてくれているの?」と思っていましたが、私が担っている業務の全体を理解してくれた上で、このプロジェクトがゴールに向かって進むための気遣いをしてくださっていたんだと理解しました。

――外部人材が参画し、どのようにプロジェクトが進んでいきましたか?

プロジェクトの本題である生産管理システムの構築では、ウォーターフォールモデルというシステム開発で使われるフレームワークを教えていただきました。このフレームワークを使って、細かく順序を守って開発を進めました。おかげであとから欲しい機能が増えたときに後戻りして機能を追加出来たり、テレワークで離れた場所で仕事をしているなかでも要求や進捗が見える化できたのは良かったです。

システム開発の具体例をご紹介します。実際にシステムを使ってデータを見るのは事務と生産担当の社員なのですが、当然業務上の役割が違うので見る画面も必要な情報も異なります。最初はデータが表示される画面がぐちゃぐちゃだったのが、それぞれのユーザーがデータを見やすいように変えていきました。外部人材の方は「ユーザー(社員)視点でどのようにシステムを設計すればよいか」を、ご自身の失敗経験も交えながら助言してくれました。

最後に、これは家業あるあるなのですが、私が様々な役割を兼務しており、打ち合わせのタイミングでやるべきことが出来ていない場面も正直ありました。そうした時、外部人材の方は私の全体的なスケジュールがなぜ詰まっているのかを一緒に分析してくれ、日々起きている問題にうまく対応する方法を考えるために相談に乗ってくれました。まるで、コーチのようにもサポートしてくださっていましたね。

――今回のプログラムを通じて、自社とご自身について、どのような変化がありましたか?

大企業出身の外部人材の方には、私の中小企業経営に関する話をよく聴いていただいていたのですが、「大企業でもそういう問題はよくある」といった形でコメントをくれたり、私も「ああ、大企業ってそうやって仕事するんだ」という学びがあり、異業種交流をしているようでした。

プロジェクトそのものの話でいうと、外部人材の方には社員に会ってもらうことなく裏方およびコーチ役に徹していただき、私が社員へのヒアリングを全て行ってシステム構築をやり切りました。現場のニーズにもとづいて必要とされるものをつくるためには、外部のプロに丸投げではせっかくの新しいシステムも浸透していかないと思います。社内の浸透のためにも、私が社員を巻き込んで主導する形でつくりあげられたのは良かったです。

実際に開発していくなかで、社員が個々人の担当範囲よりも大きな視点から業務を考えてシステムややり方を提案してくれました。外部人材の方に入ってもらっていることを社員にきちんと共有したり、並行して5S活動もやっていたため、新しい動きの浸透が非常に速いと感じました。

最後に、コロナ禍でテレワークになり、チームワークが取れていない時期にプロジェクトマネジメントを教えてもらったのは自分にとっても会社にとってもプラスになりました。例えば、まずは自分たちで「何が必要なのか」の要求をがっと書き出してみる大切さ。本来kintoneのようなツールはプログラミングの知識がなくてもシステムを作れるのが特徴のはずなのにシステムが出来ていないのは、ヒアリングが足りていなかったり、進め方そのものをわかっていないから。そこに、「わかっている人」が入ってきてくれた。専門知識だけでなく「私たちに合ったプロジェクトの進め方」を教えてもらったことは、思わぬ副次効果でした。

――今後の展望について教えてください。

今までやってきたことをまとめて、レポートみたいなものを作ろうと思っています。違うプロジェクトにも使えるし、おこがましいかも知れないですが、同じような規模感でシステムを入れようとしている会社さんにも参考になるかも知れないと思っています。

企業理念として、現場用品をつくっている会社として「技術者が働く現場を守りたい」と思っているので、私にできる理念浸透の一貫として、外部に活かせるものをつくりたいですね。それで残業時間が減ったり生産効率が上がれば働き方改革にもつながるし、何よりもメインテーマの技術伝承が出来るようになるので、今後会社を継続させていく上でも必要だし、技術経営にかかわることに取り組んでいきたいと思っています。

■家業経営革新プログラムの概要・その他の事例記事はこちらから
https://kagyoinnovationlabo.com/about/keieikakushin/