【家業経営革新プログラム】地方ガソリンスタンドの生き残りをかけた新事業「地域商社」部門の推進を外部人材と共に

森本石油の森本さんは、地方のフルサービスガソリンスタンドを経営しながら、仲間と共に地域資源を活かした商品開発を展開したり、それを売るための会社をつくったり、、、と精力的に地域づくり活動を展開されてきました。 副業人材(オンライン)とインターン(現地)を同時に受け入れるという新しい取組みをふりかえって、年末の押し迫ったときに、インタビューをさせていただきました。

外部人材の活用と経営相談ができる場として、とても魅力的に感じた

――プログラムに応募したきっかけを教えてください

今回、地元の信用金庫とまちづくり会社が連携して行う「ローカルビジネスゼミTANOMOSHI」に参画したことがきっかけで、家業イノベーション・ラボにも応募することになりました。

TANOMOSHIでは、能登の企業がNDAを結んで、経営状況も見せ合いながら経営相談をする定例会が月に1回という頻度で行われますが、その中で弊社で取り組んでいるような取組みを地域商社と呼ぶことを知りました。私が本業の片手間でやってきたことなので、それほど売上も上がっていませんでしたが、長期的にガソリンスタンドの経営を考えたときに、これが新規事業の柱になるかもしれないという仮説が見えてきました。TANOMOSHIの中でも森本石油の将来を考えていったときに、私の次の後継者を探していくことも実は課題だという指摘を受けていました。 そこで、現在あるアイテムをきちんとマーケティングしていくということに向き合うために、外部人材を起用してはどうかという提案をいただきました。家業イノベーション・ラボというものがあると知って、全国の家業を営む方々との出会いも期待して、応募しました。

――応募内容を固めるときに、相当ディスカッションしましたね

はい。もともと、森本石油を継いだときから、地域のお客様に支えられてきたお店です。ガソリンスタンドのお客様は、一次産業の担い手であったり、地元の事業主であったりするので、自然とここには情報が集まります。「能登牡蠣ブラックカレー」なども、もともとは、穴水町の特産品である牡蠣の養殖業者さんとの中で生まれた商品です。

しかし、この地域も御多分に漏れず、人口減少と高齢化にあって購買力は低下。地域の中だけで経済を回していくには限界があります。ガソリンスタンドは、車社会の田舎にあってはインフラに近い存在。いまは、森本石油という屋台骨があるから、地域商品の開発を趣味の延長のような形でやれていますが、いずれ地域商社事業が森本石油を支える時代になっていくのではないか?そのためには、地域の商圏に縛られずに外貨を稼げる商品として地域商社機能をより強めていく必要があるのではないか、と考えました。

とはいえ、地域商社部門は社長が一人でまわしつつ、森本石油の社員が発送作業等を手伝ってくれているという状態。本格的にマーケティングを実施するには、とても手が足りないというのが実情でした。そこで、外部人材の活用と経営相談ができる場として、家業イノベーション・ラボは、とても魅力的に感じたのです。

東京での商談会に挑戦

―― 外部人材とプロジェクトを進めてみて、感じたことはありますか?

オンラインでの副業人材と現地で活動するインターンの2名を採用しました。面談のときには、正直、どういう方が良いのか、やってみないと分からないというのが本音でしたね。

実際、インターン生のKくんとは、たびたび価値観の違いを体感しました。途中で、性格診断のようなものをお互いにやったのですが、私と彼の性格が見事に逆で、お互いに納得したことがありました。「あ、だから合わないんですね」と。 お互いの「あたりまえ」が違うので、そこをすり合わせていくために、かなりエネルギーがかかりました。そこを改めて説明しなければいけないのか、この言い方では伝わらないのか、など。今まで、いかに説明せずにスタッフに汲み取ってもらっていたのか、再発見しましたし、人を育てることの難しさも痛感した次第です。

――これまでも、森本石油には社員以外の方々が関わっていましたか?

不思議と「私のブログを見た」などの理由でプロボノ的に関わってくれる方はいらっしゃいまして、ホテルマンという自分の仕事を休んで、こんな田舎のガソリンスタンドを手伝いに来てくれるような方もいるのです。

――それは、森本さんがこれまでも発信し続けてきたからですよね

そうだと、いいのですが。

――実際にプロジェクトが動き出してから、どんな風に進んでいきましたか?

副業として関わってくれた玄さんが全体をマネジメントする形で、定例ミーティングを毎週実施しました。まず、zoomで時間を決めて会議をするということ自体、TANOMOSHIや家業イノベーション・ラボに参画して、初めてやったという感じです。

定期ミーティングでToDoを確認して、前回からの進捗を報告して、相談して、また次のミーティングまでのToDoを確認するということを繰り返しました。途中、東京への商談会や展示会などもあったのですが、私ひとりでは行く決心はつきませんでしたが、今回、玄さんや久温くんがいてくれたので、一緒に珍道中で行ってくることができました。

――具体的には、どんな成果が?

クリエイトとして、どういう商品を展開していきたいか?という戦略が固まったことです。これまで、なんとなくご縁で開発してきたものの中に、私の想いが入っているわけですが、これを言語化することができたこと。

目に見える成果としては、Instagramを新規で開設しました。インターン生が発信してくれたことが認知向上につながっています。これまでも、メディアに取り上げられることは多かったのですが、それが売上にまでつながっていなかったので、受け皿を整備したという状況です。

また、東京での商談会に挑戦したことで、新規の販路が開拓できたこと。個別の営業活動として、副業人材からの人脈で、料理研究家の皆さんと繋がれたこと。あと、社員に対しても良い緊張感が生まれたのではないかと思います。取り組み内容が新聞に取り上げられたりもしたので、社長が面白いことをやっているな、という期待感が生まれたように思います。

――逆にうまくいかなかったことや、課題はありましたか?

もう少し「売る」ということに注力をして、人がいる間にやりきりたかったです。これも、仮説を具体化するときに、自分の想いを伝えられなかったり、具体的な指示が出せなかったりした結果です。

プロボノ人材が後継者として立候補

――今回のプログラムを通じて、森本さん自身、どんな風に変化しましたか?

あらためて、数字や経営に向き合う必要があると感じました。経営者としての時間の使い方や物事を後回しにしてしまう悪い癖は、直していかねばならないと思いました。経営に充てる時間を持つために、今後の時間の使い方を変える決意ができました。

また、人材についても、これまでは必要性を感じていませんでしたが、副業社員やインターン生がいてくれたことで、展示会に参加することが実現して、それが成果にもつながっているので、今後も人材を活用して自社の事業を伸ばしていきたいと思えるようになりました。

あとですね、自社の強みにも気づきました。商品開発で出会った人たちから、次の商品の相談を受けるなど、商品開発サポートは私自身やっていても楽しいし、実際にサポート費などもそれなりの売上になっています。この商品開発サポートが新しい業務分野として見えてきたことが大きいかな、と思っています。

次の仮説として、ENEOSネットワークで、ローカルのガソリンスタンドが弊社のように地元の資源を商品化していくことによって、田舎のインフラとしてのGS機能を残しつつ、その地域の付加価値を上げていけるという、新しい方向性が見えました。連携してくれる他地域のガソリンスタンドがあれば、ぜひ、出会いたいです。

――今後の展望は?

実は、先日の家業イノベーション・ラボの望年会では、お話ししたのですが、たびたび弊社にプロボノとして手伝いに来てくれていた方が、後継者として立候補してくれたんです。

――え?!それはビッグニュースじゃないですか!

はい。まだ、確信は持てていないのですが、次の後継者候補が見えたことで、私自身も経営に向き合う覚悟ができました。インターン生がいた後半のときに、同時に参加してくれたのですが、このように外部人材と一緒にプロジェクトを進めている様子を見て、彼も新しい働き方や挑戦に前向きな職場だと感じてくれたようで。

――なんと、それは良かったですね!

ありがとうございます。

――コーディネーターから見た変化

コーディネーターから見ていても、ガソリンスタンドが地域の拠点として、地域住民の居場所として機能しつつ、地域の外へも魅力を発信していけるような気がします。森本さん自身、起こった出来事を相手の責任にせずに、よい関係性になるためにはどのように振る舞えばよいのか、苦心されながら人を育てる力をつけていらっしゃるな、、、と感じました。

■家業経営革新プログラムの概要・その他の事例記事はこちらから
https://kagyoinnovationlabo.com/about/keieikakushin/